仕事+学び+刺激=成長を実現する方程式
生涯キャリアの選択肢(12)
成長の方程式
学生の成長の式は第9回で示した。今回は社会人版で、その成長=仕事+教育+勉強+刺激的人物+異体験というのが私の式である。5要素をさらにまとめると3要素、仕事+学び+刺激になる。ビジネスパーソンは仕事によって成長する度合いが9割以上で、伸びる仕事、刺激的な仕事につかなければ、大きな成長は望めない。
学びのうち教育によるものは、会社が提供する研修や自分で休日に受講するセミナーなどを合わせても、年に1、2週間程度のもので、二百数十日働く仕事よりも大きな成果を得ることはありえない。教育はコンテンツをすべて学ぶのではなく、気づきを与えてくれるもので、そのあと深めていくのは自分個人の勉強だ。これは毎日でもできるので、効果が大きい。
外的刺激は、自己の発想の固定化、保守化を壊し、新たな刺激を与えてくれる。習慣の中でパターン化する生活にショックを与え、「こんな人がいるんだ」「こういう世界があるんだ」と気づかせてくれ、自己革新できる。
ステップアップのための3段階成長理論
仕事、趣味、勉強のステップアップを考えると、いずれも3段階になる。初めは基礎を学び、一人前になるための修業をする。2段階目で一人前になって自立する。応用問題も普通に自分ひとりで対処できる。3段階目になって、創造的活動で仕事を変革する、世の中に発表する、あるいは人に教える。3年×3段階で9年、ほぼ「一芸」に10年かかる。この間に自分の専門を高め、10年のレベルまで行ければ、自分を支える基盤になる。
どこでビジネスパーソン間の勉強に差がつくかというと、会社ではない。会社では勉強することはできない。そこはアウトプットの場だ。他方、時間外や週末は会社は一切関知しないので、そこで学びについて大きな差がつく。私の例だと、平日は週4日夜の予定が入っているので、ほとんど勉強できないけれども、週末は2日で10時間は机に座る時間を確保している。
これによって、前週での仕事の終わらなかったものをカバーし、翌週の仕事の企画を作れるし、自分自身の勉強もできる。そんなには無理という人も、週末1日2時間あれば、ゼロの人よりはるかに学ぶ量は増えるし、気持ちに余裕が出てくる。いつもなにかの仕事に追われていると不安定になるので、週末でリカバーして「在庫」をゼロにし、翌週の体制が作れれば気持ちも変わってくる。
ビジネスに必要な3つのスキル
ビジネスに必要なスキルは、問題発見解決力(コンセプチュアルスキル)、人間関係力(ヒューマンスキル)と専門能力(テクニカルスキル)の3つである。このうち問題発見、分析、解決力については、毎日の仕事の処理をしながら職場や仕事の問題点を見つけて、解決策を作っていく。では、問題はどうやったら発見できるだろうか。
簡単なことで、問題は実際に仕事をしながら「面倒臭い」と思う点に存在するのだ。「なんでこんなことをやるのだろう、もっとこうやったら楽になるのに」という視点を常に持っていると、仕事のアラが見えてくる。「自分が楽になりたいから、楽になるための方法を考えよう」というときに、人は仕事や生活の改善ができる。その問題意識がないとできないだろう。
加えて、より高度になるが、以下の2つの視点が重要である。
ひとつは過去を知る、つまり歴史を学ぶことによって、将来を素人よりは見通せるようになる。人は過去と現状分析はできるけれど、将来を見通すことは非常に難しい。過去を知る者だけが先を見通す率が高まる。仕事も同じだ。その業界の歴史を調べよう。
もうひとつは、比較対象を持つということである。他社の例を調べるというのもひとつだし、自社が関わっていなくても、他社が先行している事柄は無限にある。他社の事例に関心を持ち、比べる習慣を作るとよい。実は、この2つはどちらも大学時代からできることなのだ。
一橋大学社会学部卒業後、東京ガス入社。ロンドン大学大学院留学、ハーバード大学大学院修士課程修了。中東経済研究所研究員。アーバンクラブ設立、取締役。法政大学大学院博士後期課程修了、経営学博士。東京女学館大学国際教養学部教授(キャリア開発委員長)、一橋大学特任教授などを経て2015年より三菱商事社外取締役。18年から立命館大学共通教育推進機構教授。人材育成、企業経営、キャリアデザインを中心に研究し、実践的人材開発の理論を構築。研修・講演は通算1000回を超える。ビジネスリーダーの生涯キャリア研究がライフテーマ。著書は計61冊。就活関係では「受かる!西山式内定バイブル」(小学館)がある。
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