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[ liberal arts-大学生の常識 ]

おいしい牛肉のランク
「A」は味には無関係

おいしい牛肉のランク「A」は味には無関係

 「A5の和牛限定」といった宣伝文句を見ることがある。霜降りでうまそうだが高い。A5はよく聞くのだがB3とかC1とかもあるのだろうか。調べてみると色々なことがわかった。いや、正確には「よくわからない」ということがわかった。

 まず驚いたのが、食肉に関する業界団体が50以上もあること。日本食肉格付協会という団体を見つけ、訪ねた。

 「うちは味に関しては一切コメントできませんからね」。案内役の神山洋主任はのっけからそう強調した。A5とは15種類に分けた牛肉の格付けで最も上位で、最低はC1。しかし「おいしさは判定基準に含まれていない」のだ。

 では何を判定しているのか。A、B、Cは皮や内臓を取り去った枝肉から、商品になる部分がどれだけ取れるかを示す。72以上だとAで、69未満ならC。つまり取引業者にとっては大事だが、消費者にはほとんど意味がない。

1~5の数字は霜降り程度示す

 次に1から5の数字だが、こちらは消費者にとっても少し意味がある。(1)霜降りの程度(2)肉の色つや(3)締まりときめ細かさ(4)脂肪の色つやと質――の4項目を見た目で判定する。霜降りがほとんどなければ1、とても多ければ5だ。霜降り好きの人は4か5を選べば間違いはない。

 実際の店頭での表示はどうか。東京都内の百貨店5店とスーパー10店の計15店の精肉売り場を回った。12店では牛肉の等級表示なし。残る3店舗では「黒毛和牛シチュー用(5等級)」などの品を見つけた。「岐阜県産 最上級5等級」という表示とともに、店内にアナウンスを流すスーパーもあった。店によってかなり違いがあるようだ。

 等級表示をしていない店の担当者に理由を尋ねると、「5等級以外はセールスポイントにならないし、いつも5等級の品が入るわけではない」「4~5等級は値段も高くなるので売れ筋とは言えない」などの返事が返ってきた。

 4~5等級は大半が和牛種だ。国内の肉牛は和牛と国産牛が半々。国産牛のうちホルスタイン種などの乳牛(去勢された雄)が全体の約3割、乳牛の雌と和牛の雄を交配した交雑牛が約2割。乳牛の値段は和牛のほぼ半分だ。雌牛の大半は処女牛で、お産をした牛の多くはC1~2としてひき肉などになるそうだ。

 「格付けは全国で同じ品質の肉を同じ価格で売るための物差しで、流通業者のためのルール」(神山氏)だ。

 消費者向けには、価格ラベルに個体識別番号という10桁の数字が付いている。いくつかの店で肉の格付けがわかるか聞くと、「この番号をパソコンで検索すればわかります」と返ってきた。ところが、これは勘違い。個体識別番号を検索してみたところ、わかったのは牛の生年月日と雌雄の別、飼育場所など。格付け情報は含まれていない。

煮込む料理用なら3で十分おいしい

 格付けの差は味の違いに反映しないのか。確かめてみたい。香川県産B3とある交雑牛のスネ肉(100グラム550円)でカレーを作ってみた。1時間半ほど煮込むと、ほどよく柔らかくなった。食べるとカレー全体に肉の脂のうまみが染みている感じがする。

 さらに、山形牛の5等級(同グラム580円)と島根県産3等級(同480円)の2つの肉を使ってビーフシチューを作った。肉質の違いがまったくわからない。カレーやシチューは、じっくり煮込めば3等級で十分だと思う。

 すき焼きはどうか。A5松阪牛を買ってみた。肩ロースだが、100グラムで2500円もする。見た目の美しさもさることながら、脂のうまみが鍋全体に広がった気がする。

 食べ比べるために、100グラム246円「アメリカ産牛バラ丼用切り落とし」を試してみた。輸入牛には格付けはない。肉質は硬めだが味は悪くない。おもしろいのは松阪牛に付いていた牛脂を入れると、味が良くなったことだ。

 流通や店舗経営を手掛ける肉のプロ、植村光一郎・ミートコンパニオン(東京・立川)常務の解説を聞きながら、立川市の焼肉店「DANRAN亭」で、4等級と3等級のロースを食べ比べた。4等級は脂が甘く柔らかい。脂が少し少ない3等級は味がやや濃く、かみ応えがある。だが、うまさの優劣は付けがたい。

 「焼き肉やステーキは5等級だと脂がしつこく感じ、3~4等級の方がおいしく感じる」そうだ。5等級向けは「すき焼きやしゃぶしゃぶなど野菜と一緒に食べる鍋料理。上質の脂が野菜に染みて全体がおいしくなる」という。

 格付けは味の観点ではあくまで参考程度。「業者向け等級より、いろんな料理で食べ比べて、自分の舌に合う独自の格付けを持てば、牛肉との付き合いはもっと楽しくなる」と植村さんは話す。結局はおいしさは「自分の舌責任」という言葉が浮かんできた。

記者のつぶやき
格付け、一体誰のため
 「特A」の最高級ブランドが最近乱立気味のコメの格付けは食味で決まる。「金賞」が最高とされる日本酒の鑑評会も利き酒で争う味のコンテストだ。牛肉の格付けはどうもこれらと混同されている。牛肉は酒やコメと違い、一般に味付けをして食べるため、肉そのものの食味ランキングは向いていないのだろう。それにしても気掛かりなのは、コメも和牛も高級格付け品が増えているのに農家は苦境にあることだ。本来、品質や味覚の向上を促し、需要を喚起して農家の収入増をもたらすはずの格付けが、うまく機能していない。その原因は何なのか。とても気になる。

(大久保潤)[日経プラスワン2016年5月28日付、日経電子版から転載]

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