「母以外の生き方」を知る家族留学
これからの女子キャリと生き方(3)
前回は、「manma」が立ち上がるまでのお話をさせてもらいました。女子大生が安心して母になれる社会をつくりたい。そんな想いをもって走り出したmanmaですが、「安心」の定義が定まりきらず、1年以上色々な取り組みを模索する日々が続きます。そんな中で私たちは「家族留学」にたどり着きました。今回は、現在のmanmaのメイン事業である、その家族留学についてお話します。
大学生が子育て中のご家庭を訪問
家族留学とは、現役の大学生が子育て中のご家庭を訪問し、ロールモデルとなる先輩方の暮らしを体験することで「多様な生き方のサンプルに出会う」取り組みです。バリキャリとして働き続けるお母さん、出産を機に転職や退職をしたお母さんなど様々な女性の生き方に直に触れることで、女子大生は結婚・出産・子育てと合わせて自分のキャリアをプランできる機会を作るべく、始まりました。
家族留学は土日にお邪魔する場合がほとんどです。当日は、最寄りの駅でお子さんとお母さんと合流。はじめましてのお子さんと打ち解けつつ、一緒に公園などで遊びます。お家に帰ったら一緒にご飯の準備に取り掛かります。そして、ご飯を食べさせたり、オムツ替えを体験させていただいたりします。一息ついたら、先輩のお父さんお母さん方から自身の生き方についてお話を伺う―いわゆるOB・OG訪問風のお時間もとっていただくのです。
自分の母以外の多様な生き方に出会う
そんな家族留学のポイントは、女子大生が複数のご家庭に訪問することで、自分の母以外の多様な生き方のサンプルに出会うことができることです。それにより、知らないがゆえの人生プランの"諦め"を無くせると考えています。
例えば将来バリバリ働きたいと考えていたある参加者は、自身の母親が専業主婦であったため、たくさん働くことは子どもにとってかわいそうなことだと考えていました。そんな彼女は働きたいならば子供を産んではいけないと思っていたそう。しかし、仕事で活躍するお母さんがいるご家庭に訪問すると考え方は一変。
母親が働く姿は、子どもにとってはかわいそうなものではなく、むしろリスペクトの念をいだくものであることに気づいたのです。仕事で得た自信や誇りが子供に良い影響を与え、また子供がいることによる責任感が仕事へのモチベーションになっている訪問先のお母さん。彼女の生き方から参加者は、仕事と子育ての両輪があることで、どちらにも良い影響を及ぼすことを実感したのでした。
バリキャリとして大活躍しメディアなどで取り上げられているスーパースターでも、自分たちの親世代に多い専業主婦でもない、仕事も子育ても両立している自然体のお母さん。そんなお母さんたちこそ、これからの時代を生きるために私たちが知りたいロールモデル。日頃はなかなか出会えない彼女たちの生き方から、女子大生は結婚・出産・子育てを含めたキャリアプランに希望と自信をもてるのです。
家族留学に至るまで1年かかった
さて、そんな家族留学も、冒頭でもお話した通り、そのアイデアに至るまでにはmanmaが生まれてから1年かかりました。「女子大生が安心して母になれる社会をつくる」というコンセプトはとても抽象的で想定する範囲もとても広いです。みなさんも何か社会に対するアクションを起こしたいと思った時、その想いは抽象的で大きく、だからこそ人を惹きつけるものの、それが形にならないこともあるのではないでしょうか。私たちも全く同じ悩みを団体設立当初、ずっと抱えていました。
当初はとにかく暗中模索の日々が続く中、とにかく、たくさんチャレンジしてみれば、何かヒントが見えるのではないかと思い、様々な取り組みを行っていたのです。そんな取り組みを繰り返す中で、そもそも母になるイメージが湧かないことが女子大生にとって最も大きな不安だということを発見。そこでmanmaは、ライフキャリアを考えるイベントを企画します。しかし、女子大生にとって子育てと仕事の両立に不安はあるはずで、需要もあるはずなのに、なかなか人が集まらず、苦悩の日々は続きました。
子育てのイメージを初めて実感した瞬間
そんなある日、イベントで知り合った大人の方の家にお招きいただいた日のことでした。いつもお世話になっている方が「母」として子供と触れ合っているシーンを見た瞬間、子育てのイメージを初めて実感しました。それからは、今まで知り合ったお母さんに次々と連絡を取ってはご家庭訪問をお願い。メンバーからも大好評だったことで、自信をもってリリースした家族留学は、瞬く間に大きな反響をいただいたのでした。
みんなが未来の可能性を狭めることなく、安心して母になれる社会をつくろうと意気込んでからおよそ2年。現在manmaは日本全国、250の学生に250のご家庭のロールモデルをお届けする団体として活動しています。この世界の根本である「人」が前向きに生きていけるようにするためには、人を育てる人自身が安心して生き生きと暮らせることが大切です。これから、父・母になりうる学生が、自身の可能性を諦めることなく、のびのびと人生を描ける社会。そして、父・母だけで抱え込むことなく、社会のいろんな立場の人が力を出し合って、自然体で子育てできる社会を目指してmanmaはこれからも取り組みを続けていきます。
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