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金や銀を「海底養殖」
資源は掘るから育てる時代に

金や銀を「海底養殖」資源は掘るから育てる時代に

 「熱水」と呼ばれる海底の火山活動を利用して金や銅などの金属を「養殖」しよう、という研究が進んでいる。通常の採掘による方法と比べて環境への悪影響を抑えることができるうえ、鉱石に含まれる有害物質が少なく精錬にかかる手間を省くことも期待できる。金属資源は育てる時代が近いかもしれない。

海底の「湯の花」を人工的に育て、金属資源を採取

 今年の2月、海洋研究開発機構は東京大学などと、海洋調査船「ちきゅう」から沖縄沖の海底に、ある装置を投入した。海底から噴き出す熱水を捉え、そこに含まれている金や銅、亜鉛などの金属を取り出す試験を行うためのものだ。

 日本の近海には石油に代わるエネルギー資源と期待されるメタンハイドレートやレアメタル(希少金属)を含む泥などが見つかり、今後の開発が期待されている。海底から噴き出す熱水が作るチムニーもそうした海底資源のひとつ。アリ塚のような形をしており、陸上の温泉地で見られる湯の花のようなものだ。銅や金、亜鉛などの有用な金属を多く含む。海洋研究開発機構などが沖縄沖に設置した試験装置は、このチムニーを人工的に育てて金属資源を取り出すことが目的だ。

海中に降ろされる金属を養殖する試験装置(海洋研究開発機構提供)

 この実験を始めたきっかけは偶然だった。熱水がわき出すチムニーの周りに集まる海底の生物などを調べるのに、人工的に海底に穴を掘削。そこから熱水を噴き出させたところ、急速にチムニーが成長するのを見つけたのだ。チムニーは1年で7メートルも成長、海洋研究開発機構の野崎達生研究員は「まさか、こんなに成長するとは思わなかった」と振り返る。

 沖縄沖のチムニーは秋田県の山間部などで採掘されていた黒鉱と呼ばれる鉱石に成分が近く、亜鉛をはじめ銅、金、銀などの金属を多く含む。品位は鉱山で採掘されていたものと比べても高い方だという。

 試験装置には、噴き出している熱水の温度や圧力、流量、できた鉱石の重量を計るセンサーが取り付けられている。熱水に溶けている金属の割合も測定可能だ。「まず穴から出てくる熱水の流量をきちんと押さえたい」と野崎研究員は話す。ひとつの穴からどれだけの熱水が噴き出しているのかがはっきりすれば、金属がどのくらいとれるかもわかってくる。

1日1000トンが採算ライン、現状は1年で40トン

 自然に成長したチムニーでは1年に約40トンの鉱石がとれた。しかし鉱山として操業するには1日1000トン程度の規模が必要だという。養殖を経済的に成立させるためには、多くの穴を掘削して効率よく熱水を引き出し、鉱石を育てる必要がある。

海底の熱水噴出口に設置される試験装置(海洋研究開発機構提供)

 人工の海底鉱山ができるのは、高い水圧がかかるために熱水の温度が高く、多くの金属が溶けているためだ。試験装置を設置した沖縄沖の伊平屋北海丘などは、水深が1000メートル程度で、噴き出している熱水の温度はセ氏310度程度。これまでの分析では、含有される金属では亜鉛が最も多く、鉛、銅のほか金や銀も含まれる。

 では、温泉など地上で噴き出す熱水から金属はとれないのか。地上に上がってきた水の温度はセ氏100度まで下がっているため、有用な金属の多くはそれまでに個体として析出して熱水から抜けてしまい、ほとんど含まれていない。

 熱水の温度によって取り出せる金属の種類は変わり、もっと深い場所で温度がセ氏400度くらいになると銅の割合が高くなる。世界的に良質の鉱石が少なくなり価格も高騰している銅が養殖できれば、経済的なメリットも大きい。

海中で成長したチムニーには銅や金、亜鉛などの金属が含まれる(海洋研究開発機構提供)

 逆にセ氏200度くらいまで温度を下げれば、金や銀を多く取り出せる。沖縄沖でわき出している熱水は、高品位で知られる菱刈金山(鹿児島県)を作った火山と同じ系統に属している。多くの金や銀が取り出せる期待が持てる。「バルブで熱水をコントロールすれば、目的の金属を多く取り出せるのではないか」と野崎研究員は期待する。

研究成果、地上鉱山の探査にも役立つ可能性

 熱水から金属が析出するしくみは、実は地中で鉱石が作られる仕組みと基本的には同じだ。金属を多く含んだ熱水は地中を上昇する過程で温度が下がり、金属が析出して鉱石ができる。野崎研究員は「鉱床のできかたが、なぜそうなるのか、明らかにしたい」と話す。養殖するだけでなく、鉱石のできる詳しい仕組みがわかれば、鉱山の探査でも役に立つ。

 チムニーだけでなく、熱水がわき出ている海底の地下には、金や銅、亜鉛といった金属を含んだ鉱石が豊富に存在すると推定されている。こうした海底鉱床から得られる金属資源は陸上の10倍以上に上るとの推計もあり、パプアニューギニアの海域では商業生産も計画されている。

沖縄本島の沖合にある伊平屋北海丘などに試験装置を設置した(海洋研究開発機構提供)

 しかし、採掘するとなると深海での作業の難しさだけでなく、周辺への金属汚染などの影響をどう防ぐかといった問題が起こる。さらに精錬する過程ででる廃鉱石や鉱石に含まれるヒ素などの有害物の処理もコスト増の要因だ。

 熱水から直接、金属を含む鉱石を育てて取り出す養殖ならば、採掘に伴う周辺環境への影響は回避できる。ヒ素などの有害物質の含有量も抑えることが可能だ。海底資源だけでなく陸上の鉱山でも、こうした環境コストの増大が懸念されているだけに、養殖するメリットは少なくない。

 沖縄沖に設置した試験装置は12月に回収して、とれた鉱石やデータを分析する予定だ。
(科学技術部シニア・エディター 小玉祥司)[日経電子版2016年7月25日付]

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