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教科書は街おこし(4)スマホ中毒にならないために
「7つの甘いワナ」に注意!

久米信行 authored by 久米信行久米繊維工業会長
教科書は街おこし(4) スマホ中毒にならないために「7つの甘いワナ」に注意!
撮影協力:大東文化大学

 あなたは、すぐやるカエル? ものぐさガエル?

 みなさんは「スマホ」中毒や依存症ではありませんか? 気がつくと、ネットに身も心も奪われている奴隷になっていませんか? 今や大学生にとって最も身近なメディアは、新聞・雑誌やテレビ・ラジオではなく、スマホでしょう。電車に乗ろうが、食事中であろうが、気がつけばスマホをのぞき込んでいる人が大半です。LINEにレスをしながらゲームや動画に夢中になっていて、我を忘れているようです。寝る前にも2、3時間はスマホで動画を次々に見続けなければ眠りにつけない人も多いようです。

 こうした若者たちの「スマホ中心の行動」を、メディア環境研究所(吉川昌孝所長)では「チェーン・ビューイング」と名付けました。まるでヘビースモーカーが次々にタバコを吸い続ける「チェーン・スモーキング」のように見えるからでありましょう(詳しくはリンク先の資料をご覧ください)。

メディア環境研究所 メディア生活フォーラム2016「Changing Media Values モバイルシフトで変わるメディア価値」

▼すぐやる人だけがチャンスを手に入れる
『すぐやるカエルの冒険ストーリーに学ぶ「すぐやる技術」』

 こうして、2011年のスマートフォン普及元年から、たった5年あまりで、私たちを取り巻くメディア環境も、生活スタイルも激変しました。2020年には全世界で40億人がスマホを手にするという予測もあるほどです。この流れは、もう誰にも止められないでしょう。

 たしかにスマホは、これまで人類が手にしたことのない「便利で面白い万能ツール」です。だからこそ、若年層中心に瞬く間に爆発的に普及したのです。しかし、使い方次第では、特効薬にも麻薬にもなる劇薬であることを忘れてはなりません。スマホ活用には大いに注意が必要なのです。

 明治大学の教え子たちをはじめとして、スマホ中毒でネットの奴隷になりつつある若者たちに、大いに危機意識を抱きました。そこで、新著「すぐやる人だけがチャンスを手に入れる(ぱる出版)」では、「スマホの甘いワナに惑わされては危険」という警告メッセージを発したのです。

 この本は、スマートフォンを手にして生き方が変わってしまった「すぐやるカエル」と「ものぐさガエル」を主人公にした寓話です。ある日、井戸の中で暮らす二匹のカエルに、神様がスマホを与えます。このスマホで井戸の外の広い世界を知り、新しい世界に飛び出してチャンスを切り拓いてほしかったからです。

 ところが「すぐやるカエル」は期待に応えて冒険と挑戦を始めましたが、ものぐさガエルはゲームやSNSにはまって逆に井戸の中に引きこもってしまったのです。そして「すぐやるカエル」は、スマホを通じて生涯の友である「オタクガエル」「万能ガエル」や、想像もしなかった道を示してくれる「カエルマスター」に出会って、チャンスを手にしていくのです。

 こうした、カエルたちの冒険ストーリーを通じて、チャンスを手に入れるためにスマホを活かす具体的な技術を紹介していく、ちょっと変わった本です。私が強調したいのは、スマホの使い方には見えない「二面性」があるということです。自分の世界を広げて、未知なる可能性を切り拓くこともできれば、反対に居心地の良い世界に入り浸ってしまうこともできるわけです。

 そんな毒にも薬にもなるスマホの「二面性」を踏まえて「スマホ活用7つの甘いワナ」についてお話いたしましょう。

甘いワナ1 ◎交際範囲を広げたい ⇔ ×付き合いがさらに狭くなる

 スマホアプリの中でも、最も使われているものは、twitter、Facebook、LINE、InstagramなどのSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)でしょう。スマホひとつで、時間や距離の壁を超えて、気軽に多くの人たちと交流できるのですから夢のようです。これまでのように、交際範囲が、地縁(どこに生まれ暮らしているか)、血縁(誰の子供として生まれたか)、学縁(どこの学校を卒業したか)、社縁(どんな会社で仕事をしているか)などに縛られる時代は終わったのです。いわば網縁(ネットで発信したこと次第で誰とでもつながれる)の時代が到来したと言っても良いでしょう。

 私自身もtwitter、Facebookでは、まだお会いしたことがない縁者も含めて数千人の方々とつながっています。また、今春始めたばかりのInstagramでも、あえて告知もせず、ただ好きな写真を時々発信しているだけで、400人近いフォロワーができて驚いています。そのおかげで、年齢・性別・国籍・職業にとらわれない縁者との交流が広がりました。知らず知らずのうちに、見聞も知的好奇心も高められて楽しくなりました。50歳を過ぎてなお、新しい仕事や遊びにも出会うことができて、人生がますます豊かになったのです。まるで、第二、第三の青春を味わっているような気分です。

 ところが、学生たちにSNSの活用法を尋ねてみますと、ごく親しい身内との連絡や日常会話にだけ使っているケースが少なくありません。つまり、せっかく開かれた世界への扉を開こうとしないのです。まるで、雨戸を締め切って身内とひたすら同じことを繰返しているようなイメージです。超高性能なF1のレーシングカーを、近所のコンビニ通いに使っていると言っても良いでしょう。

 これでは、あまりにもったいないと思いませんか?

 そこで、明治大学ベンチャービジネス論では、私が尊敬する企業経営者からジャーナリストまで、Facebookなどを駆使するゲスト講師を招くことにしました。講義後のコメントや友達申請で、同世代の友人以外の「夢見る大人たち」とのネット交流を勧めているのです。しかし、せっかくゲスト講師の方が、ネットで友達になっても良いと言ってくださるのに、実践している学生の方が少ないのは残念でなりません。

甘いワナ2 ◎自分の夢や志を発信 ⇔ ×ただ読んでレスしかしない

 スマホを持ち歩くということは、ポケットに入る自前の放送局や出版社のオーナーであることを意味します。いつでもどこでも、自分の夢や志を、意見や感動したことを、言葉で、写真で、動画で、世界に発信することができるのです。出版費や広告費のない無名の個人や企業が、ネットを通じてファンを獲得できるのですから素晴らしい時代になったものです。その結果、人気作家やメーカー・ショップになった事例など数えきれません。

 中国製など安価な海外輸入製品全盛の逆境の中で、私は国産Tシャツメーカーの後継者になりました。広告費がない中小企業でも、インターネットを使えば、未来のお客様に発信できる。そんな夢のような話に飛びついて、毎日、地道な発信を続けることで、なんとか生き残ることができました。さらに、思いがけないことに、自分のメッセージを発信し続けるうちに、作家やコラムニスト、さらには大学講師にもなる道まで開かれたのです。

 ところが、学生たちに訊くと、スマホは自分の夢や志の発信器というより、ひまつぶしの受信機であり、書くより見るもののようです。お気に入りの動画や記事を見て、せいぜい「いいね」か「シェア」をするぐらい。あとは、友人間で、ごく短いレスだけをしていることが多いようです。コストのかからない出版社や放送局を持ち歩いているというより、手のひらサイズのテレビや伝言板が手に入ったという使い方です。

 なんと、もったいないことでしょう!

 そこで、明大の講義では、最後の5分間に受講レポートを書き、それを講義ブログや、Facebookにもコメントとしてアップしてもらっています。たとえ短い一文でも、自分の意見を、ゲスト講師や私のFacebookに「晒す」ことになるわけです。こうして、少しずつでも、ネットを使って、実名で意見を発信するクセをつけてもらいたいのです。

甘いワナ3 ◎幅広い意見で中立に ⇔ ×考えが好きな一方に偏る

 スマホがあれば、日本どころか世界中の新聞の一面や社説を、ほとんど無料で斜め読みすることができます。昔なら、大きな図書館に行っても実現できなかったことでしょう。その結果、特定の国の特定の新聞を読み続ける人よりは、より中立で公正な判断ができるようになるはずです。

 ある大学の副学長から「同大学の生涯学習プログラムに参加しているシニア層の方々は、政治的な思想が右翼と左翼にはっきり分かれて中間がいない。若者の方がまだ中立的である」という話を聴きました。同席していた某新聞社の関係者も、シニア層からの投稿を見ていると自社の社説よりも極端なものが多いと教えてくださいました。そんな問題はネットで右と左の新聞を比べ読みすれば解決できるはずです。

 さらに、新聞などのメディア経由でなければ意見を知ることが難しかった政治家、経営者、学者が、自分自身のSNSやブログを通じて、積極的に発言するようになりました。時間やスペースの制限から、時として都合の良いところだけを編集して報道されがちだった当事者の意見を直接知ることで、より的確な判断ができるはずです。

 しかし、哀しいかな「できること」と「実践すること」は一緒ではありません。学生たちを見ていると、新聞・雑誌・テレビ・ラジオといった4大メディアよりもスマホに接する時間の方が長いようです。ところが、スマホの中でニュースを積極的に一覧して斜め読みする習慣がないのです。せいぜい、SNS経由で流れてくるニュースを、受身でチラチラ見る程度で済ます学生が多いようです。

 問題はそれだけではありません!

 SNS経由の受動的なニュース閲覧には問題があります。付き合いの深い知人や友人がシェアするニュースは、似た者同士で偏る傾向があるのです。結果として、自分にとって心地よい政治傾向や経済予測に関するニュースやコメントを数多く目にすることになるでしょう。これはメディアの偏った報道以上に怖いことです。ぜひ、未来のある学生たちには、スマホを中立公正な判断をするための、ニュースと知見の集積装置として活用してほしいものです。

甘いワナ4 ◎効率化で時間を創出 ⇔ ×ダラダラ時間を過ごす

 スマホは、最も携帯性に富んだ情報通信端末、ICTツールです。世界中のネットワークに接続可能なパソコンの代替品なのです。もともとICT技術は、「無駄な作業やそれに費やす時間を減らす効率化」のために進化してきました。人がやらなくとも良い単純作業をコンピューターが代わりに行い、本来、人が行うべき創造的な仕事に集中しようということでしょう。

 例えば、会議などのスケジュール調整や資料の確認などは、かつては面倒な作業でした。参加者全員に個別に手紙、電話、FAXなどで個別に確認していたのです。ところが今では、スマホ上の一斉メッセージやグループウエアで、手間をかけずに行えます。こうしたICT技術のおかげで、私は秘書さえ置かずに、本業の企業経営はもちろん、講演・執筆活動、NPO活動などを、いつでもどこでもパラレルに行えるのです。スマホを便利な効率化ツールとして考え、なるべくスマホ上の作業も短時間で済ますことで、創造的な仕事や遊びに多くの時間を振り当てられるのです。

 ところが、学生たちの使い方は、ちょっと違うようです。ヒマさえあれば、スマホを取り出していじり続けているのです。そこでのスマホ活用の中身は、LINEでの井戸端会議、オンラインゲーム、SNSのナナメ読み、動画のチェーンビューイングなのです。つまり、時間を産み出すどころか、ダラダラと時間を消費するためのヒマつぶしツールになっているわけです。

 他にやることがない人ならば、まだ良しとしましょう。

 しかし、これから世界に飛び出そうと、自分の夢をふくらませている最高学府の大学生がこのありさまでは寂しすぎます。スマホは、志高くライフワークを探す「リアルな時間」を産み出すための有能な秘書ロボットなのです。それを、ゲーセンやサークルのたまり場のようなお気楽ツールに使っているのはいかがなものでしょうか?

甘いワナ5 ◎好きな場所や人探し ⇔ ×現場行かず人に会わない

 スマホは、ポケットに入る百科事典であり、世界地図であり、電話帳でもあります。この小さな端末一つで、自分が好きなものごと、行きたい場所、会いたい人を、簡単に探し出すことができます。それだけではありません。スマホやSNS経由で直接連絡を取り、現場に出かけて、お会いすることだって、やろうと思えばできるのです。

 例えば、本を読んで感動したら作者に、商品を買って感動したら職人に、お礼のメッセージを出すこともできるでしょう。一作者やメーカー経営者として言うならば、見知らぬ人からの熱いファンレターやメッセージほど嬉しいものはないのです。ましてやそれが前途有望の学生であれば、ぜひ会いたくなるでしょう。

 こうしてSNSでつながることは、憧れの人と師弟関係を結ぶようなものです。これまでなら会うことが難しかった各界の達人たちと、親しくお付き合いをしながら、ネットや学校では学べないことを直接教わることもできるのです。

 しかし、就活をしている学生たちに尋ねても、直接、憧れの経営者をスマホで探し出し、Facebookなどで直接コンタクトを取って、職場見学や面談を申し込もうとする人は、ほとんどいません。就活サイトや、会社のホームページを眺めるだけで、自分の人生を左右するであろう経営者=未来の上司を探して、現場に出向こうという気概はないのです。

 「ググってウィキして会いに行け。」

 これは2007年に、日経パソコンに寄稿したコラムのタイトルです。現場取材に出向かずコピペばかりしている若手記者に危機意識を覚えた当時の副編集長からリクエストをいただいて書きました。つまり、ググるのもウィキするのも、現場で達人と会うための準備作業に過ぎないのです。

 スマホは、その場のお手軽検索でわかったような気になる「ごまかしツール」として使ってはなりません。答えは常に現場と人にあるのです。自分の生涯のマスターとなるような人に出会うためのツールとして活用しましょう。

甘いワナ6 ◎すぐやる行動派に ⇔ ×批判や誹謗中傷マニアに

 スマホは、自分が進むべき新たな道を指し示してくれる羅針盤です。さらには、何でもどんどん試して「すぐやる」人になるためのトレーニングツールと言っても良いかもしれません。気になるライブや展覧会、美味しそうなランチやスイーツといった耳寄りな情報を見つけたら、すぐに体験してみるのです。注目の新製品や経営者インタビューなどは、就活やビジネスで一歩踏み出す時にも役立つでしょう。

 まさに「見る前に跳べ」と、背中を押してくれるのがスマホなのです!

 若い頃は、失敗を恐れず、好き嫌いにとらわれず、なんでも試して挑戦することが大切です。そこで見聞きして感動したことがあれば、その場ですぐにSNSでシェアしてみましょう。知的好奇心、冒険心に富み、行動力にあふれたイマドキ珍しい若者だと、誰かが見てくれているかもしれません。

 ところが多くの学生たちは、どうも「空気を読み過ぎ」るようです。人と違うことを「すぐやる」ことで仲間内から「浮いてしまう」ことを極端に恐れているのです。さらに困ったことには、私たち経営者ならぜひとも採用したくなるような「すぐやる若者」を「意識高い系」と称して馬鹿にさえするのです。

 残念ながら、ネット社会には、自分では舞台に上がらずに、安全地帯から匿名で誹謗中傷を繰返す人もいます。現実の社会では、安易に誰かを批判すれば、いつか自分にも返ってくるので、少しは遠慮をするものです。せいぜい居酒屋で有名人のゴシップに興じるか、上司の愚痴をこぼすぐらいのものでしょう。ところが、ネットではついつい気が大きくなり、上から目線で攻撃的に批判する人も少なくありません。悪口をまき散らした結果、フォロワーが増え「いいね」で後押しされれば、ますますいい気持ちになり調子にのってしまうのです。

 しかし、誹謗中傷が大好きな人達のコミュニティに身を置くことで、知らず知らずのうちに「暗い負のエネルギー」を心に貯め込んでいることを忘れてはなりません。そんな縁と運が逃げて行くようなことはお勧めできません。たとえ「意識高い系」と笑われても、夢や志を持って「すぐやる」行動とネット発信を繰返しましょう。そうすれば「明るい正のエネルギー」が増幅され、心ある人達と共振して、大きなチャンスに恵まれるのです。

 リアルな社会であれネット社会であれ、どんな集団も「2:6:2の経験則」に基づき、気の合う2割、中立の6割、気の合わない2割に分かれるものです。気の合わない2割の目ばかり気にしていても前には進めません。同じ夢と志に共感できる気の合う2割の同志を見つけるために「すぐやる」人になりましょう。

甘いワナ7 ◎未知なる世界に挑戦 ⇔ ×気楽な現状に引きこもる

 昨今、教育、雇用、所得など格差の問題がニュースの話題になります。しかし、誰もがスマホを持つことで、同じスタート地点に立つことができる時代になったのです。これまでなら「ただのオタク」と思われていた無名の一個人が、Youtuberとして世界的な有名人になれることなど、10年前は誰も考えつかなかったでしょう。そんなYoutuberたちに刺激されて、自分もスマホで面白い動画を作ろうと新しい挑戦を始める人もいるはずです。その一方で、ただ面白動画をチェーン・ビューイングして、ひまつぶしをする人もいるでしょう。

 つまり、スマホで機会は均等になっても、活用法次第で二分されつつあるのです。新しい格差は「スマホという最強の自己実現ツール」を活用して、すぐやる人となり、新しい出会いと未知なるチャンスをつかめるかどうかによって生まれようとしているのかもしれません。

 ネットの神様は、井戸の中の二匹のカエルと同じように、私たちにスマホを授けてくれました。今すぐ井戸を飛び出して新しい世界を切り拓く「すぐやるカエル」になるか、それとも井戸の中に引きこもってスマホでひまつぶしをする「ものぐさガエル」になるか。それは、私たちひとりひとりの心に委ねられているのです。

 さあ、みなさんはどちらを選びますか?

 「すぐやるカエル」になりますか?
「ものぐさガエル」になりますか?