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経営者ブログ 星野リゾート代表リゾートの自然災害リスク、
施設分散で対応

経営者ブログ 星野リゾート代表 リゾートの自然災害リスク、施設分散で対応
authored by 星野佳路星野リゾート代表

 熊本地震の発生から4カ月ほどがすぎました。被害を受けた熊本県、大分県の様子は日に日に落ち着きを取り戻してきました。それでも、観光という点ではまだ戻っていない面があります。最近では「九州ふっこう割」の効果も出てきているものの、まだ十分な状態とはいえません。

周囲の観光施設の復活が条件

 星野リゾートはこのエリアで「界阿蘇」を運営しています。高級温泉旅館ブランドである「界」を掲げた施設の一つです。

 界阿蘇の場合、地震による建物被害はほとんどなかったのですが、社員の一部は通勤が困難になりました。それでも全般的には施設自体への影響は軽微にとどまりました。

 一方、集客面での影響は大きく、震災直後は予約がストップし、キャンセルが相次ぎました。必要な修理はすぐに終わり、社員の通勤ルートも回復できるようになりました。しかし、お客様は徐々に戻ってきているものの、通常の地震の場合よりも予約の回復状況が遅れています。影響は思いのほか長引いています。

 これには界阿蘇が多様なレジャー施設が立ち並ぶいわゆる「デスティネーションリゾート」でないことも影響していると思います。界阿蘇は九州各地を周遊するなかで立ち寄るケースが中心。このため自社の施設だけでなく、周囲の観光施設が復活しなければ、なかなか完全復活できないのです。それだけにじっくり取り組んでいく必要があります。

 熊本地震に限らず、リゾート運営にはこうした自然災害のリスクがあります。日本にはそもそも火山が多いため温泉が多いのですが地震が発生したり、火山が噴火したりすることがあります。私も星野リゾートの経営を引き継いでから、さまざまな形で自然災害の影響を受けてきました。

 それでも星野リゾートの国内施設は1カ所に集中するのではなく、北海道から沖縄まで全国各地に分散しています。このため1カ所で自然災害が起きても、他の施設は直接の影響が及ばないことがほとんどです。しかも施設数は年々増加しているため、その分、リスクの分散が進み、経営に対する自然災害の影響は小さくなっています。

 界の場合には、温泉旅館ならではの強さもあります。そもそも、温泉旅館は日本人にとっては旅行の「ベストセラー」として根強い人気がありますが、その魅力は同時にインバウンド(訪日外国人客)にも十分通じます。このため、温泉旅館の需要はトータルでみればおおむね安定している、と私はみています。常に一定の需要があるため、例えばある温泉地で自然災害が発生してその場所の旅行需要が減ったとしても、その需要はなくなるのではなく、他の温泉地に移るのです。

 実際、2015年に箱根の大涌谷周辺で噴火があったとき、星野リゾートは「界箱根」の稼働率に影響が出ました。その一方で周辺の「界熱海」や「界伊東」、少し離れた「界鬼怒川」などは稼働率が上昇に転じ、それは平均客室単価にも波及しました。やがて界箱根の稼働率が戻ると、他の施設の稼働率は元通りになりました。

50室を30カ所に持つ計画

 界は現在、全国で13カ所運営していて近い将来、30カ所ほどまで増やす計画です。計画通りに進めば、1施設50室として30カ所で約1500室を全国に分散して持つことになります。平均客室単価3万5000円、稼働率70%を想定していますが、1カ所でそれだけの数字を上げる施設は、巨大都市である東京にもありません。予定通り30カ所になったら「すごいことになる」と期待しながら整備を進めています。

 各地に施設を持つ強みをさらに発揮するには、グループ内の施設を「回遊」してもらう取り組みがこれまで以上に重要になります。

 そのための一つのポイントは安心感です。界の場合、すべての施設に温泉があるほか、居心地のよさと地域の文化を存分に感じられる「ご当地部屋」、各地の個性的な文化を楽しんでいただける特別なサービス「ご当地楽」、季節と地域にこだわった食材や調理法による食事などの点において共通しています。地域らしさを反映していること自体を約束事にして、「界だから、大丈夫」という信頼感を醸成しています。同時に、例えばホームページの予約のしやすさを高めたり、ほかの施設を知っていただく情報提供を進めたりするなど地道な取り組みを積み上げ、グループ内回遊率の向上を図っています。
[日経電子版2016年8月25日付]

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