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「元物産会」商社OBが
ITベンチャーの起業支援

「元物産会」商社OBがITベンチャーの起業支援

 三井物産のOBが交流会を通じてビジネスのネットワークを広げる取り組みを進めている。IT(情報技術)ベンチャーの経営者や投資家、コンサルなどが中心で、新規事業の相談にのる場合や出資につながることもある。日本の大手企業は若手の中途退社が少なく大がかりなOB会は珍しい。先に見据えるのが"古巣"との連携だ。

 7月7日、東京・渋谷のダイニングバーに約65人の三井物産OBが集まった。スーツにネクタイが多い商社マンとは違いカジュアルな装いが目立つ。胸には「○○年新卒入社、○○年卒業(退社)」という名札が付けられている。

 会場では「私の挑戦」と題したプレゼンテーションが開かれた。「三井物産という豪華客船から飛び降りるときには、周囲からの反対もあり悩んだ」「起業して商社時代とは違う世界が見えてきた」と、自ら手掛ける事業について熱心に説明していた。「ベンチャーキャピタル(VC)のOBもたくさんいます。ネットワークを広げましょう」。司会者の号令で、懇親会がスタートした。

約250人のOBが集結

三井物産OBによる交流イベント「元物産会」には約250人が所属している(東京・渋谷)

 「元物産会」と名付けられたOBによる交流会は2011年に開始。退社後、日本の買収ファンド業務の草分けといえる産業創成アドバイザリーの代表などを務める阿部敦氏や、インターネットを使った名刺管理サービスのSansanを起業した寺田親弘社長らが運営している。日ごろはフェイスブックなどを使って情報交換するが、年1、2回イベントを開催。紹介を通じてメンバーが増加し現在は、20代~70代まで約250人に達する。

 会の発足に至ったのは、退社後にOB同志でつながる機会がなかったため。日本の大企業は安定を求める人材を中心に退職率が低い。高収入で学生の就職人気の高い総合商社はその代表格ともいえる。リクルートや楽天、グリーなど入退社が活発な企業にはOB会もあるが、大企業は「社友」といわれる定年退職者の集まりが中心だ。

 ただ、若手社員の価値観も変化し商社からも退職して起業する人が増えてきた。阿部氏は「日本の産業構造が急速に変化する中、こうした人材がネットワークをつくり有効活用する場が必要」と話す。

 08年に入社した塩出晴海氏は、三井物産の情報産業本部に所属。米シリコンバレーのハードウエアベンチャーの投資管理や撤退案件の処理などを担当した。その経験を生かし、14年の退社後はパナソニックの出身者と家電ベンチャーのネイチャーを米国で立ち上げた。エアコンやテレビなど家電製品を制御できる小型機器を開発し、クラウドファンディングサイトで事業化に向けた資金100万円をこのほど調達した。塩出氏は「重要な意思決定の際には寺田氏などOBに相談している」と話す。

 OB同志のつながりの先に見据えるのは、三井物産との連携だ。実際に、Sansanの寺田社長が、三井物産に招かれインターネット業界の現状を語る交流会も開かれている。ただ、個人的な縁が多く、会社として公式にOB会と関わったり、退職した人材の情報を共有したりといった取り組みには発展していない。

 コンサルティング大手のマッキンゼー・アンド・カンパニーやリクルートなどは退職者のOB会に参加し、事業連携を積極的に進めている。総合商社のビジネスはトレードから事業投資の比重が高まっている。ただ、入社から定年退職まで同じ部門で勤め上げることが多い"背番号制"と呼ばれる人事制度が根強く、新規事業の立案や投資を成功させる能力を培うには限界がある。

 とりわけ三井物産はあらゆるモノがインターネットにつながる「IoT」やクラウド技術などのIT事業の強化をかかげている。寺田社長は「三井物産には卒業生を応援しているという風土をつくってほしい。それが三井物産の人材求心力につながる」と、物産に協業を呼びかける。「人の三井」と呼ばれる三井物産がOBとの人材交流や事業創出の新たなモデルとなるか。OB会の広がりはその試金石となる。
(企業報道部 花井悠希)[日経電子版2016年7月14日付]

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