面接官が採用で恐れていること
就活の誤解(4)
6月1日以降、公式に企業が一斉に面接での選考を開始し、多くの学生が、すでに1つ以上の「内々定」を受けとっているようです。しかし他方で、まだ内々定の通知を手にしておらず、次々と就活戦線から離れていく友人たちをみて、焦りや不安、苛立ちを募らせている人もいるでしょう。
面接に通る、通らない理由には実にさまざまなものがありますので、「こうすれば面接に通りやすい」と一概にはいえません。今回は、そうした研究が明らかにする面接の「誤解」と、実際の面接にどう応用すればよいのかというアドバイスをしたいと思います。
面接は、日本でも欧米でも、採用選考の基本です。世界の産業・組織心理学では、すでに1920年代から研究されてきた最重要課題なのです。そうした研究から、企業で採用されている面接にはたくさんの問題があること、そしてそうした問題によって、「求職者の適性や能力を評価する」という本来の役割がうまく機能しなくなっているケースが多いことがわかっています。以下、面接の3つの大きな誤解について紹介しておきましょう。
面接は最初の4分で決まる
(1)「面接とは言葉と言葉のコミュニケーションだ」
面接研究は言葉と言葉のコミュニケーションだと思われがちですが、実際には、求職者の「身振り」「アイコンタクト」「表情」「服装」「化粧」のように本来の採用基準ではない部分が、面接官の評価に影響を与えることがわかっています。きちんとした服装を着て、面接官の目をしっかりと見て、手振りを使って熱っぽく語りかける人は、全く同じことを発言していても、それだけで高い評価を受けます。就活では身なりやふるまい、表情に気をつけるように言われますが、その効果は研究でも既に実証済です。
(2)「面接官はあなたのことをじっくり見ている」
日本企業の場合、一回の面接時間はおよそ20分から50分ほどとされています。ただ、海外の研究では、たとえ全体では数十分の面接であっても、ほとんどの面接官が開始からたった4分の間に採用/非採用の決定を下してしまっていることがわかっています。その後の時間は、自分の判断が正しかったかどうかを確認するために、質問したりその反応を観察したりします。私自身、複数の日本企業で全く同じことが起こっていることを確認しています。
確かに、私たちは初対面の人と出会ったとき、その人のあいさつの仕方や目線や仕草などによって、「感じのいい人だ」とか「自分とは合わなさそうだ」と判断しがちです。つまり面接では、第一印象の良い、他人から見て「良さ」の分かりやすい人の方が、そうでない人よりもはるかに有利になってしまうのです。この第一印象を覆すのは容易ではありません。
(3)「面接は加点方式」「人より秀でた"一芸"が効く」
最後の誤解は、採点のあり方についてです。日本企業、とくに社員を長期間雇用することを重視する企業の採用担当者は、誤って「優秀な人材を不採用にしてしまう」ことよりも、誤って「優秀でない人、あるいは自社にとって好ましくないような人を採用してしまう」ことを恐れる傾向があることがわかっています。
そうなると、面接における評価がどうしても「減点方式」に偏りがちです。「ある分野でとても優れた能力を持っているが、いくつか些細な欠点をもった人材」よりも、「とくに目立つ能力はないが、全てにおいてそこそこの能力を持った人材」の方が、高く評価されることになります。企業にとって本当に必要なのはどちらかという疑問は残りますが......。
面接で人物はわからない、けれど......
とはいえ、日本企業の多くが面接中心の採用活動をしている以上、「面接に問題がある」と主張しても仕方ないですね。では、どのように面接に臨めばよいのでしょうか。
まず第1に、面接では、あなたの言葉だけでなく、言葉以外の要素が評価されます。面接の目的は、学生が職務に耐えられる能力があるか、情緒が安定しているか、社風に順応できそうかなどを、学生の言葉から判断するはずですが、実際はそうなっていないと述べました。
ただ幸いなことに、相手に好印象を持たれる「身振り」「アイコンタクト」「表情」「服装」「化粧」というのはいずれも、決して生まれつきのものではなく、本人の努力とちょっとした工夫によってかなりの程度改善できるものです。
たとえばよく知られている中で効果の高いことが検証されているポイントの1つは、アイコンタクトです。面接に限らず、他人の目を見て話すのが苦手な人は、相手の眉間あたりを眺めることで、実際にあなたは相手の目を見ていないにもかかわらず、相手からは、あなたが自分のことをまっすぐに見つめているように見えてしまうのです。面接のマニュアルなどでよく紹介されるので、聞いたことがあるかもしれません。
このようにコミュニケーションのコツは、実はほんの些細なことが多いのです。マニュアル本を読むだけでなく、身の回りにいる「人に好感をもたれやすい人」の行動をじっくりと観察してみてください。そういう人たちの「人受けの良さ」が、実はその人のちょっとした努力と工夫による違いであることに気づくはずです。
第2に、「第一印象が大事」ということは、求職者は、面接開始の早い段階で面接官の印象に残るような工夫をしなければならないということです。みなさんの中には、初対面の人とでも堂々と話をすることができ、相手に対して自分の魅力を雄弁に語ることができる人がいるかもしれませんが、初めのうちは緊張してしまったり、相手に気を使ってしまったりして、なかなか自分の良さを相手に伝えられない人もいることでしょう。ところが海外の研究によれば、企業で行われる実際の面接は、このような「しり上がりに調子が出てくるタイプ」の求職者にとって、極めて不利なものになっているのです。
といっても、面接官に自分を印象付けたいあまりに奇抜な発言をすると、相手に「変な人ではないか」という警戒感を抱かせてしまい、「減点」の対象になりかねません。狙いすぎず、自分の心に浮かんだ素直な言葉、借り物ではない自分自身の言葉を用いるということです。百戦錬磨の面接官は、当たり障りのない、使い古された表現に飽き飽きしています。たとえ洗練されていない言葉でも、自分自身の言葉で表現すべきです。志望理由や自己アピールが、面接官に「またか」と思われる表現がないか、もう一度見直してみましょう。
今の日本企業の採用は面接一辺倒ですが、面接は決して万能の判断方法ではありません。人が人を評価するわけですから、そこにはたくさんのエラーや偏りが発生しうるのです。また面接でわかるのは、人間のほんの一部でしかありません。面接で落とされると確かに落ち込みますが、面接で判断されるのはあなたという人間のほんの一面の印象だけで、全人格が否定されたわけではありません。できるだけ早く気分を切り替えて、前に進みましょう。
1980年神奈川県生まれ。滋賀大学経済学部情報管理学科専任講師、准教授を経て、現在は横浜国立大学大学院国際社会科学研究院准教授。専門は経営行動科学・組織行動論。科学的手法を取り入れて企業と人材のミスマッチを防ぎ、企業と学生双方にとってハッピーな採用を目指す「採用学」を提唱し、企業や学生とも共同で研究・活動を進めている。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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