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オックスフォード奮闘記(1)英オックスフォード大学に進学した理由

日置駿 authored by 日置駿オックスフォード大学法学部修士課程
オックスフォード奮闘記(1) 英オックスフォード大学に進学した理由

 日経カレッジカフェ読者の皆様、初めまして。9月より英国オックスフォード大学法学部修士課程に進学した日置駿です。オックスフォード大学ではMagister Juris(マギスター・ジュリス)というプログラムに所属し、主に憲法理論や法哲学を専攻する予定です。また、慶應義塾大学在学中に設立したオーケストラ、Orchestra MOTIF(モチーフ)の創立者として、ヴァイオリンの演奏など様々な芸術活動に携わっています。

 オックスフォード大学といえば、世界で最も古い総合大学として学問を牽引してきた学府でありますが、私自身そんな環境で学問に没頭できるこれからの日々が楽しみでなりません。街を歩けば、ため息の出るような景色が広がり、町中の至る所に長い学問の歴史や哲学を感じます。

 海外の大学院を受験する事を決意するまでは英語力も十分になく、一度も海外生活経験のなかった私が、何を志してオックスフォードを目指したのか、そして何を感じたのか、この連載を通してお伝えできたらと思っています。僭越ながら、このコラムが海外大学や大学院受験を目指す方々にとって、留学生活をイメージする際の助けに少しでもなれば幸いです。

 コラム第1回目は、自己紹介を兼ねて、私がオックスフォード大学を目指した理由についてお話ししたいと思います。その上で、次回以降の連載で受験から合格までの過程や、オックスフォード大学での勉強の様子、そして私が設立したOrchestra MOTIFについて詳しくご紹介させて頂ければと思っています。読み応えのある記事を書けるか不安ではありますが、"今"感じたことをできる限りイメージが湧きやすいように書く努力をしたいと思いますので、何卒よろしくお願い致します。

文化を通じて日本と世界の架け橋になりたい

 私が海外大学院への進学を決意したのは大学3年の2月のことでした。周りの友人が就職活動を本格化させる少し前、私は大学卒業後の進路についてとても悩んでいました。というのも、私が大学1年の秋に立ち上げたOrchestra MOTIFというオーケストラを、大学卒業後どのように運営していくのかに頭を悩ませていたからです。

 大学1年の秋に話は遡りますが、当時仲の良かった7人の仲間と共に私は学生オーケストラを設立しました。このオーケストラでは"音楽で人の心をふるわせたい!"という理念の下、単に演奏をしてお客様に入場料を頂くのではなく、お客様の入場料がミャンマーや福島県相馬市などで行われる音楽活動に充てられ、音楽の求められる所へ音楽体験を届ける活動をしています。そうした活動が支援先、お客様、そして何より演奏家が行動する"動機やきっかけ"になってほしいという願いを込めて、フランス語でモチベーションを意味するモチーフと名付けました(詳しくは「公式ホームページ」をご覧ください)。

 3歳の頃からヴァイオリンを勉強し、本格的に練習していた自分にとって、日本において芸術家がもっと社会に認知され、活躍できる環境を作るために行動に移すことは自然なことでした。さらに言えば国際コンクールなどで海外の様々な場所に赴く機会を頂いたこともあってか、かねてから私は「文化を通じて日本と世界の架け橋になりたい」という思いを強く持っていました。

 Orchestra MOTIFは、日本を世界中の芸術家が目指してやってくるような国にしたいと、そんな事を少し大袈裟ではありますが本気で考えていたのです。以来たくさんの方々に助けられ組織は成長し、200名を超える演奏家が参加する団体になりましたが、大学卒業後の進路を決める段階になって私たちは岐路に立たされました。

何かを変えたいなら、誰よりも勉強しないと

 このまま学生のアマチュアオーケストラとして引き継いでいくか、セミプロ、そしてプロを目指して活動をしていくか、それとも解散するか。頭を悩ませていたちょうどその当時、ゼミの指導教授が授業で仰った言葉が背中を押してくれたことをよく覚えています。「何かを変えたいと思うんだったら、誰よりも勉強しないとダメだ。学士程度で勉強は決して終わらない。海外に出て外国語で修士号、博士号を取得して初めてスタートラインに立つようなものだ」。

 当時、海外の大学院への進学という選択肢が漠然としか思い浮かばなかった私にとって、この一言は大きな刺激になりました(今の知識では何をどのように変えれば良いのかも分からない。もっともっと芸術と社会との関係について知らなければならない)。私はそういった思いに駆られました。そしてその時の熱い思いを持ったまま、帰路の電車内から海外の大学院受験のあらゆる情報を貪るように探し始めたのです。

Orchestra MOTIFの演奏風景

相当な遅れを自覚

 情報を調べる中で、学問における功績、課外活動、職務経験、推薦状、英語で執筆した論文、志望動機、そして英語力の証明としてTOEFL110点(120点満点)が必要だということが分かりました。さらにそれらの書類が一貫して裏付けられていて、説得力がなくてはならないとのことでした。どの大学でも求められる書類はほとんど変わらず、ハーバードやオックスフォード、ケンブリッジなどのトップスクールに合格するためには、どの要素もそろっていなければならないとの記載もありました。

 出願まで約9カ月を切っていた当時の正直な気持ちは、「ほとんど絶望的」でした。大きな憧れを抱いたオックスフォード大学の図書館(ラドクリフカメラ)がとても遠くに感じました。職務経験が全くないこともさることながら、当時のTOEFLの点数は73点。準備を始めた時点で相当な遅れを取っていることがあまりにも明白で、相談しに行った大手の留学サポート会社の方に、ありがたくも進路修正を勧められるほどでした。

 それでも諦め切れなかった私は、まずはTOEFLの点数を上げることに専念しました。旅行やコンクール以外の海外経験のない私がどのように英語を勉強したのかは、別稿にてお伝えします。いずれにせよ、たくさんの方々のサポートがなければ、苦しい道のりを乗り越える事はできませんでした。

オックスフォード大学の図書館(ラドクリフカメラ)

英国大学院の魅力

 受験の準備をする中でイギリスの大学院を目指したのには、いくつかの理由がありました。最も大きな理由はイギリス政府が採っている魅力的な文化政策です。イギリスには「Arts Council of Great Britain(ACGB)」という文化省に相当する組織が存在し、そこで取り扱われる文化芸術には「(助成金によって)支援はするが口は出さない」という理念が初代長官のケインズの時代から通底しています。

 長い大陸の歴史の中で育まれた、文化芸術と国家権力の機微を踏まえた政策と言えると思います。そもそも芸術と法律がどのように関連するのか一見判りにくいかと思いますが、芸術や文化は単なるエンターテインメントではなく、根源的に表現の一手法であり、社会性を持つものと言われています。それゆえに国家や権力との間に軋轢が生じ、そこに憲法問題が関わってくるのです。

 もう一つの理由は私たちが楽しむ音楽のルーツは、メロディのあるものは古代ギリシアから始まるヨーロッパの歴史にあるということです。音楽が数学や天文学と同じく学問として扱われていた時代から宗教音楽、プロパガンダとして扱われた時代まで、芸術の社会性という側面を目の当たりにしてきたのはヨーロッパでした。

 それらの理由から、その中でも特に長い歴史を持つオックスフォード大学とケンブリッジ大学、そして社会科学の分野で世界を牽引するLSE(ロンドンスクールオブエコノミクス)に受験先を絞り、準備を進めたのでした。次回は受験準備について、特に英語のスコアメイクをどのように対策したのかについてお話したいと思います。