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大入り!エンタメ球場
プロ野球、集客アップの秘密

大入り!エンタメ球場プロ野球、集客アップの秘密

 プロ野球は「オワコン」(終わったコンテンツ)じゃない――。観客動員数は昨年、全球団が前の年比でプラス。開幕前に野球賭博問題に揺れた今シーズンもさらに盛り上がりを見せる。ライブ感の演出、飲食やイベントの充実、スマートフォン(スマホ)を駆使した固定客作りなど今どき消費の粋を集めているからだ。法人客に頼れなくなった巨人軍も知恵を絞る各球団の「プロ野球を10倍楽しんでもらうコツ」とは――。

生観戦、一体感の魅力

 カーン。福岡ソフトバンクホークスの本拠地、ヤフオクドーム(福岡市)。乾いた打球音が球場に響き、大飛球が目前にまで迫ってきた。

 外野フェンス前方のシートエリア「ホームランテラス」。知人と足を伸ばしてデッキチェアに座っていた福岡県大野城市の大学生、宇野翔太さん(21)は「外野手を間近に感じられ、迫力あるプレーがやみつきになる」と興奮気味だ。

 ホームランテラスは昨シーズンに設置。今シーズンは1室15人以上から利用可能なビュッフェスタイルの食事付エリアも新設し、法人だけでなく個人客の人気も集める。

福岡ソフトバンクホークスは昨シーズン、外野フェンス前方にホームランテラスを設けた(福岡市)

 「単なる野球の試合でなく、ライブコンサートのようなエンターテイメントを目指す」と球団マーケティング本部の吉武隆本部長。野球の知識がない観客も楽しめる演出に力を入れ、観客の半数を女性が占めるという。

 球場の照明灯を発光ダイオード(LED)に切り替え、暗転をしやすくすることで光の演出を打ち出す。観客が応援グッズ「スターフラッシュ」バンド(税込み950円)を手首に装着すれば、ヒットやホームラン、奪三振の場面ごとに様々なパターンで光を放ち、ドーム全体が盛り上がる。

 選手がバッターボックスに立つ際には大ビジョンの映像に合わせてゲーム感覚でメガホンをたたく。4人の同僚女性らと来場した福岡市の会社員、林苑子さん(33)は「ドーム全体の一体感が楽しい」と語る。ホークスが勝つと花火が上がる。

 埼玉西武ライオンズの本拠地・西武プリンスドーム(埼玉県所沢市)にも昨シーズンにグループ観戦向けのシートが誕生した。靴を脱いで上がり、グランドを一望できる掘りごたつ式のカウンターや寝転がることもできるスペースを備える。

 家族3世代で利用した東京都清瀬市の自営業、野崎憲子さん(55)は「自宅のリビングに居るようにくつろぎながら楽しめる」と話す。

 「これまでと全く違う野球観戦ができる」。東京都文京区の自営業、高村知宏さん(57)は大の巨人ファン。満足そうに話すのは今季から導入されたダイヤモンドシートだ。昨季まで記者席だった東京ドームのバックネット裏上方部を改修。グラウンド全体を一目で見渡せる"特等席"だ。

 読売巨人軍の久保博球団社長は「長嶋(茂雄終身名誉監督)時代が終わり年間チケットが売れなくなった。昔みたいにただ野球を見せるだけではダメ。観戦を楽しんでもらわないとお客さんは来てくれない」と話す。

 オーダー発表のタイミングや試合が進んだ7回、ビジターチームの応援歌も大音量でドームに流れる。応援団の鳴り物が響き、観客は声をからして応援歌を歌う。球場が一体となって熱狂する瞬間だ。これまではビジターチームの演出はしていなかったが「応援団は日本野球特有の文化。東京ドームでしかつくれない一体感を楽しんでほしい」(久保社長)。

観客動員、7球団が過去最高

 昨シーズンの観客動員数はセ・リーグは11年ぶりに1試合の平均入場者数が3万人、パ・リーグも同2万5千人を突破。全12球団が前の年比でプラスとなり、7球団が05年以降で過去最高を記録した。今年の1試合入場者数も6月時点でセ・リーグが前年比5.5%増、パ・リーグが同3.8%増で推移。電通総研の伊東美晃氏は「テレビ中継の減少を背景にリアルを求める傾向が強まってきている」と球場に足を運ぶファン心理を分析する。

 熱いのは試合だけではない。西武は3月、西武プリンスドーム(埼玉県所沢市)内にビアバーを2店舗オープンした。大型モニターも設置し、全米で人気のクラフトビール「ブルームーン」などをスポーツバーのように提供している。

 仕事帰りの東京都立川市の会社員、岡本亜由美さん(34)は、盛り上がる試合をBGMに「球場でブルームーンを飲めるなんて最高」と、同僚と一緒に楽しんでいた。

 横浜DeNAベイスターズはスタジアムの直営店7店舗でオリジナルビール(税込み700円)を販売。今季から販売した若手選手寮で代々のスター候補が食べていた「青星寮カレー」(税込み500円~)は大人気メニューになっている。

 東北楽天ゴールデンイーグルスの球場内外には50店舗以上の飲食店がズラリ。監督、選手プロデュースメニューは44種類と12球団最多だ。スマホアプリで座席から注文できるサービスもある。

 「勝敗に限らずお客さんに来てもらうのが仕事」と話すのはベイスターズ広報・PR部の楠本淳部長。目指すのは球場に来ること自体を楽しんでもらう「コミュニティボールパーク構想」だ。

 11年にDeNAが球団を買収。観客データをとったところ、最も多いのは30~40代の男性サラリーマンだった。そこで、試合終了後にグラウンドでノック体験やキャッチボールのイベントを催し、「野球選手になりたかった」という童心をくすぐり、ビール半額デーも設けた。15年の観客動員数は11年比65%増、公式ファンクラブ会員数も10倍になった。

 さほど野球に関心のない人でも楽しめる仕掛けも多彩だ。楽天Koboスタジアム宮城(仙台市)では、三回表、仙台市の会社員、佐々木貴亮さん(35)が6歳の長女らとともに、観覧車から降りてきた。「試合時間が長い野球に飽きた子供を楽しませてくれるのでありがたい」と話す。

 日本の野球場に初めて登場した観覧車は5月に誕生した「スマイルグリコパーク」の象徴だ。グラウンド全景や市内の町並みを一望。一日で約2千人が乗り、土日には50分待ちという。8月にも回転木馬も登場する。

 パークは公園と一体型になった座席で、左中間後方の芝を中心とした約4千平方メートルの敷地に約7千人を収容。観戦チケットで無料入場できる。

 ソフトバンクは夏に催す「鷹の祭典」でユニホームのレプリカを入場者に配布。球場だけではなく、銀行、コンビニなどの従業員も着用、福岡市内が一色に染まる。「タカガールデー」ではピンクのユニホームとシュシュを女性客に配布する。

 「つばくろうのたゆまぬどりょく」。日経MJが最近のプロ野球の盛り上がりについて、東京ヤクルトスワローズのマスコット・つば九郎に理由を聞いたところ、"ドヤ顔"でこんな一言を寄せてくれた。

 つば九郎は球界随一の人気を誇るマスコットキャラクター。コミカルなしぐさと自由奔放な言動に大歓声が送られ、つば九郎目当てに球場に足を運ぶファンも多い。プロ野球を盛り上げるのはスター選手や好ゲームだけではないと言わんばかりの口ぶりだった。
(宇都宮想、小田浩靖)

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球団・球場、一体運営の流れ

DeNAは横浜スタジアムの運営会社のTOBを実施した

 好調に推移するプロ野球の観客動員数。稼ぐ球団になるための方法の1つは、球団と球場の一体経営だ。

 ソフトバンクの転換点は不動産投資会社から球場を買収した12年。それまでは高額な使用料が重荷になり、赤字続き。球場を所有することで、広告、グッズや飲食の販売などの収益を球団が確保し、施設の改修などの自由度も高まって観客増。15年2月期に27億円の最終黒字と、球界屈指の高収益体質となっている。

 楽天は球場の所有者である宮城県に使用料を支払っているが、すべての収益が球団に入り、参入初年度から黒字だ。

 DeNAは1月、横浜スタジアムの運営会社へのTOB(株式公開買い付け)が成立。それまで運営会社に支払っていた年間チケットの売り上げ13%や球場の看板広告料をグループ会社の収益として取り込める。観客数が伸びても昨年は3億円の赤字だったが、楠本広報・PR部長は「今年は数億円の黒字になりそう」と胸をなで下ろす。

 北海道日本ハムファイターズ(札幌市)も自前の新球場を建設し、大型商業施設やホテル、飲食街などを備え、野球以外も楽しめる米大リーグの「ボールパーク」構想を描いている。
[日経MJから転載、日経電子版2016年7月10日付]

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