自分が見ていた人工知能の世界は、あまりにも狭かった
全脳アーキテクチャ若手の会!(2)
こんにちは。大澤正彦です。最初の連載では、「若手の会ができるまで~その残念すぎる創設理由とは」をお送りしました。今回はあらたな団体を立ち上げると決めた直後に得た、ある学びの話をしようと思います。
1つの視点を決めて、そこからじっくりと未来を見据えると、それはしっかりとした軸になります。しっかりと通った1本の軸は、それに賛同する多くの人を集め、導くものになるはずです。しかし、今の全脳アーキテクチャ若手の会は少し違います。数え切れない視点と軸を持っており、会としてこれと決めた未来もありません。コミュニティとしては少し変っているかもしれませんが、自分たちの良さでもあると思っています。そんな自分たちのスタイルができたのは、この会を作るときに最初にできた仲間との"噛み合わなさ"がきっかけでした。
紹介されて出会った坂井美帆さん
自分でコミュニティを作ると宣言してから数日後のことです。私は全脳アーキテクチャ勉強会の主催者である山川宏先生から、ある方を紹介されました。坂井美帆さんという社会人の女性です。人工知能に関する取り組みに対してとても意欲的な方で、私がやりたいことに協力してくれるというのです。一人でやっていくことに不安を感じていた私にとって、これは大きなチャンスだと思いました。
ピンチはチャンス。そんな言葉をよく聞きます。しかしこのときの場合は逆で、チャンスだと思って飛びついたものが大ピンチの始まりでした。なぜなら紹介された坂井さんと私の話は、まったく噛み合わなかったのです。
何よりそれぞれの興味や、人工知能を見る目が大きく違いました。例えば、私が「人工知能をいかに創るか」を考えているときに、坂井さんは「今ある人工知能の技術をビジネスにどう使うか」を考えていたのです。
2人の差を生み出していたのは、視点の差
今思えば、坂井さんと私は同じ人工知能というフィールドにいるものの、正反対に近い2人でした。私は当時、研究を始めて半年の大学4年生。これから先、研究者として生きていくために必死で勉強していました。私の性格をよくある心理テスト風にいえば、人生で1つくらい大きなことをやり遂げたいと考えているタイプ。ほかでもなく私がやり遂げたいのは、今までなかった新しい人工知能を作り上げることです。私にとっての人工知能は、研究の対象であり、夢でした。
一方、坂井さんは大学院の修士課程修了後、メーカーに勤めて、ビジネスの世界で人工知能に向き合ってきた方です。ずっと先の未来でいつか使われるかもしれない技術よりも、今の社会をよりワクワクするものにしていきたい。そんなことをよく言っていました。だからこそ坂井さんにとっての人工知能は、社会で使われて初めて価値があるものであり、ビジネスの対象でした。
私たちは大きく違う視点で人工知能に向き合っていたのです。同じ「人工知能」というキーワードも、視点が違えばその先に見える未来は大きく違います。特に研究の対象としてみるのと、ビジネスの対象としてみるのとでは、大きな差があることを未だに強く感じます。
悩んだ末出した結論は?
私はこの時、大きな壁を感じていました。1人からたった2人に増えただけで、活動方針も、やりたいと思う企画も、集めたい人材も、まったく一致しないなんて考えてもみませんでした。
一方で、いろいろな人と関わっていけるような団体にしたいとも思っていました。だからこそ、自分があまりイメージしていなかった人工知能の未来があることに愕然としました。こんなことでは、せっかく団体を作っても振り向いてくれるのはほんの一握りになってしまうかもしれないと、焦りを感じていたのかもしれません。
私のような研究の視点を持った人にも、坂井さんのようなビジネスの視点を持った人にも価値を感じてもらえるようになるためにはどうすればよいか。私たちが出した結論は、「両方やる」でした。
チャンスだと思って飛びついたピンチは、自分たちのスタイルになった
今の人工知能の技術や脳についてわかっている知見とじっくり向き合うような勉強会と、ビジネスに人工知能がどう活用できるかを発信するような勉強会。2人で両方やっていく。それが私たちなりのスタイルだったのです。
私たちが扱おうとしているのは、一言でいえば知能。場合によっては私たち自身のことともいえます。きっとこのテーマは、数え切れないほど多くの人が興味を持ちうるテーマです。だからこそ、このコミュニティが脳や人工知能の"いま"を、どんな人にでも届けられるようになれたら、それはすばらしいことだと思います。そのためには「たった1つの視点」「たった1つの軸」ではあまりにも少なすぎました。そこで私たちは自分たちの視点や軸、そしてその先に描く未来を1つから2つにしたのです。
命名、全脳アーキテクチャ若手の会!
それから何度か坂井さんと直接会ってお話しして、うまく話がまとまるようになったころ、坂井さんの提案でFacebookグループを作ることにしました。「Facebookグループの名前決めよう。いろんな分野で『若手の会』ってあるし、とりあえず『全脳アーキテクチャ若手の会』でいいかな。」
坂井さんのこの一言で、今後少なくとも2年間は使うことになる、私たちの会の名前が決まりました。もちろん私たちは、2年後にこの安直に決めた名前のもとに多くの人が集まることも、老若男女が参加する若手の会という矛盾に陥ることも、もはや全脳アーキテクチャという枠組みから抜けてしまうことも、知る由もありませんでした。
2014年8月。全脳アーキテクチャ若手の会はメンバーが1人から2人に増えたものの、やるべきことも2倍に増えました。さて次回はついに本格的に始動した全脳アーキテクチャ若手の会の最初のイベントのことをお話ししたいと思っています。自分たちの今の活動スタイルを作った、大切な、そして二度と味わいたくない1日のお話です。
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