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[ liberal arts-大学生の常識 ]

デジタル社会の光と影(20)大企業とベンチャー、どちらで働いても必要なものとは?

小川和也 authored by 小川和也アントレプレナー、フューチャリスト
デジタル社会の光と影(20) 大企業とベンチャー、どちらで働いても必要なものとは?

 大企業かベンチャーか。

 就職先選びの基準は実に様々だが、この2択論にはよく出くわす。大学卒業後は大企業に入社して8年勤務、その後ベンチャー起業家として12年が経過した。僕が両方とも一定期間経験していることで、この2択論について両サイドから見解を尋ねられることは多い。

 大企業もベンチャーも無数にあるし、その内容もひと括りにはできない。そこで働く人の個性も多種多様なのだから、正解か不正解で語ることはまずしない。

進捗や意思決定が遅い大企業

 それでもあえて、各々に"ありがち"な現象ということで言えば、大企業の中で業務を遂行する場合、進捗や意思決定が遅く、成果にするまでに必要以上に時間を要することは多い。結果的に成果に結びつけばまだ良しで、突然ポシャったりすることは数知れずだ。何しろ、筋道、あるべき論だけでは物事が進まない。生真面目で、正論にこだわる人ほど強くストレスを感じる要素であろう。

 それは大企業という概念自体の問題ではない。利害関係者が多く、組織が複雑であることの弊害だ。これは数十人規模のサークルでもあり得ることだし、国家規模になればなおさらだ。個々で立場も考えも違う人が集積する大世帯がゆえに無理もないとも言え、大企業で働くことの宿命でもある。

 個人的には、大企業におけるその弊害こそが自分のトレーニング材料になったと思っている。一筋縄にはいかない環境の中でも成果を出すためには何が必要かを学ぶ良い機会となったからだ。物は考えようで、大企業での業務遂行上に出くわす特有の壁を乗り越えたり、歪な坂道を走ってこそ鍛えられる部位がある。

ヒト、モノ、カネ、情報などの経営資源が乏しいベンチャー

 それに対して、新技術や新事業でイノベーションを起こすために存在するベンチャー企業においては、意思決定のスピード感、既成概念にとらわれない未来志向こそが肝である。フラットな組織と意思決定スタイルで、大企業では成し遂げにくい創造的で革新的な事業や経営を展開する。大企業の中では、未知なる原石を発見してもスピーディーにダイヤモンドにまで磨き上げることは容易くない。出来上がった主力事業が回っていて、組織も身軽ではない分、組織一丸となって未知なるものに賭けようという力学は働きにくい。

 もちろん、新規事業や新技術開発部門というものが大企業にも存在するが、何らかの事情で変革が急務な状況や、それを将来の会社の中核事業に育てようとたっぷり時間をかけて決められたものが多い。大きく育てられそうな小さな芽を見つけても、タイミングを逸することなく社内で事業化できるほど個人の自由も利かない。目新しくて理解しにくいものへの異物感も持たれやすい。

 大企業におけるそれらの課題に苛まれずに働けるのがベンチャー企業の良さなのだが、こちらの方には別の壁や坂が立ちはだかる。それは大企業からベンチャー企業の世界へシフトした瞬間から誰もが感じることなのだが、ヒト、モノ、カネ、情報などの経営資源の規模が違いすぎて、いくら優れた着眼点やビジネスアイデアを持っていたとしても大きな成果にすることは容易くない。

 経営資源が乏しいところから大きな成果をあげるためには、大企業とは違う特殊な試練と戦うことになる。思いこそが大事といえども、「この事業で世界を変える!」と叫んでみたところで、簡単には変わってくれないのがイノベーションというもの。求められる馬力は尋常ではないが、チーム一丸となってこのジレンマを突破し、イノベーションを起こす醍醐味を味わえるのがベンチャー企業だ。

どちらを選ぶかに正解はない

 このように性質の違う2つの企業体が連携することで、それぞれの良さを補完し合う「大企業×ベンチャー」のような取り組みもよく見られるが、理想論だけで終わってしまうことも少なくない。それだけ性質の差異が大きいということなのだ。

 そのどちらを選ぶかに正解はない。人それぞれ、向き不向きもある。ただし、どちらを選んだとしても共通して大事な考え方がある。それは「オーナーシップ」だ。担当する仕事を自分自身のものであると主体的に捉えて、強い責任感と情熱を持って仕事に取り組む。経営に対する当事者意識、参加意識も必要で、これらがオーナーシップを形成する。

 組織が大きくなればなるほど、「自分だけが評価をされれば良い」「自己保身優先」「会社は会社、同僚は同僚、自分は自分」という考え方のもとで働いている人も少なくない。それが蔓延するといわゆる大企業病に罹患し、企業の成長が危ぶまれることになる。

 このような環境で働くことも自分自身がそのようなマインドで働くことも不毛だし、何しろつまらない。主体性を持てずに、自分ゴト化できない仕事には力も入りにくい。個人も企業も本質からずれ、長い目では成長を遂げられない。短期間ではごまかしが利いても、いずれその病は悪化するからだ。

 大企業かベンチャー企業か。そのどちらを選んでも、「オーナーシップ」を持って働いてみよう。そうすれば、大企業でもベンチャー企業でも真の実力が磨かれ、きっと未来を切り開けるはずだ。