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[ career-働き方 ]

「総合職へ」一般職の挑戦
背中押す企業

「総合職へ」一般職の挑戦背中押す企業

 定型業務や総合職の補佐役を担い、女性が大半を占める一般職。人材不足の中、一般職社員が持つ経験や能力を最大限に引き出したいと考える企業が増加。一般職から総合職に職制転換を促したり、職制の区分をなくす動きが広がっている。管理職への道が開かれるなどキャリアを一段と広げるチャンスになっている。

サッポロビール

 サッポロビールは162人いる一般職社員の総合職への転換を促す取り組みを本格的に始めた。「職責を担えば成長できる。人が成長する機会をつくりたい」。3月に国内のビール業界では初めて生え抜きの女性取締役に就いたサッポロホールディングスの福原真弓取締役(52)が主導。職制転換への不安を払拭するため、5月から一般職社員を集め研修を始めた。

 「立場に関係なく挑戦できる機会の大切さを痛感した」。今春から始まった研修で福原氏は、30代でワイン専門店の運営会社に出向した経験を話す。総合職で入社した福原氏だが、出向先ではPOP(店頭販売)作成に秀でたアルバイトが正社員を経て店長になり、一般職社員が成果を出してバイヤーとして独り立ちする姿を目の当たりにした。職制の違いは関係なかった。一般職も含めた女性の働き方を考えるきっかけになった体験だ。

サッポロビールは研修を通じてキャリアについて考えてもらうことで総合職への転換を後押しする

 サッポロビールでは総合職への転換を促すため、2年前から試験の受験資格を得るまでの期間を短くするなど改革にも取り組んできた。しかし、転換を果たしたのは年に1~2人にとどまり、大きくは増えなかった。福原氏は、「試験の難しさや不安よりも、総合職になりたいという気持ちを呼び起こす取り組みが必要だった」と振り返る。

研修で不安解消、転勤ない職制も

 研修に参加した一般職の女性社員は「転換しても仕事ができず迷惑がかかるのではと不安だったが、背中を押してもらった」と語る。10月から始まる職種転換試験の応募者は、一般職社員の約4割がエントリーした。

 急激な生活環境の変化が生じないよう、1月に転勤のない新たな職制を取り入れたことも大きい。総合職には2種類設けた。一つは転勤があり、もう一つは待遇は劣るものの育児や介護などの事情があるうちはエリアを越えた転勤はない。

「大変なことも多いだろうが、仕事を面白くするチャンスだ」。社員からは前向きな声が増えている。一般職社員の7割に総合職に転じてもらう目標を掲げ、活躍を推し進める。

井村屋

 アイス菓子「あずきバー」で有名な井村屋グループは2015年4月、総合職・エリア総合職・一般職の3つの区分を廃止し、人事評価と賃金体系を一本化した。約900人の男女の従業員のうち6割を占めるエリア総合職・一般職が総合職に転換した形だ。きっかけは海外展開戦略だ。

課長代理として働く井村屋の田中規美子さん(左)(津市)

 同社では課長代理以上を管理職とし、それまで一般職は管理職になることはできず、エリア総合職も役員になる道は閉ざされていた。キャリアの限界が見えることで成長意欲がそがれてしまう場合もあった。職制転換希望者も年2~3人だった。15年度からの中期経営計画ではアジアなど新規市場開拓を打ち出した。「グローバルで活躍できる人材を広く育成するため、モチベーションアップは欠かせなかった」(中島伸子専務)

 不安を払拭するため制度変更の準備には2年近くかけた。導入前は総務担当者を中心に各支店や工場をまわり20回近く説明会を開いた。一般職からの「転勤をする必要があるのか」という質問に、中島専務は「転勤が目的の制度変更ではない」と説明を繰り返した。
仕事と家庭生活を両立できるよう「子ども手当」も新設。子ども1人あたり月3000円を支給する他、本社に隣接する託児所の利用も促し、子育てしながら働き続けられるよう支援している。

管理職の道開く 「皆をひっぱる」

 導入から1年以上たち成果も見え始めた。管理職に昇進するのに必要な通信教育の受講希望者が大幅に増えた。

 「現場の改善策などを考えついても一般職の立場ではなかなか声を上げにくかった」。一般職として入社したまんとう生産部門の田中規美子課長代理(44)はこう話す。「管理職になってみんなをひっぱっていきたいという気持ちも生まれた」。総合職として入社した海外事業戦略部の三村祥子主任(33)も「キャリアの話をしやすくなった」と変化を実感する。

金融業界、いち早く変革

 厚生労働省が昨年10月に公表した総合職と一般職に関する実態調査では、対象企業が2014年4月に総合職として採用した社員の女性比率は22.2%だった一方、一般職では82.1%を占めた。厚労省は総合職や一般職といったコース区分について「運用で男女異なる扱いがされる場合は、男女雇用機会均等法に違反する」と指摘する。だが一般職の求人を女子短大のみに出して行政指導を受けるなど、旧態依然とした事例は今なおみられる。

 一方、企業側から変化も出てきた。変革に動いたのは金融業界だ。例えば東京海上日動火災保険は04年に、損害保険ジャパン(現損害保険ジャパン日本興亜)は10年に一般職の職制を廃止した。阿波銀行や福岡銀行なども続いた。営業面でも女性が活躍することが多い職場だったこともあったが、結婚や出産で退社する女性社員が減るなかで、一般職というコース区分の存在が女性のキャリア形成を妨げていると見る向きが広がったためだ。

 ここにきて金融以外のメーカーや地方の企業でも変革の動きが広がっている。少子化やグローバルでの競争の激化で人材が不足するなか、「社内で経験を積んできた一般職社員に即戦力として活躍してもらいたい」(サッポロホールディングス)という期待が広がる。ただ転勤への対処、仕事と家庭の両立支援など、乗り越えるべき課題は多そうだ。

能力発揮の場、どう広げる

 総合職・一般職のコース別雇用管理は、女性の働き方に大きな影響を与えてきた。「キャリア形成とは本来、経験を積みながら可能性を模索していくものだが、入り口で仕事を固定すると、そのチャンスが奪われる」と学習院大学の松原光代特別客員教授は指摘する。

 職制区分を撤廃・柔軟化することは、女性の能力発揮の機会を広げ、企業にとっては人的資源の効率的活用につながる。一方で実施にあたっては、一般職として働いてきた女性の意識改革や、個々のキャリア形成を丁寧にサポートする施策が企業側に求められる。
改正労働契約法により、2018年には5年を超える有期契約社員の無期転換が始まる。「企業は女性だけでなく有期と無期、正規と非正規など人材活用の在り方全体を見直すタイミングだ」
(朝田賢治、香月夏子)〔日本経済新聞朝刊2016年9月10日付、日経電子版から転載〕

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