日本経済新聞 関連サイト

OK
[ career-働き方 ]

生涯キャリアの選択肢(14)内定がゴールではない
~専門能力を高めよう

西山昭彦 authored by 西山昭彦一橋大学特任教授
生涯キャリアの選択肢(14) 内定がゴールではない~専門能力を高めよう
撮影協力:柏の葉イノベーションラボ KOIL

日本企業の給与は高いが...

 先日、就職情報会社のセミナーに出席した。出席した講師の1人が「内定までしか考えてない学生が多い。本当にその会社で仕事をしたいのか十分検討していないのでは」と疑問を呈した。そう、数十年やる仕事そのものにいまから関心を持って視野に入れることが大事だ。

 今回は3つのスキルの最後、専門能力について考えたい。日本企業の社員の給与は、競争相手の各国と比べて高いほうだ。したがって、給与の低い国の人の仕事と同じことをしたら、全く競争にならない。また、他方でAIが今後人の仕事を奪ってくる。したがって、他の人やロボットができる普通の仕事をしていてはいけない。プロスキルを身に付けて、他の人ができない高度な仕事をするから高い給与が得られるのだ。

 それはどういう仕事だろうか。先端、先進分野で、他の人が手を付けられない。仕事の処理能力に幅があり、複数の人の仕事を一人でこなせる。その仕事と別の仕事のつなぎや調整ができる、成功したやり方を教育指導できる、その会社の中でいいやり方を標準化できるなど、いくつも考えられる。

 例えば、トヨタ自動車の「横展(よこてん)」とは、ある職場で新しい試みをして、それがすごくよい場合、他職場へも展開し、社内で標準化することである。それができる人も職場は競争力を持つ。

専門能力を持つ

 専門能力という点では、理系の社員は研究開発や製造管理で専門性をあらかじめ求められている。大学での専攻と職場が密接に結びついている。他方、文系出身の場合は、それがないことのほうが多い。入社後、営業、経理、人事、購買、法務、広告など配属先の分野で、12回で述べた成長の3段階を定め、スキルを上げていくことが必要だ。

 文系で実績をはっきり出せて市場価値も高いのは、営業とマーケティングだ。営業は利益を数字で示せるので、他社も雇いやすい。証券の採用担当が「体育会出身者は人間力が高く、営業成績をあげやすい」といっていた。では、もうひとつのマーケティングで専門性を高めるにはどうしたらいいだろうか。

 筆者の例だと、入社2年目で、支店の販売戦略担当になった。販売キャンペーンを立案、実行する仕事を若いうちに任された。そこでマーケティングを学びだしたのがきっかけで、それ以降もその分野に関わりを持ってきた。この時からの取り組みを私の3段階ステップアップ理論に置き換えると、どういうふうになるだろうか。

 第1段階では一人前をめざし、業務を覚える。課題を見つけ、それを解決するマーケティングの仕事にトライする。私は当時ある商品の販売責任者になって、数十万円の機器を、数千台売る販売計画を立てた。セールスポイントをどこにして、チラシやイベントをどうするかを決め、数百名の営業員に指針を出した。結果は全社的にも認められるヒットになった。何かの結果が出れば、小さな成功体験ができ、仕事に対して一気に興味が増す。

 一方、この段階では、仕事の背後を固めるため、自己啓発で「日経ビジネス」などビジネス雑誌を読む。マーケティングの入門テキストを読む。基礎的な入門セミナーに出る。基礎、土台が専門には必要なので、この入門段階はすごく大事だ。いきなり専門にいくと全体像がわからないのでどこかで伸びなくなる。スポーツも基礎からやるのと同じことだ。必ずここは飛ばさないで、時間がかかっても全体をつかむことだ。

 その点、経営学部や商学部の人は有利だ。この段階はすでにできているはずだ。逆に他学部の人はあとから追いつかないといけない。

さらにキャリアアップ

 第2段階では、専門書や他社のケーススタディから学び、自社での新しいやり方を提案し、ある程度規模を拡大して職場に導入する。常に修正を加えながら、職場で結果を出す。まだまだスターには至らないけれども、実務でヒットを打ち、存在を認められる。

 この段階では、各テーマごとの各論について深く学ぶ。全体も、前よりも専門的な本を読む。マーケティングの世界的なテキストと言われている、フィリップ・コトラー著「マーケティングマネジメント」などだ。商学部ゼミで読んでいる人もいるかもしれない。

 3段階目になると、次々に新商品や新施策を繰り出し、売り方を改善し職場をリードする。他部署からも一目おかれ、その成果に注目が集まる。新商品の提案、社内での承認、市場への販促、利益管理までフルコースを担当する。

 市場調査に多変量解析などの大量データ分析と関係者へのヒアリング技術を身に着け、スキルも複合化する。入社後だいぶ経ってからだが、私のグループは全社の営業支援で、数万台の機器の販促をやったことがある。この2つの手法を組み合わせ、狙いどころとセールス手法を抜本的に変えて、前年比4割増を達成し、営業部門に認知された。

 この段階になると、関係する研究会での発表や論文を出す。各論のそれぞれの議論が今どこにあるか、何が不足しているのかがつかめるようになる。そして、それらの解決策の提案をするサイドになる。つまり、その分野のプロの世界に入ったことになる。

 以上のうち、学生時代にやっておきたいのは統計学だ。これは社会人になって学ぶより、今のほうが習得が早い。授業便覧を見て、関係科目をとりたい。他の人との差別化にもなるし、ビックデータ時代なので文理関係なく就活時のアピールにもなる。

「日経College Cafe」のお勧め記事はこちら>>