偶然を「ラッキー」に変える技術とは

「自分は運がいい」と思ったことはありますか？　世の中には、偶然いいことが起こるタイプの人がいるようです。それはどんな人なのか、真似できるところはあるのかを考えてみましょう。

第一志望でなくても充実した毎日

文具メーカーに入社して3年目のMさん、営業担当者として優秀な成績を収め、昨年は会社の新人賞を獲得しました。毎日が楽しく充実している、というMさんに,「就活では、今の会社を狙っていたんですか」とたずねました。

すると、「いや、全然です」という返事。

本当は、アパレル業界を志望していたとのこと。就活イベントに参加したとき、会場でたまたま立ち寄ったのが、今の会社のブースでした。

自分が使っているペンケースと同じものが展示してあったため、「僕、これのグリーンのやつ持ってます」と何気なく言いました。すると、スタッフの男性が、「僕がその開発を担当したんですよ」と身を乗り出してきました。会話が弾み、会社に対していい印象を持ち、入社につながりました。「志望した業界ではないが、調べてみたら、いい会社だと思った」そうです。

入社の際は、商品企画部への配属を希望しましたが、かなわずに営業部門へ。しかも上司が厳しい人で、一時は落ち込みますが、その上司が自分の父親に似ていると気づき、親近感を持つようになります。しごかれましたが、新しい顧客へのアプローチを重ね、おかげで成績が伸びたのだそうです。

思い通りに行かなくても

話を聞くと、偶然が重なって、今のMさんの状況に至ったことがわかります。

実は,自分が満足できるキャリアを歩んでいる人やいわゆる成功した人には、この「偶然」「たまたま」のできごとが、今につながったという話が多いのです。

スタンフォード大学のクランボルツ教授がこの現象に興味を持ち、研究をはじめました。そして、偶然のできごとを自分のキャリアに結び付ける人には、ある特徴があることを見出しました。そして,それを「計画された偶然理論（Planned Happenstance Theory）」として発表したのです。偶然ですから,計画されたというのはおかしな話なのですが,その人の行動がその偶然を呼び寄せているという意味で計画されたという言葉が使われています。

この理論では,次の5つの特徴が,よい偶然を呼び寄せるとされています。

うまくいく行動に見る5つの特徴

Mさんは、自分が志望する業界がありましたが、就活イベントで、それ以外のブースにも立ち寄りました。新しいことを学ぼうという興味を持っていたのです。調べてみるといい会社だと思った、と考え方を変える柔軟性も持っていました。配属や上司のことで挫折も経験しますが、あきらめませんでした。厳しい上司に対しても親近感を抱くという楽観性も発揮します。営業で新しい顧客にアプローチするときには、きっとリスクをとるという経験もしたことでしょう。

例えば、大学で授業をとるとき、今まで取ったことのない先生の授業や違う分野の授業にも「興味」をもってトライしてみましょう。

授業の内容がむずかしいと挫折しそうになったとき、なにか工夫をしてみましょう。できそうな友人に教えてもらったり、先生に直訴して、わかりやすい本やサイトを紹介してもらう、など手を尽くしてみましょう。「柔軟」に、そして「あきらめない」ことです。

こうした経験が、「偶然」将来につながったり、自分の人生を貫く軸になったりします。

友人関係でも

友人との関係がうまくいかないときも、「楽観的」にものごとのいい面を探しましょう。「こんなときでも、お互い挨拶だけはしている」、「この人、怒るポイントが自分と似ている」などです。ずっと友人でいようという「あきらめない」意思を持つのです。そして,うまくいくかどうかわからなくても,一か八か「リスクを取って」、仲直りのひとことを口に出しましょう。

読者の中には,「この大学でよかったのかな」「このサークルでよかったのかな」と考えている人もいるかもしれません。確かに,数ある大学やサークルの中から,「たまたま」「偶然」,今の大学やサークルに入ったといえます。最良の選択だったかどうかは,誰にもわかりません。

その「たまたま」を「ラッキー」に変えるのは,あなたがその環境の中で,いかにいろいろなことに興味を持つか,柔軟に考えるか,あきらめないか,ものごとの良い面を見るか,一か八かでやってみるか,にかかっています。

私は,「計画された偶然理論」の提唱者,クランボルツ教授が来日した際,講演を聞きに行きました。その際,教授自身も自分の人生の中で計画された偶然を経験したという話をしてくれました。教授は,学生時代「たまたま」友人のすすめでテニスを始めました。本当は卓球をやろうと思っていたそうです。しかし,その後テニスにのめり込み,大学時代にはテニスのコーチが「偶然」心理学をやっていた人だったため,その人のすすめで心理学を専攻することに決めたのです。結果的に,この「計画された偶然理論」を発表する等,素晴らしい成果を挙げています。

「偶然」は自分で呼び寄せている

人生は思い通りに行かないものです。「本当は,あの大学に行きたかったのに」「あっちのサークルに入ればよかった」と思うこともあるでしょう。でも,その思い通りに行かないということ自体,あらたなチャンスと考えて取り組んでみると,思いもしなかった世界が開けます。

いまあなたが座っている教室も,隣にいる友人も,開いている教科書も,これまでの「たまたま」「偶然」の積み重ねです。しかし,実はその「偶然」はあなたが呼び寄せたものかもしれないのです。

いますぐ実行できる5つのポイント,「興味をもって」、「柔軟に」、「あきらめず」、「楽観的に」、「一か八か」で,よい「偶然」を呼び寄せましょう。「偶然」を「ラッキー」に変え,やる気スイッチを入れましょう。