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ジュリアード@NYからの手紙(1)エンターテインメントの街、ニューヨークで始めた学生生活

廣津留すみれ authored by 廣津留すみれ米ジュリアード音楽院1年生
ジュリアード@NYからの手紙(1) エンターテインメントの街、ニューヨークで始めた学生生活

 ジュリアード音楽院修士課程1年生の廣津留すみれです。先月まで「ハーバードからの手紙」を連載していましたが、ハーバード大学を卒業して今秋からニューヨークのジュリアード音楽院に進学、それに合わせて新連載「ジュリアード@NYからの手紙」を始めます。

 これまではハーバード大の寮生活・学生のスペック・就活事情など幅広くお伝えしてきましたが、今回はエンターテインメントの本拠地ニューヨークのパフォーミング・アーツ大学というまったく違う環境から、様々なトピックをお届けします。お付き合いいただければと思います。

(まだ「ハーバードからの手紙」をお読みいただいていない方はこちらからどうぞ!)

ニューヨークのど真ん中にあるジュリアード音楽院。今年の世界芸術大学ランキングで第1位に

プロを育てる街、そして学校

 オリエンテーションを終えて授業が始まり1カ月半が経ちました。ジュリアード音楽院は正確にはジュリアード・スクール(The Juilliard School)といって、演劇科・ダンス科・音楽科に分かれています。日本からの学生は4年生の学部・大学院を合わせてもかなり少ないです。専門的だと思われがちな学校ですが、実は社会に役立つことの多い多角的な学校です。

 というのは、プロフェッショナル教育が優れていることが理由の一つです。ジュリアードに通う学生は在学中からプロとして演奏する機会が大変多いため、プロとしての基本のルールを実体験から学びます。学内オーケストラのリハーサルも、プロの指揮者を迎えて行うため、時間の正確さには厳格です。

 校外での演奏活動は、報酬をいただいて演奏させていただくので、契約書作成から当日の準備・演奏まですべて完璧であることを求められます。時間の正確さだけではなく、契約書の書き方・身だしなみ・挨拶・事前練習・メールの対応など、実社会に出てから当然にできなければならないことを、あっという間に体が覚えます。音楽に限らずどんな分野でも「プロ」として生きていく上での必要不可欠な知識を、新入生オリエンテーションで紹介されるのです。

ジュリアードに来て初のコンサートのリハーサル風景

最年少でブロードウェイデビューを果たしたハーバードの先輩

 そんな中、ハーバード大の2学年上にあたる女性の先輩マディー(本名:Madeline Smith)が今月、ブロードウェイでミュージカルの指揮をすることになり、メディアで「24歳、史上最年少デビュー!」と大きく取り上げられました。マディーは私がハーバード1年生の時に、FAP(Freshman Art Program)というイベントで一緒にミュージカルを作り上げた尊敬する仲間です。

 彼女はハーバードの卒論にオリジナルのミュージカルを完成させて提出、その後来年公開のディズニーの「アナと雪の女王(Frozen)」ミュージカル版の音楽監督のアシスタントに抜擢され、見事に「Waitress」というミュージカルのオーケストラピットで指揮者デビューを果たしました。好きなことをずっと続けて、プロとして道を切り開いていく彼女のストイックな生き様に感銘を受けたのはもちろん、24歳の女性指揮者をプロとして快く受け入れる街、ニューヨークの寛容さを感じ、盛大な拍手を受けるステージ上の彼女の姿に涙が止まりませんでした。

 ニューヨークというと、映画の舞台にもよく使われる憧れの街、という印象でした。「プラダを着た悪魔」に出てきたアン・ハサウェイを見て、あんな風にニューヨークの街中を忙しく駆け回ってみたい、と思ったことがある方も多いでしょうし、私もその一人でした。しかし、実際に夢を追いかける人が集まるニューヨーク、常に人の入れ替わるこの街では、もたもたしているとすぐに置いていかれる空気があります。

 決して夢を諦めない、マディーのような優秀な人々が登りつめていく一方で、出遅れると待ってあげないよ、と街に告げられているような気になる瞬間が常にあるのも事実です。時間と人と文化の流れにどこまで追いつけるか、自分を試すことができるこのニューヨークという環境で戦えることに感謝しています。

マディー(前列中央)の応援にきたNY在住のハーバード卒業生の仲間たちと舞台上で

エンターテインメントをもっと増やそう

 日本では東京オリンピックの開催が決まり、2020年に向けてインバウンドの需要が増えています。例えば、2012年8月には77万人だった訪日外国人観光客数は、2016年8月は200万人を超えています。パフォーマーの立場から見ると、これだけの外国人が来るのに、首都東京でさえ夕方から夜にかけて観光客が楽しめるエンターテインメントイベントやプログラムが少ないのが残念です。

 また、4人に1人が65歳以上といわれる少子高齢社会の日本ですが、アクティブな50代、60代以上の世代が夕方から夜に出かけていけるイベントもほしいところです。そしてもちろん、若い世代が値段を気にせずにアートに触れる機会ももっとあるべきだと思います。

メトロポリタン歌劇場前にて

 私の学校はリンカーン・センターというニューヨークの音楽シーンの中心にあるため、1分歩けばオペラ劇場(メトロポリタン歌劇場)、ニューヨークシティバレエの本拠地(ディヴィッド・コーク劇場)、ニューヨーク・フィルハーモニックの本拠地(ディヴィッド・ゲフィン・ホール)があります。ミュージカルで有名なブロードウェイは地下鉄で10分の距離です。傑作の集まるメトロポリタン美術館・ニューヨーク現代美術館・自然史博物館に足を運び気軽にタイムトリップをすることができます。

 ほとんどの公演・施設には学生料金が存在するため、高いチケットを買う必要はなく、学校帰りに世界最高峰の公演や作品を安い値段で観ることができるのです。オペラやコンサートを観てあまりのクオリティーの高さに刺激を受けて、学校に戻って練習を再開することも多々あります。最近日本でも勢いに乗り始めたNetflixやSpotifyなど、自宅で楽しめるコンテンツは増える一方ですが、ライブパフォーマンスは何にも代えがたいものだとニューヨークで実感しています。

 刺激でいっぱいの街ニューヨークから、出会った人・イベントや生活の様子を伝えていきます。次回の更新もぜひお楽しみに。