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写真フィルム今や高額品
若者に新需要も

写真フィルム今や高額品若者に新需要も

 フィルムカメラ用の写真フィルム(銀塩フィルム)の実売価格が上昇している。デジタルカメラやスマートフォン(スマホ)の普及で需要が落ち込んだ。メーカー各社は生産品目の縮小や製造コスト上昇に伴う値上げを繰り返している。かつてはカメラ量販店の店頭で1本100円台の特売商品もあったのに比べると現在は高額商品となっている。消えゆくアナログメディアと思いきや、デジカメに親しんだ若者がフィルムカメラの写真の風合いに新鮮な魅力を感じ、注目し始めた。

2000年をピークに販売落ち込む

 東京都心の新宿駅西口地区。飲食店や家電量販店が集まる一角にヨドバシカメラ新宿西口本店がある。カメラ館や修理・フィルム館、プリント館といった専門売り場を設け、一般の顧客向けだけでなくプロ向けの写真用品や関連サービスも幅広く扱っている。

 7月の週末、フィルムを買いに来ていた団体職員の高尾悠太さん(25)は値札を一通り眺めると「高いな」とつぶやいた。普段、デジタルカメラとフィルムカメラを併用して使っているという。「久しぶりにモノクロのフィルムで撮ろうと思ったが二の足を踏んでしまう。フィルムで撮る機会は確実に減った」と話す。

写真フィルムは値上がりとともに種類も減っている(東京都新宿区)

 ヨドバシカメラの小売価格の推移をみると、富士フイルムのカラーネガフィルム「SUPERIA PREMIUM 400」(36枚撮り)は消費増税後の2014年4月には税込み1本802円だったが、16年8月時点では950円と2割近く高い。コダックアラリスジャパン(東京・千代田)のモノクロネガフィルム「TRI-X 400」(36本撮り)も同じ期間に1本545円から937円と7割以上値上がりしている。ヨドバシカメラ新宿西口本店の鈴木光貴さんは「熱心なファンは『仕方がない』と値上がりを受け入れているが、これからフィルムカメラを始める人にとってはハードルが高くなっている」と指摘する。

 フィルムが値上がりしたのは需要の減少という側面が大きい。量産効果で値段を抑えることができなくなった。カラーフィルムの世界総需要は00年にピークを迎えたあと減少の一途をたどった。デジカメや携帯電話、スマホが普及するにつれてデジタル写真に移行する人が増えたためだ。製造大手の富士フイルムは、00年度には写真フィルムだけでグループ全体の売り上げの2割を稼いでいたが、現在は1%にも満たない。同社イメージング事業部の日吉弘測マネージャーは「需要が落ちるなか原材料価格も上がっており、採算面で厳しいのが実情だ」と漏らす。

 フィルム市場全体が縮小するなか、意外にも若い世代の新たな「参入」が注目されている。15年から「レンズ付きフィルム『写ルンです』で撮影してデジタル化した写真をインターネット上で見かける機会が増えた」(富士フイルム)。直営店の「WONDER PHOTO SHOP」(東京・原宿)では15年夏に月平均20本ペースだった「写ルンです」の売り上げが同年12月には月100本台に達し、現在も増えている。店頭を訪ねると外国人の姿も目立つ。

 くしくも「写ルンです」は16年7月が発売30周年。ネット上で初代デザインが「かわいい」という声が上がっていたこともあり、同社では「着せ替えキット」を発売した。第1弾は16年4月に売り出され、5万本が6月で出荷完了。同年7月に出た第2弾(5万本)も8月上旬時点で半分以上の出荷が終わっているという。

レンズ付きフィルムからフィルム写真へ

レンズ付きフィルム人気もじわり再燃している(30周年記念限定品の売り場=東京都新宿区)

 いわゆる「町の写真屋さん」も潮流の変化を感じている。東京の自由が丘に2店舗を構える「ポパイカメラ」(東京・目黒)は16年で創業80周年を迎える老舗だ。ここ1年ほどで20代の客の来店が増えている。レンズ付きフィルムを入り口に、初めてフィルム写真に触れる客も多いという。

 デジカメが普及するなか、危機感を覚えた同社は、フィルム写真の自然な風合いを評価する雑誌やブログから需要を読み取り、あえてフィルムを前面に押し出すことにした。フィルム写真の現像でも画像を鮮明にする「自動補正」をとりやめ、フィルムの持ち味を生かすようにした。店内でも写真に関わる雑貨類の取り扱いも増やした。

 15年はフィルムの現像は5~6割がデータ化のみだったが、最近は紙へのプリントを希望する客も増えてきており、今では7割の客が選択する。同社の石川芳伸専務は「プリントすることで味わいも増す。持ち味が生かされるためプロ向けのフィルムの売り上げも増加している」と話す。

 とはいえ、フィルムの需要が上向くとみるのは早計だ。ヨドバシカメラの鈴木さんは「デジカメやスマホの写真機能は進化を続けている。フィルムがなくなるとは思わないが、減少傾向は変わらない」とみる。ポパイカメラの石川専務も「フィルムの値上げ幅を抑えようとコスト削減や仕入れルートの多様化を進めているが、厳しい部分もある」と語る。

フィルムにこだわる写真店は健在だ(東京都目黒区のポパイカメラ)

 コダックアラリスジャパンは「一定の需要があり、生産コストとのバランスが保てる限り、生産を中止するつもりはない」(飯島栄三社長)としている。ただメーカーからは「『フィルム回帰』ということは今後もない」(富士フイルム)との声も聞かれる。フィルムの製造には銀をはじめとする百数十種類の原料が必要だが、需要の減少で一部の調達が難しくなるというリスクも抱える。

 日本ではレコードやカセットテープへの注目が高まるなど近年、アナログメディアへの回帰の動きも見られるようになった。それでも、米イーストマン・コダック社の経営破綻に象徴されるようにアナログメディアを取り巻く環境はなお厳しいのも現状だ。

 メーカーに頼るだけではフィルムの存続は難しい。写真文化の発展にはデジカメやスマホによる貢献も大きいはずだ。メディアの新旧の是非を問うのではなく、写真の楽しみ方の広がりを喜ぶべきなのだろう。
(商品部 福島悠太)[日経電子版2016年8月18日付]

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