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研究者という職業(1)興味の追究が成果につながる

研究者という職業(1) 興味の追究が成果につながる
撮影協力:大東文化大学
authored by 中田亨産業技術総合研究所主任研究員

 「研究者」や「科学者」は、小学生の目には「サッカー選手」と同じように、将来なりたい職業として人気があるようです。頭がよさそうで、かっこいいと思われるのかもしれません。日本人がノーベル賞を受賞すればニュースで大きく取り上げられますから、そのたびに強烈によいイメージが印象に残るのでしょう。

最近は「専門職は雇用が安定している」とか「腕のいい研究者は高収入も」と言われたりもして、ますます人気が高まっているように思えます。

小学生のあこがれの職業?

 確かに研究がうまく進めば、研究者ほど幸せな商売はないでしょう。人類の未だ知らない真理を自分が一番乗りで解き明かし、自分の発明が社会の役に立つというものは気持ちの良い物です。方程式や現象に自分の名前がついたりすると、それこそ歴史に名を残すことになります。私自身は研究所に所属する理系の研究者ですが、文系の研究者でもそのやりがいは同様でしょう。

 ここまで大成功でなくても、知的探求に没頭すること自体が、研究者の醍醐味です。最新の論文を読んで思索にふけったり、実験装置をいじって不思議な現象を観察したりすることはかなり楽しいものです。科学が好きなマニアは自腹で科学雑誌を買ったり、自宅に実験装置を買いそろえたりしますが、職業研究者はそれを他人の金を使って仕事としてできるのです。そして興味を追究し、真実に近づくことが仕事の成果となります。

 研究者は何を研究するかについて、かなりの程度、自分の裁量で決めることができます。仕事の内容を自分で決められるというのは、普通は自営業でなければ無理な自由ですが、研究者なら会社員的な安定した雇用にありながら自営業的な自由を得ることもできます。

 海外出張が多く、しかも訪問地が毎回バラバラというのも、他の職業とは違う点でしょう。普通の企業ではよほど重要な業務がない限り海外出張はしませんし、子会社がある国ばかりだったりと行き先が偏りがちです。研究者は若いうちから国際学会での発表を頻繁にしますから(金があればの話ですが)、当たり前のように外国に出張します。学会開催地は、「米・欧・東アジアで持ち回り」というシステムが多く、「去年シカゴ、今年ベルリン、来年大阪」といったぐあいに、世界のいろいろな街を訪れることができます。

研究者生活は刺激が多い

 研究者の周りには、刺激的な人間が多いという点も見逃せません。研究室のメンバーは「頭がよくて優秀」という共通点で集められていますから、上司にせよ、同僚にせよ、学生諸君にせよ、会話していて賢いことや面白いことを言う人が多いのです。また、大学の研究室の人口比率は若い学生が圧倒的に多く、この高齢化日本では際立って若い職場と言えましょう。

 研究者は大学の先生以外にも、企業での研究開発職というタイプも大勢います。大企業になると研究所を持っていて、研究者が大学のような基礎研究をやる場合もあります。

 大企業ではなくても、今や企業内ベンチャー制度は一般的になっています。将来大化けしそうなテーマを、大ハズレになるリスクは承知の上で、ごく早期の段階から着手して事業化してみるというものです。アイデア勝負の世界ですから、企業内ベンチャーで一旗揚げることは研究者の腕の見せどころでしょう。

 とはいえ、企業での研究者の主な任務は、すでに事業化されていたり、もうすぐ事業化できそうなテーマの研究をして、社内の技術レベルを他社に負けないよう保つということにあると思います。これだけでは創造性の欠ける仕事になりがちなので、企業は大学と共同研究を結んで、自社の研究者を研究室という刺激的な空間に派遣し、視野を広げさせるということもします。

 研究者の価値は「考え方が柔軟であること」にあります。そのため企業は研究者にいろいろな体験をさせて、その能力を高めようとするのです。常に成長し続けることが求められます。この点も、研究者にとっては楽しいことでしょう。

答えが見つからない問題に挑み続ける

 学問は、ちょっとやそっとでは変えることができない過去の蓄積の厚みがあります。この厚みがあるからこそ、人生を打ち込むに足ると言えます。世間には、ネットで検索すれば簡単に答えが見つかる問題ばかりがあふれています。こういった表面的な知識にいくら詳しくなっても、得るものはそれほどないでしょう。

 しかし、学問が「これは古代史の謎である」とか「この技術はまだ実現していない」と宣言しているテーマは、ネットでいくら調べても答えは見つかりません。人に聞いてもわかりません。自分で調べて、考え、やってみるしかないのです。「私はあの問題を解かねばならない」という緊張感を持ち続けるのが、研究者という生き方なのです。

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