就活でも重要な「フォロワーシップ」
やる気スイッチを入れよう(20)
リーダーシップという言葉をよく聞きます。その対になる概念として、フォロワーシップがあります。チームの中でリーダー以外の人が持つべき心構えやとるべき行動のことを言います。
大事なのはフォロワー
大学の授業で、数人ずつのグループを編成し、リーダーを選出する機会がありました。「これまでリーダーになったことのない人から選ぶ」という条件を付けたところ、いつもはリーダー役のMさんが、初の「フォロワー役」を経験することになりました。
その後のグループディスカッションで、MさんのグループではリーダーになったSさんが司会をしましたが、活発な議論にならず、Mさんも退屈している様子でした。授業の最後に記入する「振り返りシート」では、Mさんは「グループがうまくまとまっていない。これからが不安」と書いています。Mさんはこれまで、リーダー役としては活躍していましたが、「フォロワー」役となると、うまくこなせていないようです。
グループの活動では、リーダーも重要ですが、リーダー以外のフォロワーがどう考え、どう行動するかが同じくらい重要です。リーダーは一人ですが、フォロワーはその何倍もの人数がいるのです。グループの大半を占めるフォロワーの意識や行動が、グループの成果を決定づけます。
理想のフォロワー、最悪のフォロワー
先ほどのMさんのいるクラスの授業では、「理想のリーダー、最悪のリーダー」「理想のフォロワー、最悪のフォロワー」についてグループで議論をし、発表をしてもらいました。
リーダーに関するコメントも面白いのですが、ここではフォロワーについて見てみましょう。
授業や部活動、アルバイト先での実体験が基になっているのでしょう。学生のナマの言葉で理想と最悪が描かれています。どのコメントも的確ですが、特に、理想のフォロワーの「立場はフォロワーだが、行動はリーダー的」という指摘は、フォロワーであってもリーダーの視点を持つことの大切さを示唆していて、考えさせられます。
この授業では、毎回このスライドを提示し、確認してからグループワークに入ることにしています。誰でも、ついつい最悪の方に近い行動を取ることがあります。そんなとき、「あ、"最悪"の方、やっちゃってる」と気づくことが大事です。そこから、理想に近づいていけばいいのです。
フォロワーの2つの力
フォロワーシップに関する研究で、米カーネギーメロン大学のロバート・ケリー教授は、フォロワーには「貢献力」と「批判力」が必要だと言っています。「貢献力」とは、リーダーの指示に従い、目標達成に向かう力です。「批判力」とは、リーダーの判断や指示が正しいか否かを考え、必要なら提言をする力です。2つの力を兼ね備えることが大事なのです。
職場でも採用面接でも活きるフォロワーシップ
企業の採用面接では、学生にグループワークをさせ、その時の1人1人の様子を見て評価するスタイルが多く取り入れられています。そのような面接を受けた学生が、「リーダーシップのある人に気圧されてしまって、あまりいいことが言えなかった」としょんぼりして帰ってくることもあります。しかし、そう言っていた学生が、次の面接に来るようにという朗報を受け取ることも多いものです。
企業は、リーダーシップだけでなくフォロワーシップも見ています。自分がグループの中でリーダー的な役割にならなかったとしても、フォロワーとしての役割をしっかり果たしましょう。リーダーをいかにサポートするか、グループ全体にどれだけ気を配るかを考えるのです。
例えば、次のことを意識してみましょう。
◆リーダーの提案をよく聞き、受けとめ、賛成か反対かをきちんと言う。
◆他のメンバーが黙っていたら、「私はリーダーの意見に賛成だけど、みんなはどう?」と聞く等、発言を促す。
◆グループでやるべきことに関して、「じゃあ、僕が〇〇を担当するよ」と積極的に仕事を引き受ける。
こうしてみると、フォロワーとしてできることは、たくさんあります。
いろいろなフォロワーがいていい
リーダーにも様々なタイプがあるように、フォロワーにもいろいろなタイプがいていいのです。自分はどのようなフォロワーになれるか、考えてください。
例えば、次のようなフォロワーのタイプが考えられます。
【ムードメーカータイプ】 リーダーや他のフォロワーのコメントに対して、「いいね!」「それ、やってみようよ」と賛同して盛り上げ、グループを明るい雰囲気に持っていく。
【行動派タイプ】 「じゃあ、まず〇〇から始めようか」「◇◇したらいいんじゃないかな」というように、アイデアを出して、ものごとを現実的に進めていく。
【分析派タイプ】 あまり発言は多くないけれど、ものごとを冷静に考えて、「こういう見方もあるんじゃないかな」「その場合、こういうリスクがあるよ」と、あえて違う意見やリスクを提示し、議論を深める。
どうですか。まずは自分の得意なやり方を試しましょう。また、グループディスカッションが得意でなく、どのタイプにもなれないと思ったら、書記を引き受ける等、【縁の下の力持ちタイプ】としてグループに貢献する方法もあります。
いずれの場合も、最終的な目的は、グループの皆でなんらかの成果を出すことです。そのために自分は何ができるかを考えましょう。ただ単に盛り上げたり、批判をしたりすることだけが目的にならないよう、注意してください。
フォロワーになってみる
このコラムの最初に出てきた、初めてフォロワー役になったMさんですが、授業が終わった時に、私から「いつもリーダー役をやるMさんだからこそ、今回はフォロワーとして、リーダーをどうサポートするかを考えてほしい」と声を掛けました。
次の授業では、Mさんがグループワークに積極的に参加し、その他のフォロワーもつられるように発言をし、活気のあるディスカッションになっていました。Mさんは、「自分を、リーダーの"補佐役"だと思うことにしたら、やれました」と言っていました。
自分は〇〇役だ、と役割の名前を明確にしてグループワークをスタートさせると、その役割を演じやすいのでしょう。「グループのムードメーカーになろう」とか、「縁の下の力持ちとして、皆を支えよう」等と意識するだけで、表情も行動も変わります。そして、グループの雰囲気や動きによって、違う役割を果たすようになっても、もちろんいいのです。
グループの中での自分の役割を意識しましょう。リーダーでなかったとしても、フォロワーとして皆の役に立とうと工夫をしてみましょう。就活でも、ふだんの雑談でも楽しく意義のある話し合いができるようになります。
明星大学経済学部特任教授、JTBモチベーションズ ワーク・モチベーション研究所長。筑波大学の博士課程で、組織におけるモチベーションの伝染について研究中。大学ではキャリアや就職支援の講義を担当、企業とのコラボレーションによる講義も実施。JTBモチベーションズでは企業で働く人への研修やコーチング、経営層へのコンサルティングを行う。著書は「やる気が出なくて仕事が嫌になった時読む本」「職場でモテる社会学」「できる人の口ぐせ」等多数。
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