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宇宙の生命探しに弾み
木星の衛星で巨大な噴水

宇宙の生命探しに弾み木星の衛星で巨大な噴水

 米航空宇宙局(NASA)が、木星の衛星「エウロパ」から宇宙に大量の水蒸気が噴き出しているとみられる様子を宇宙望遠鏡「ハッブル」で捉えた、と発表した。「驚くべき活動」と事前に予告したわりには肩すかしの印象もあるが、エウロパの地下に広がる海に何があるかを探る可能性が高まった意味は大きい。エウロパの海は太陽系の中で地球以外に生命が存在する可能性が最も高い場所のひとつとみられ、生命探索に弾みがつきそうだ。

氷を掘らずに海水の採取が可能に

 ハッブルが捉えたのは、エウロパの南極付近で地表から200キロメートルの高さまで噴き出した水蒸気の影だ。1年3カ月の間に10回の観測を行い、そのうち3回、時間をおいて断続的に水が噴き出す間欠泉のように水蒸気が噴き出している様子を撮影した。

 NASAは2018年にも打ちあげる新しい宇宙望遠鏡でさらに詳しく調べるとしているが、ハッブルが捉えた映像が水蒸気に間違いなければエウロパの地下にある海から噴き出しているのは確実。表面を覆う厚い氷を掘り下げることなく、上空に噴き出した水蒸気を採取して、海にどんな成分が含まれているかなどを容易に調べることができる。

木星の衛星「エウロパ」に接近する探査機「エウロパクリッパー」(想像図、NASA提供)

 地球でも、最初の生命は海で誕生したと考えられている。太陽系内で生命や生命の痕跡を見つけられるのではないかと期待される星は火星などいくつかあるが、海を持つエウロパは最有力候補のひとつ。「長期間、水の環境が保たれているのは、地球とエウロパくらい。生命が生まれて進化する時間があるのでは」と関根康人・東京大学准教授は期待する。

土星の衛星でも噴水 初期の地球に似た状態

 実は、今回のように地表から水蒸気が噴き出しているのが見つかったのはエウロパが最初ではない。土星の衛星「エンケラドス」で、すでに同様の現象が見つかっている。04年に土星に到達し、観測を続けている探査機「カッシーニ」が発見、噴き出した水蒸気に含まれる成分を採取して分析する研究も進められているところだ。

土星の衛星「エンケラドス」の南極付近から噴き出す水(NASA提供)

 関根准教授も参加した国際研究チームによるエンケラドスの研究などから、太陽から遠く離れ氷に閉ざされた衛星が、生命を生み出した初期の地球に似た状態にあることがわかってきた。噴き出した水に含まれる成分を分析し、エンケラドスの海でセ氏90度を超える高温で海水と岩石が反応していることなどが明らかになったからだ。

 地球でも、海底から火山活動の影響で噴き出した熱水の周りに多くの生物が存在し、最初に生命が生まれた場所ではないかと考えられている。生命の誕生には液体の水があるだけでなく、こうした熱エネルギーも必要だが、その条件がそろっていたというわけだ。

 ただ、エンケラドスの直径は500キロメートルと地球の25分の1しかない。「海が何億年もの長期間、存在していると考えるのは無理がある。生命の誕生が進みつつあるかもしれないという点ではおもしろいが、進化するだけの時間はないのではないか」と関根准教授は説明する。

衛星としては大きなエウロパ、海が長期間存在する可能性

木星の衛星「エウロパ」の左下に水蒸気の噴出とみられる影が見える(NASA提供)

 地球上で最初の生命の痕跡が現れるのは約40億年前。地球が誕生してから5億年程度たってからとみられ、生命が誕生するには時間が必要だ。直径が約3000キロメートルと月に近く、エンケラドスよりずっと大きなエウロパならば、長期間、海が存在することが可能とみられ、それだけ生命発見への期待も高まる。

 地表を覆う氷の割れ目から水蒸気が噴き出すのは、海水に二酸化炭素などのガスが多く含まれているためと考えられている。炭酸水のボトルを振ったり暖めたりしてから、ふたを外すと炭酸水が一気に噴き出すようなものだ。エンケラドスから噴き出した海水には、大量の二酸化炭素や水素のガスが含まれていた。エウロパも同様ではないかとみられるが、200キロメートルの高さまで水蒸気が噴き上げられるのは、「もしかすると火山活動などがあり、そこから大量のガスが出ているのかもしれない」(関根准教授)。

 エンケラドスでカッシーニ探査機が集めたサンプルには有機物が含まれていて、これがエンケラドスの海でできたものか、エンケラドスができるときの材料にはじめから含まれていたものかの分析も進められている。

2020年代に新たな木星探査機、水のサンプル採取

 NASAは20年代に、新たな木星探査機「エウロパクリッパー」を打ちあげる構想を持っている。カッシーニ探査機が土星のエンケラドスで噴き出した海水のサンプルを集めたように、エウロパクリッパーもエウロパから噴き出した海水のサンプルを採取して生命を探すことになる。さらに欧州が中心となりエウロパを含む木星の衛星を調べる探査機「JUICE」を打ち上げる計画も進んでいる。搭載する観測機器では日本も参加する。エウロパから噴き出している巨大な水蒸気の噴水は、こうした探査計画を後押しし、生命探索に勢いを与えるきっかけになったことは間違いない。
(科学技術部シニア・エディター 小玉祥司)[日経電子版2016年10月3日付]

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