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僕ら流・社会の変え方(16)18歳が日本の「議論文化」を作る時代に

横尾俊成 authored by 横尾俊成NPO法人グリーンバード代表/港区議会議員(無所属)
僕ら流・社会の変え方(16) 18歳が日本の「議論文化」を作る時代に

 参議院議員選挙の投票日が、いよいよ7月10日に迫ってきました。若者と政治の文脈でいうと、メディアでは「18歳選挙権」に関する報道がよく取り上げられていますが、そんな中、全国各地で取り組まれている新しい政治教育のあり方にも注目が集まっています。

 22歳以下の若者で運営されているNPO法人「僕らの一歩が日本を変える。」(参照「僕らの地域のつくりかた(1)」)が提供する「票育」もそのひとつ。「票育」とは、中学校や高校に地元の大学生が出張授業を行うプログラムで、都内をはじめ全国のおよそ30カ所で実施されています。授業を受ける生徒は、自分たちのまちの課題やその課題の解決策について、TwitterやLINEなど日頃慣れ親しんだツールを使いつつ、ディスカッションを通じて考えます。

 まちの財政や防災からポイ捨てやホームレスに関する問題に至るまで、生徒にとって身近な問題を、地元の大学生と共に考えることで、社会問題に主体的に関わっていく方法を経験することができます。NPOとしては、問題をいたずらに単純化するのではなく、それぞれの問題の背景や原因、それに複数ある解決策のメリットやデメリットを丁寧に考え、伝えることがポイント。教える側の大学生がまず社会課題を理解する際には、まちを何度も歩き、そこに住む人からいろいろな話を聞くなど、入念な情報収集が欠かせないそうです。

自分ごと化できない若者たち

 ではなぜ、今このような政治教育が注目されつつあるのでしょうか。ひとつには「18歳選挙権」が導入され、新たに加わった240万人の有権者から「投票の際、どのように判断すれば良いかわからない」という声が多数聞こえてきており、教員側がその声に応えきれていないことが影響していると思います。その背景には、これまで学校などで教えられてきた「政治」では、世の中にどんな論点があり、これからどんなことを考えなければならないのかについて語られてこなかったことがあります。メディアの報道にしても、様々な社会や政治の議論をあまりにも単純化してワイドショー的に捉えているため、若者にとっては自分ごと化できず、いまいちピンとこなかったのではないのでしょうか。

 参議院議員選挙に関する報道についても、提示されているのは「憲法改正の是非」や「アベノミクスの是非」「若者向け施策の充実」など、シンプルで分かりやすい論点ばかり。でも、本当は、各党が訴えている若者向けの政策にしても、一見どの政党も同じようなことをいっているようで、その立場に大きな開きがあります。大まかにとらえてしまえば、どの政党も若者向けの政策の実施に意欲的です。しかし、奨学金や被選挙権を取得する年齢に関して、各政党がとっている立場は全く違うのです。そこには各政党の基本的な考え方などが反映されているのですが、そうした細かい話がメディアに取り上げられることはありません。

 思えば、これまでも「郵政民営化に賛成か、反対か」や「大阪都構想に賛成か、反対か」など、政治やメディアはできるだけ単純化された争点をつくり出し、有権者に手軽に判断する環境をつくってきたと思います。そして僕たちも、政策集を読んだり、政治家に意見を聞いたりすることなく、つまり情報収集をあまりすることなく、さっさと投票してしまおうとする傾向にあったように思います。こうしたことが結果的に、今の多くの人の「政治離れ」の状況を生み出してきてしまったように思います。なぜなら、他の誰かによって提示される論点はどうしても大きなくくりの話ばかりで、自分の生活とは一見「関係ない」と感じてしまうものだからです。また、政治家は選挙の前に有権者にざっくりと「耳触りのいいこと」を語る傾向にあり、詳細をよく見てみなければ、どの政治家も同じだと思わせてしまうからです。

 政治や社会の課題をつきつめて考えることをせず、周りの雰囲気になんとなく流されて投票してしまう結果、個々の問題は「わからない」まま放っておかれます。「わからない」から面白くないし、友だちと話しても盛り上がらない。そしてだんだん政治は日常的な話題から姿を消していくのです。その結果が、ついつい「気持ちが緩んで」、汚職やルール違反をしてしまう政治家など、自分たちが望まないような政治を生むことにもつながってしまっているかもしれません。

日本に議論の文化を生んでいく

 では、どうすればいいのか。それには、大変だけど地道に、先ほどのような「政治教育」などで、日本に調べる文化と議論の文化を生んでいくしかありません。

 ちなみに、僕もその一助になれば、と今回、私は博報堂時代の先輩・上木原弘修さんと、上記で紹介した「僕らの一歩が日本を変える。」代表の後藤寛勝くんとともに『18歳からの選択』という本を書きました。

 この本では、結婚・子育てから世代間格差・高齢化、テロや戦争、憲法、LGBT、AI、宇宙開発に至るまで、10年後、20年後の未来を見据えながら、そのために今どのようなことを考えなければならず、また世の中ではどのような議論が、どんな風に議論されているかということをなるべくフラットに解説しました。政治が自分の生活とどうつながっているのかを示しただけでなく、高校生・大学生にとって今後の進路やキャリアデザインにも役立つ情報や選択肢もたくさん示したつもりです。

 社会には、一筋縄では理解しがたい様々な課題があります。その背景や原因、また沢山ある解決策のメリットやデメリットを考える行為は、一見、途方もないように感じるかもしれません。しかし、難しいことをシンプルに、簡単に考えようとしすぎた結果、問題の本質やあまり表に出てこない問題点を見落としてしまっていて、その結果、自分たちが将来不利益を被るようなことがあるのだとしたら悔しいし、本当は楽しい議論の機会を逸しているのはもったいない!

 だから、「難しいことを難しいまま考える」ことから逃げず、真正面から向き合う訓練をすることが大切。日本に議論の文化を生み出すことができれば、長期的に考えて、日本が抱えるたくさんの課題を解決していくことにつながるはずです。