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韓国に広がる「グローバル就活」
日本企業も熱い視線

韓国に広がる「グローバル就活」日本企業も熱い視線

 2017年卒の就活が大詰めを迎えるなか、来春の就職に向けた海外の学生による「グローバル就活」も正念場を迎えている。韓国の貿易や投資促進を担う大韓貿易投資振興公社(KOTRA)は、韓国人学生と日本企業の橋渡し事業を数年前から開始。日韓関係が冷却化した時期も着実に採用実績は増え続け、韓国政府は「グローバル就活」の枠組みを欧米やアジア、中東などにも広げている。韓国の若者を取り巻く厳しい就職事情もあるが、日本企業が抱える慢性的なグローバル人材の不足という状況も背景にある。

韓国人学生の就職、年々増加

 KOTRAが韓国人学生の日本企業への就職に力を入れ始めたのは2012年のこと。赴任したばかりの鄭赫(チョン・ヒョク)日本地域本部長が、韓国で事業する日本企業から「韓国人学生を採用したい」という多くの要望を聞いたのがきっかけだった。

 日本勤務を幾度も経験し「KOTRA随一の日本通」と呼ばれる鄭氏。かねて「韓国人社員がいれば、貿易や投資がスムーズに進みやすい」と実感していたこともあり、就職支援活動を重点事業に据えて取り組み始めた。

日本企業をめざしエントリーシートを提出した韓国人学生は2000人に上った(5月、ソウル)=KOTRA提供

 すぐに成果は表れた。日本地域本部を通じて日本企業に就職した人数は13年に44人、14年に91人、15年に125人と、年を追うごとに増加。ソウルで開く就職相談会では、韓国人学生約2000人が日本企業への就職を希望するエントリーシートを提出したという。

 日本での採用増加などを受けて、韓国政府も海外企業への就職支援策を拡充している。KOTRAの海外拠点などに求人情報の提供など就職を支援する「K―Moveセンター」を設置。現在は日本の東京・大阪に加え、米国やドイツ、中国、シンガポールなど世界12カ国・地域の14カ所に広げた。

 さらに、海外企業の就活生向けにオンデマンドの教育プログラムや専門家による相談窓口、海外企業のインターン事業なども手がけている。KOTRAが発行した「誰にも教えない海外就職の秘密」を見ると、日本企業の採用状況や時期、ビザ(査証)取得など基本的なノウハウだけでなく、エントリーシートの書き方から面接の服装・歩き方まで、かゆいところにも手が届く詳細な「攻略マニュアル」が載っている。

 韓国政府が積極的に支援する理由の一つは、韓国の若者を取り巻く厳しい就活事情にある。小学生の頃から猛烈な受験競争を勝ち抜いて有名大学に進学できても、大学時代の「就活戦争」を勝ち抜くため、英語はもちろん様々な語学や資格を習得しようと専門学校に通い続けて多額の借金を抱える学生が少なくない。それでも希望する韓国企業に就職できるのは半数程度。大学や大学院に何年もとどまり続ける20代は多く、深刻な社会問題になっている。

 韓国の若者と話していると、海外志向の強さを感じることが多い。韓国企業の雇用の受け皿が限られているため、大手企業志向の強い高学歴の学生たちは、早くから海外企業を有力な選択肢の1つと考えている。

グローバル就職相談会に参加を希望する日本企業は年々増えている(5月、ソウル)=KOTRA提供

 ただ、韓国の若者の多くは「日本よりも中国に目を向けている」(鄭本部長)のも確かだ。それでも日本企業への「グローバル就活」が広がっているのは、海外展開を加速してグローバル人材の不足に悩む日本企業側の事情の方が大きいようだ。

語学に長じて「採用しやすい」

 事実、ソウルの就職相談会に参加する日本企業の数は年々増え続けている。15年は96社に達したこともあり、16年の相談会は5、6、10月の3回に分散した。すでに終わった2回の合計で86社が参加し、「10月も日本企業が50社くらい参加する見通し」(KOTRA日本地域本部)という。韓国人学生の採用に意欲的な日本企業は、数年前まで韓国でビジネスする製造業がほとんどだったが、最近はサービス業にも拡大し、「今まで韓国と取引したことのない企業が手を上げるケースも目立つ」。

 日本経済新聞社が韓国の毎日経済新聞社と6月に実施した「日韓経営者アンケート」では、回答した日本企業の9割近くが「韓国の人材を採用する考えがある」と表明し、6割強が「新卒」の採用に関心を示した。

 韓国人学生の採用を増やした大手経営コンサルタントの採用担当役員は、「日本語をはじめ語学に長じており、採用しやすい」と語る。他の日本企業関係者に韓国の若者の評価を聞いても「日本の習慣や文化に通じていて、営業向きの積極的な性格が多い」と口をそろえる。韓国人学生が日本企業に就職すると、「韓国だけでなく、中国や東南アジア、欧米など海外事業を幅広く担当している人が多い」(韓国の経済紙記者)ようだ。

 7月末、鄭赫本部長は4年間の任期を終えて韓国に戻る。この間、日韓関係は冷えこんだが、みずから推進したグローバル就活事業の道筋を着実に付けた。「むしろ日本企業の採用意欲は強まっている」と実感した鄭氏。今後は、いかに韓国人学生の日本への関心を高めるかに知恵を絞るつもりだ。その努力が実を結べば、「10、20年後に韓国の若者が日本企業の戦力としてしっかり育ち、日本の立場から韓国とビジネスで連携して両国の橋渡し役を務める」という長年の夢も実現するはずだ。

(電子版アジア編集長 山口真典)[日経電子版2016年7月21日付]

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