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甘いトマトはフィルム育ち
肥料や水が半減 デンカの先端農法

甘いトマトはフィルム育ち肥料や水が半減 デンカの先端農法

 化学メーカーのデンカは、ベンチャー企業と共同開発した土を使わない新しい栽培法システムを実用化した。養分を含ませた高分子フィルムの上で作物を育てる手法で、従来の水耕栽培に比べても水と肥料の使用量を大幅に減らせる利点がある。国内ではトマト栽培で採用が始まり、将来は水や土壌に課題のある海外での展開も目指す。

 「こんな甘いトマトを初めて食べた」。神奈川県内の農園で今年6月、デンカのシステムを使って育てたトマトが収穫された。

 デンカは1915年に国産肥料の生産を目的に創業。肥料などのアグリビジネスは祖業であり、基盤事業の1つだ。世界の人口増などを背景に国内外の化学各社が肥料の生産を拡大し、低価格競争が激しく、安価な輸入品の流入も増えている。同社インフラ・ソーシャルソリューション部門事業推進部の高城東一部長は「先端農法で新たな事業の種をまくのが狙いだった」と話す。

トマト栽培に向く(デンカのシステムを導入した神奈川県の農園)

 デンカは早稲田大学発ベンチャーのメビオール(神奈川県平塚市)と組み、メビオールの高分子フィルムを活用した栽培システムを開発。昨年11月に販売を始めた。

 地面の上に止水シートと不織布を置き、その上に高分子フィルムを敷いて作物を植える。肥料は、堆肥の主成分で、作物の根の働きを活性化させる「腐植酸」(フミン酸)を液体肥料に使う。

 フィルムの下に設置する専用チューブから液体肥料を含んだ養液を流してフィルムに含ませる。従来の水耕栽培と比べて、水と肥料の使用量を半分以下に低減。作物の収穫量も10%程度増えたという。

 農業での大きな課題はウイルスや菌による作物の病気だ。メビオールのフィルムは医療用に開発したこともあり、水と養分を通し、作物に害を及ぼす菌などは防ぐ。土から菌などが入り込むリスクもなく、農薬の使用量も減らせる。

 レタスなどの葉物と違い、トマトなど実をつくる作物をおいしくするには、適度な「水分ストレス」が必要だ。水が少ない環境で「自分を守ろうと栄養分をため込もうとする」(高城部長)ため糖分やアミノ酸が多い野菜や果物ができる。

 デンカのシステムは、常に根が水の中にある水耕栽培と比べ、適度な水分ストレスがかかりやすい。その半面、水が少なすぎると枯れてしまうリスクがあるため、フィルムの上にもう1本設置したチューブからも液体肥料を流すことで適量を管理する。

 今のところ、このシステムでの栽培事例はトマトで、特に糖分度の高いフルーツトマトに向く。イチゴやメロンなどにも応用できるという。

 デンカは農家のほか、農業ビジネスへの新規参入を目指す企業に売り込む。必要な資材や肥料を提供し、栽培管理法のアドバイスもする。4~5年後にシステムの国内売上高で年10億円程度を目指す。

 将来はこのシステムで海外市場への導入を目指す。土がなくても栽培可能で、使用する水が少量で済むことから、乾燥地帯、塩害や土壌汚染などの問題を抱える地域でも作物を育てられる。中国や米国、中東などでの展開を検討する。

◇     ◇

 調査会社の富士経済(東京・中央)によると、国内のアグリビジネス市場は2015年に550億円。20年には10%増の610億円になると予想されている。特に植物工場などの「養液栽培関連プラント」は80億円から83%増の147億円となる見込みで、新規参入を目指す企業も多い。

 新たなバイオ技術やICT(情報通信技術)の活用による高付加価値化で、農業も成長産業として生まれ変わる可能性が高く、「健康が世界的なテーマとなるなか、農業の成長余地は大きい」(デンカの高城部長)と期待されている。

 今回のシステムは肥料の老舗であるデンカの製品と、ベンチャー企業の新技術を組み合わせて生まれたものだ。長く続く事業でも発想次第で新たな種を実らすことはまだまだできる。有機的な企業連携の重要性がますます重みを増している。
(古川慶一)[日経産業新聞2016年9月14日付、日経電子版から転載]

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