若さ、かわいさを武器にすることの危うさ
女子大生経営者として学んだこと(8)
私がいつもぶち当たる問題「現役女子大生社長」。特に高校生の頃などはそうでしたが、正直、高校生で面白い肩書きがあれば、実力がなくともメディアも周囲の人もおだててくれるし、仕事をくれました。当時を振り返ると、デザイナーと言えるほどデザインもできていませんでしたし、コンセプトや意図もありませんでした。それでもテレビ出演時には、いかにも次世代の新進気鋭のデザイナーだと言わんばかりの取り上げ方をされていました。
ただ、かわいさや若さというものは継続的ではなく、2、3年で飽きられるか若さの肩書きを失うかの場合が多いし、実際、それで消えた人を何人か知っています。ある実力へのオマケとしての「かわいい」や「高校生」「大学生」であれば素晴らしいけれど、「かわいい」や「女子大生」のオマケとしての社長の肩書きである場合は、それを通してやってくる仕事や評価=実力だと勘違いしてはいけないなと思っています。
特に私は高校生でロリータ服を着ていてちょっと声が変わっていて、割としゃべり口がしっかりしていたので、メディアからしたら格好の餌食でした。メディアの人も同じクリエイターなので、今考えれば「実力があるから取り上げたい」「メディアとして発信し今後の支援をしたい」のではなく、目立ってテレビ映えし、演出も「簡単そう」な素材だから扱いたい、というただそれだけだったのだと思います。
メディアが取り上げる「女子高生◯◯」
実際、私自身、タイツを数枚作っただけでメディアには「女子高校生デザイナー」やら何やら取り上げられて、薄っぺらいアイコンみたいな仕事を色々もらいました。例えば、女子高校生デザイナーがデザインする「◯◯」(アパレルとは全然関係ないし、コンセプトとかは私が決められないもの)などです。どれも、一時的にクライアントの利益になるだけで、自分にとって次につながるようなものではありませんでした。
その間、母親や周りからは「女子高生デザイナーだなんて!」とおだてられました。その一方で、メディアでは自分のやりたいことや言いたいこととは違う、「女子高生◯◯」がやっていたら面白いであろうことばかりを台本通りにやらされたり、社会にもの申したりさせられていました。本当はそんな社会に対して言いたいことなんてなかったのですが......。お金をもらえるわけでもなく、「出てたらきっといいことがあるぞ」と思い込みながら、一時的な周りからの評判を励みに出演を続けていました。
受験が本格化したこともあり、私はその若い時間の消費から早めに逃れることができました。これは女子だけでなく男子も同じです。「高校生◯◯」として取り上げられていた人たちの多くは高校卒業と共にメディアで取り上げられることが一切なくなり、その一方メディアには代わりの新しい「高校生◯◯」が露出、更新されていきました。あっという間に元「高校生◯◯」の大学生達はメディアでの露出が減った結果、仕事が来なくなった人も多くいました。
「こんなのメディアに出てる人だけの話じゃない?」と思われるかもしれませんが、これは全ての仕事に共通する話で、やはり若い学生、新入社員には特別な出来事や仕事が優先的に入ると思います。例えば、学生だから普段めったに会えないような偉い人と話せたり、新人だから「試しに」と仕事を任されたりなど。でも、その仕事が来ること自体に価値はそこまでありません。数年経てば新しい人にパスされていくだけですから。大切なのはその若さゆえの機会を自分の実力だと勘違いせずに、最大限有効活用していくことです。
内面的な実力を蓄積することの大切さ
ただ、「若さ」や「かわいさ」のように不安定で常々変化していく漠然としたものを武器にして何かをすることをいけないこととは言いません。でも、危険だということと、賞味期限があるということを分かっていないと、いつの間にか置いてけぼりにされてしまいがちです。流れ行く若さを引きずるのではなく、流れに身をまかせつつ内面的な実力を蓄積していくことの方が、5年、10年という長い視点では楽しいし、安定してくるのではないかなと思います。
「女子大生◯◯」とテレビで取り上げられたから一発ブレイク、そのまま死ぬまで幸せのような上手い話はいつだってありません。その時、その時を最大限楽しむのはもちろんですが、もっと長い視点で楽しんだ方が充実度は高いのではないかと感じています。そのため、最近では毎日を楽しみ、今だからこその強みを生かすのはもちろですが、その状況におごったり、目の前の美味しく怪しい話に惑わされるのではなく、一つひとつよりよい10年後、20年後のために地道に知識や経験を積み重ねて過ごしています。
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