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研究者という職業(2)どんな人が向いているの?
「マニア」ではダメな理由

研究者という職業(2) どんな人が向いているの? 「マニア」ではダメな理由
撮影協力:大東文化大学
authored by 中田亨産業技術総合研究所主任研究員

応募者が優秀に見える理由

 「研究者に向いているか、いないか?」は自分で見極めるのは難しいものです。他人の向き不向きを判定するのもやはり難しいのです。ただ、これは、長年研究職を続けてみれば、経験からある程度は判別できるようになります。

 実際、筆者も新人採用面接などでは面接官として判定する役をこなすこともあります。「まあ、プレゼンも上手かったし、一流学会でたくさん論文を発表しているから、大丈夫だろう。よし、内定」という具合で判定するわけです。

 しかし、最近の若い研究者や院生は、プレゼンがうまくて当たり前で、書いた論文の数も昔に比べればかなり多いのが相場です。書類や面接だけでは、候補者の多くがかなり優秀な人材に見えます。

 かといって、そういう人たち全員が本当に優秀とは限りません。新人研究者の業績は、自分の実力以上に、それまで属していた研究室の力が反映しがちです。新人がすごい業績を持っているからといって、それが本人の実力とは限らないのです。

研究者の2:8の法則

 採用面接で低評価だった人が、後に大きな仕事をすることもあります。プロ野球でドラフト1位の選手がそれほど活躍せず、5位ぐらいの選手が大化けするという現象と同じです。30年ぐらい前までは研究職は不人気でした。卒業する3月になったのに就職先がまだ見つからない大学院生が、指導教官のツテで、面接もろくにせず、どこかの研究職のポストを得て、いきなり4月からそこで働くということがありました。そういう最初はそれほど関心がなかった人でも、自分の関心を持てる研究テーマを見つけて没頭していくと、後に立派な業績を上げています。実はもともとの能力は、それほど当てにならないかもしれません。

 あらゆる社会で、「上位2割の優秀な人が、全成果の8割を生み出す」という「2:8の法則」は、研究の世界でも成り立ちます。「エース級の研究者がびっくりするような新発見や新発明を成し遂げ、その他大勢の研究者がそれに追随する」という形になるのは、科学の性質上、当然起こりうることです。そのため大学や研究機関の浮沈は、エース級の原石を何人引き当てるかにかかっています。

 すると、新人採用では、普通に業績がある候補者なら定員が許す限り内定を出すというのではなくて、エース級の原石だけを拾い上げるように、もっと精密な判断をすべきでしょう。

熱意で「大化け」する可能性も

 「エース級の原石」とはどんな人なのでしょうか。

 優秀な研究者の最も顕著な特徴は、特定の学問に執着する熱意です。人一倍の熱意があれば、どんなに業績が少なくても、後に大化けする可能性があります。「この分野を極めたい」と強く思い続けられることは、それ自体が貴重な能力なのです。

 逆に、特定の分野への執着がないという人は、たとえ優秀で何でもそつなくこなせたとしても、あまり大成しません。そういう人は、「今までAを研究してきたが、だいたいやり尽くして先が見えた。最近Bが話題なのでそこに移ろう」と、身軽に方針転換をするものです。これでは結局、どのテーマも深掘しないまま中断することになり、大きな成果を上げる前に終わってしまいます。

 「偉大な発見」のほとんどは誰も達成できなかった「意外な発見」ですから、大多数が「その分野は終わった」とか「その方法ではダメだ」と見切りを付けている研究の中にこそあります。もちろん、多くは本当にダメな研究なのですが、その中に大当たりがあると信じて、自分一人だけで掘り下げる度胸が必要なのです。

 特に最近は、研究者同士の相互批判が必要以上に過熱しています。論文の評価を頼まれた研究者が「この論文はくだらないから却下」と過度に厳しい判定を下すといった現象が起こりがちです。学問の世界にも競争原理が持ち込まれてきたため、研究資金は平等にではなく、評価の高いものにだけ配られる傾向があります。そのため、他人の研究をほめることは百害あって一利なしというためです。こういう悪徳評価者に出くわして、「お前の研究はダメだ」と非難されても、簡単に諦めないためには熱意が必要なのです。

 優秀な研究者は、熱意が過ぎると、もはや変人の域に達することもあります。

 古代の数学者アルキメデスは、数学の問題に没頭しすぎたため、敵の兵士の言うことも馬耳東風で聞き流してしまい、怒った兵士によって殺されたと言われます。近代外科学の開祖と称される、イギリスのジョン・ハンターは、解剖実験のためなら死体を盗むこともいといませんでした。

 糖尿病を発見したトーマス・ウィリスは、患者の尿の成分を知るため、なめてみました。そうしたら甘かったので「糖尿病」というわけです。バリー・マーシャルは、ピロリ菌が胃の中で生息し病気を引き起こすことを証明するために、菌を自ら飲みました。そして見事、胃潰瘍になったことが証明となり、ノーベル賞を受賞したのです。

創造の精神が熱意を成功に変える

 熱意を持つこと自体は研究者だけのものではありません。オタクやマニアといった、熱狂的なファンなら、対象へのひとかたならぬ愛着を持っているものです。

 しかし、研究者として成功するには、ただ好きなだけではだめです。熱意を成功に導く力が必要となります。それは創造の精神です。自分オリジナルなものを作り出そうという態度です。

 何かを愛好するマニアでも、新製品やニュースが気になってすかさずチェックするという心理は創造的態度とは違います。あくまで、自分自身の考えにのっとって作ることが創造なのです。

 また、マニアの書いた文章でありがちなのは、確かに細かいことまで詳しく書いてあるのですが、本に載っている情報を引き写して羅列しただけという失敗です。これでは「調べ物」の域を出ず、新しいものを作り出す「研究」にはなりません。

 熱意とオリジナリティへの執着が結びついている人にこそ、良い研究者になれる資質があるのです。

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