気まずい空気をほぐす会話の技術
やる気スイッチを入れよう(16)
就活のグループディスカッションや授業中のグループワーク、あるいは普段の会話で、発言が止まり、場が凍ってしまう時があります。気まずい雰囲気にいたたまれなくなりますし、議論に対するやる気が失われますよね。こういう時、一体どうすればいいのでしょうか。
雰囲気を作る
グループディスカッションのキーになるのは、実は発言が多い人ではありません。他の人が発言しやすい雰囲気を作る人です。
三橋さん(仮名)という女子学生は雰囲気づくりが非常にうまく、彼女がいるグループはいつも和やかに良い議論をすることができます。ある授業でショッピングモールへの新しい集客方法について議論していた時も、そうでした。リーダーの学生が、「1人1つずつなにかしらアイデアを出していこう。小さいことでも、ありえないようなことでも、全然かまわないから」と声をかけました。
三橋さんは、「ああ、1人1つずつね、小さいことでもね」と応じます。すると、他のメンバーもうなずいて合意ができ、議論が進み始めました。リーダーの隣の学生が、「人が集まるっていう意味では、ベタだけどアイドルとかお笑い芸人とかを呼ぶ、とか?」と言うと、三橋さんが「アイドルとかお笑い芸人ね、うんうん」と応じます。アイデアを出したメンバーは、ホッとしたように笑顔になり、「俺、この前乃木坂46のライブに行ったんだけど、すごかった。あれくらい人が集まったらいいんじゃないかと思うんだけど」と話が広がり始めました。
オウム返しの魔法
三橋さんが使っていたのは、オウム返しという相づちの手法です。相手が発した言葉をそのまま繰り返すのです。たったそれだけなのですが、発言した人にとって、「自分の言葉が受け入れられた」というサインになりますし、グループ全体にとっても、「あなたの言葉を受け入れましたよ」という気持ちを、三橋さんに代弁してもらったことになります。
彼女の発言がなかった場合を想像してみましょう。リーダーの「1人1つずつアイデアを出そう」という発言に対して誰も何も言わず、シーンとしている。リーダーは自分の提案が皆にどう思われたのかわからず不安になり、グループ全体の雰囲気も固くなる。緊張が漂い自由な発想ができずにアイデアも出にくくなる。場が凍っています。
イエスでもノーでもなく、オウム返しというところもミソです。例えば、「いいね、そうしよう」とイエスで応じた場合、「自分はアイデアを持ってないからいやだ」と思っている人は、「なんだそれ」という気持ちになるでしょう。しかし、「1人1つずつね、小さいことでもね」と、別の人の声でもう一度言われることで、「とにかく1つアイデアを言えばいいか」と提案を受け入れやすくなります。
アイドルやお笑い芸人というアイデアについても、オウム返しが受け止めてもらえたという安心感につながり、ライブに行った話をしやすくなりました。
どのキーワードを拾うか、ということも大事なポイントです。アイドル案に対し、「ベタだけどね」というワードをオウム返ししてしまうと、「そうか、やっぱりベタでダメか」と話はしぼんでしまいます。相手が言いたいと思っているポイントを拾いましょう。
まくらことば(枕詞)でハードルを下げる
なかなか発言が出ずに全員が黙ってしまい、第一声を発しにくい場合があります。「変な発言ですべるのが恐い」「バカだと思われたくない」という気持ちがメンバーそれぞれにあり、沈黙が続くという苦痛の状況です。
話の出だしに使う、まくらことば(枕詞)をいくつかもっていると楽です。
★「もし違ってたら、スルーしてほしいんだけど」
★「場違いなことを言ってしまうかもしれないのですが」
★「とんちんかんだったらごめんなさい」
★「これ、私だけかもしれないけど」
等です。
いきなり本題に入ってすべるのはきついのですが、最初からすべることを想定内にしてしまえば、発言の心理的なハードルが下がります。聞く方も、「この人は不安を抱えつつ発言しているんだ」という共感が生まれ、発言を受け止めやすい気持ちになります。
「むちゃ振り」ではない「振り」
そもそも、まくらことばの後に続ける「話の中身」が思いつかない、という場合、別の人に話を振るのもありです。ただし、「○○さん、なんか言ってください」というむちゃ振りでは反発を買ってしまい、「特にないです」等の返答で、余計に場が凍る危険があります。
★「○○さん、さっき映画の話してましたよね。その映画で、このテーマに合うような話ってありませんか。登場人物とかシーンとか」
★「◇◇さんって、野球部ですよね。運動部的な立場から言うとどうですか」
等、相手の今までの発言やふだんの行動などに関連のある、話しやすい話題を振りましょう。
あまりむずかしく考えず、単純に、
★「○○さん、さっきは賛成派でしたけど、この話は賛成ですか?」
と、相手のコメントを繰り返すだけでも、ソフトな振りになります。
オープンクエスチョンとクローズドクエスチョン
「この話はどうですか?」「どう思いますか?」のように、どのようにでも答えられる質問を、オープンクエスチョンと言います。話を広げたいときに便利です。「賛成ですか?」のように、「はい」「いいえ」で答えられるような質問はクローズドクエスチョンです。
話を振るとき、相手が自由に語ってくれそうであれば、オープンクエスチョンが適しています。口数が少なそうな相手だったり、やや話題が難しい場合には、簡単に答えられるクローズドクエスチョンから始めるほうが話しやすいこともあります。
「賛成ですか?」と聞いて、「どちらかと言えば、賛成ですね」等の答えが返ってきたら、そこで「どうしてですか?」とか「理由を聞いてもいいですか?」等のオープンクエスチョンに切り替えます。最初から「どうですか?」と漠然と聞くよりも、スムーズに会話が進むでしょう。
無反応は「拒否」「反対」の意思表示
発言と同じくらい大切なのが、「聞くこと」です。発言している人は1人ですが、聞いているのは複数です。グループの雰囲気を作っているのは、多人数である聞き手です。
発言に対して、うなずきましょう。無反応は、「拒否」「反対」の意思表示と受けとられます。「発言が苦手」という人も、「聞くこと」で議論に参加し、場の雰囲気を作っています。「無反応」によって、発言者のやる気を低下させたり、次に発言しようとしていた人に発言を取りやめさせたり、という事態を引き起こしているかもしれません。うなずくこと、できれば笑顔でうなずくことを意識しましょう。
オウム返し、まくらことば、ソフトな振り、オープン&クローズドクエスチョン、うなずき、いろいろな工夫で凍った会話をほぐしましょう。次のディスカッションや会話が楽しくなり、やる気にスイッチが入ります。
明星大学経済学部特任教授、JTBモチベーションズ ワーク・モチベーション研究所長。筑波大学の博士課程で、組織におけるモチベーションの伝染について研究中。大学ではキャリアや就職支援の講義を担当、企業とのコラボレーションによる講義も実施。JTBモチベーションズでは企業で働く人への研修やコーチング、経営層へのコンサルティングを行う。著書は「やる気が出なくて仕事が嫌になった時読む本」「職場でモテる社会学」「できる人の口ぐせ」等多数。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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