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[ career-働き方 ]

シューカツ都市伝説を斬る!地方の就活、不利ともいえないワケ

authored by 曽和利光
シューカツ都市伝説を斬る! 地方の就活、不利ともいえないワケ

 リクルート、ライフネット生命などの人事責任者として20年以上、累計で2万人を超える就活生を面接してきた「プロ人事」、曽和利光さん。「学生は、根拠のない思い込みで失敗している」という曽和さんが、面接官の本音を語ります。今回は「地方の就活、不利ともいえないワケ」です。

地方は未開のフロンティア

 地方在住の学生は就活で不利なのか。就活の永遠のテーマですね。多くの大学は三大都市圏、特に首都圏に集中しています。企業の採用活動も、三大都市圏、特に東京に偏っている面はあります。それ以外の地方、例えば北海道や九州の学生からは、「就活に関する情報がぜんぜん集まらない」といった声も聞きます。本当に、地方の就活は不利なのか。

 「地方の不利」としていちばんわかりやすいのは、就活で上京する際の交通費負担かもしれません。筆記試験は各地の会場でも、面接の段階からは東京の本社で実施するような企業が大半です。「交通費が出るといっても実費には足りない」などといった話もあると思います。

 情報格差も事実でしょう。企業は就職情報サイトなどの「マス媒体」以外の採用手法を徐々に拡大しつつあります。SNS(交流サイト)経由などのほか、今年の就活戦線ではリクルーターの活用も急増しました。こうなると、企業の採用活動の網に引っかかるかどうかという意味で、地域間格差は否定できません。リクルーターに会いやすいのも東京でしょうしね。

 交通費負担はどうしようもないかもしれませんが、そんな地域間格差が緩和しつつある流れは着実にあります。全国区の企業は三大都市圏で優秀な学生を激しく奪い合っています。東京は当然として、名古屋も「採用困難地域」だといわれています。トヨタ自動車をはじめとする有力メーカーが、がっちり学生を抱え込むからです。一方で、地域間格差があるということは、裏返せば企業側にとって未開のフロンティアが地方に残っているということです。そこに気付いた企業が、地方の学生に照準を合わせ始めているんですね。

200人中の1人か、20人中の1人か

曽和利光(そわ・としみつ) 1971年生まれ。 京都大学教育学部卒。リクルート人事部ゼネラルマネージャー、ライフネット生命総務部長などを経て2011年、主に新卒採用を対象にしたコンサルタント事業の人材研究所を設立。著書に『就活「後ろ倒し」の衝撃』(東洋経済新報社)、「『できる人事』と『ダメ人事』の習慣」(明日香出版社)などがある。

 そんな企業が、各地で説明会を開いたケースを考えてみてください。東京での説明会に参加するよりも、ずっと有利な状況が生まれてきます。大手企業が東京で開催すれば、1回に200人でも300人でも学生が参加しますよね。わざわざ地方から出向いても、ワンオブゼムとして埋没してしまいます。その点、地方なら恐らく20~30人ぐらいの規模でしょう。企業側に目をとめてもらうのも、さほど難しいことではないはずです。

 何しろ、企業側が求めてきているわけです。そうした機会を見逃さないようにしておけば、自分で「ここらへんのクラスの企業なら狙えるかな」と思っているより、1~2ランク上の企業の内定を得られるかもしれない。その可能性は高まってきているといえます。

 地方の学生の中には、こうした大都市を基盤とする企業の採用を敬遠する人もいるようです。背景には東日本大震災の後に高まった地元志向があります。東京や京都に進学しても卒業時には地元に戻る学生も増えているとも聞きます。「全国企業に入ったら、どこに転勤になるかわからない」との不安から、地元企業への就職を選ぶわけですね。しかし、実はこうした「各地での採用」が、転勤を伴うケースはむしろ少ないといってもよいと思います。

各地で活躍できる人材がほしい

 企業の立場から見ると、わざわざ地方での採用に乗り出している理由は簡単です。東京で採用した人材を地方に配属すると、それを嫌って辞めてしまうことが非常に多いからです。

 私がリクルートで人事を担当していたときのことです。ちょうど、「ホットペッパー」「タウンワーク」という地域密着型メディアの事業が伸びた時期でした。もともと大都市圏を基盤として、首都圏の人材を多く採っていたリクルートが、各地方の中核都市に拠点を一気に設ける必要に迫られたのです。その拠点への人員配置をどうするか。「地方には絶対に行きたくない」という社員が続出して、大混乱だったことを思い出します。

 つまり、地方で採用活動を実施している全国企業は、各地の人材にはできるだけその地域で活躍してほしいと考えている場合が多いわけです。海外法人による現地採用のようなものです。しかも制度上は全国への異動の道もあります。「東京で働いてみたい」と思えば転勤もできますから、地元企業に勤めるよりも、将来設計の自由度は高いともいえますよね。ちなみに、最近は「エリア限定社員」という採用の枠を設けている全国企業も増えていますが、各地の人材が欲しいという考え方は同じです。

 全国企業への就活を考えたときに、「地方だから不利」という部分は確かにあります。それでも、むしろ地方の学生であることをセールスポイントにできる場面も、確実に出てきています。すべての企業が地方でも採用活動をしているわけではないので、選べる選択肢は大都市圏の学生に比べて少ないかもしれませんが、チャンスを生かして積極的に就活に取り組んでほしいと思います。
[日経電子版2016年8月30日付]

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