大変なことはすべきだが、苦労はしないに限る
女子大生経営者として学んだこと(6)
日経カレッジカフェで連載をさせていただいておりますが、自分は1つ誓っていることがあります。それは「25歳になるまで絶対本を出さない」ということです。実際、これまで何件かお断りさせていただいています。
今、本を出さない理由
理由は、いま本を出したところで、「昨年は毎日2時間しか寝られなかった」とか「こういった大変な問題が起きた」というような、ガムシャラにやっている中での苦労話をすることしかできないんじゃないかと感じているからです。
確かに一昨年は睡眠時間が短かったのは事実ですが、それは私の力量不足が災いしただけで、それが起因して成功した訳では一切ないからです。でも、それは1年くらいして落ち着いてみてそう思うだけであって、やはりリアルタイムの話だと自分の苦労を肯定するために美化しやすいのです。
そういった意味でも、本を出すならある程度経験も蓄積されてそれを整理する時間ができた25歳くらいがいいなあと思っています。その代わり流れの速いネットには、このようにリアルタイムのことを書かせていただいております。
成功している人は苦労を美化するけど......
今回話したいのは、成功している人でメディアに出ている人は揃って苦労を美化するけど、それを鵜呑みにしない方がいいってことです。これは社会に出た先輩達を見ていて思ったことですが、「苦労した方がいい」っていう理由で会社に入った人は、大体何もなくそのまま会社で過ごしていく場合が多いです。私自身もそうだけれど、仕事を嫌々やるような苦労は、仕事をした気持ちや、頑張った気持ちにこそなるけれど、これといった成果は出ないことがほとんどだと思います。
実際、自分は経理の仕事を嫌々苦労してやっていたし、恥ずかしながら「経理までやっちゃう経営者なんてかっこいい」とか「経理で忙しい自分すごい」というようなことを考えていた時期もあります。でも、いざ他の人に頼むようになると、いかに自分が非効率的で、仕事よりも仕事をする自分に酔っていたかを痛感しました。
他の人に経理を頼めば、いかに自分が作業を覚えるために時間だけを延々と使うことに満足していたのか、実際の作業の精度がいかに低かったのかが分かりました。発送作業を人に頼めば、その方がミスも少ない。そして何より、そういった自分がやらなくていい仕事がほぼ人に頼めるようになった際、いかに自分が「自分がやるべきこと」に時間と労力をかけてなかったかが分かりました。目の前の作業に集中し、私が本当にやるべきであったブランドのプロデュース部分がごっそり抜けていたことに気付かなかったのです。
このように、「苦労した」と、きれいな話にして言っている場合の多くは、それだけの仕事をしたというよりも、「計画性がなかった」「非効率的だった」というだけの場合も多いような気がします。苦労を美談にしているだけかもしれません。
苦労を良しとする日本文化
日本は苦労せずに100の仕事をする人と、苦労して苦労して80の仕事をする人だったら後者が良いとされる文化がある気がしています。それは特に学習現場などで顕著だと思います。
小学校では、すぐ漢字を覚えて書けるようになることよりも、ノートにたくさんの漢字を書いてきた方が評価されます。中学校では、効率よく学んで、まんべんなく英語をしゃべれて、英語の模試でも好成績をポンポン出せる人よりも、10個の英単語テストに向けて10個だけ練習し続けて10個だけ丸がつく方が偉いとされがちです。その時の教育が染み付いて、いまだにそれが良いと思っている人は多いと思います。
でも、それは学校の話で、仕事においてはむしろ逆が求められるようになります。苦労せずに短時間で100の仕事ができたほうがすごいし、それに越したことはないということです。ただ、その苦労せずに100の仕事をできるようになるまでには、よく考えて工夫したり、時間をかけて積み重ねることが大切になってきます。
例えば、凄腕カメラマンが撮影から仕上げまでを1時間でこなしているとします。それはそこに至るまで真面目に試行錯誤をし、少ない手数で最高の仕上げをできるように進歩してきた結果そのものでしょう。これを努力というのかなと私は思っていますが、努力はした方がいいし、努力は大変かもしれないけど苦労にはならないと思います。
ということで、苦労は一時的には評価されるかもしれないけど、それは一時的なものでしかありません。結局、苦労せずに努力をするのが一番だな、という話でした。
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