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[ career-働き方 ]

学生のための業界ガイド2017(4)電力・ガス会社
自由化でどう変わる?

学生のための業界ガイド2017(4) 電力・ガス会社 自由化でどう変わる?
関西電力の高浜原発3号機(左)と4号機(福井県高浜町)

 電力・ガス会社といえば、かつては地域独占といわれ、競争もほとんどなく、安定した就職先といわれてきました。しかし、これからは大競争時代を迎えそうです。電力は2016年4月、ガスは2017年4月に、それぞれ販売が全面的に自由化。競争は厳しくなりそうですが、創意や工夫で事業を拡大する余地が広がり、仕事のやりがいは大きくなるかもしれません。

電力・ガスが相次ぎ自由化

 まず電力市場から説明していきましょう。戦後、東京電力や関西電力など大手10社が地域ごとにすみ分け、電気を独占的に販売する時代が長く続きました。競争がなく、欧米よりも割高だった電気料金を引き下げるため、国は1990年代から徐々に、工場やスーパーといった企業向けの販売を自由化してきました。ただ、家庭用を含む全面自由化に対しては、電力会社は競争が激しくなると抵抗してきました。

 自由化への流れを決定づけたのが、2011年3月の東日本大震災と東電福島第一原子力発電所の事故です。東電は供給力が大幅に低下し、首都圏で大規模な停電を余儀なくされました。原発など1カ所で集中的に発電する設備に頼ってきたことや、電力会社同士で電気を融通する仕組みが働かなかったことが問題ではないか――。国はそう判断し、電力市場のプレーヤーを増やし、消費者が様々な会社から電気を買えるよう、全面自由化を推し進めることにしたのです。

 震災後、電力会社の経営を大きく変えた、もう1つの要因が原子力です。発電所の外部に放射線が漏れる重大な事故を受け、国は安全規制を厳しくしました。この結果、全国に約50基あった原発はすべて停止。電力会社は替わりに火力発電所の運転を増やしましたが、原油高の時期と重なり、燃料費が大幅に上昇しました。2016年11月時点で稼働しているのは九州電力の川内原発と四国電力の伊方原発だけで、各社の収益を圧迫し続けています。

先行する東京電力

九州電力の川内原発(鹿児島県薩摩川内市)

 一方、ガス市場は大きく2つの業態に分かれます。ガスを主に導管で運ぶ都市ガスと、ボンベで運ぶLPガスです。自由化の対象となるのは都市ガスで、東京ガスや大阪ガスなど全国に約200の事業者(自治体も含みます)があり、定められた地域で独占的にガスを売っています。LPガスには参入規制はなく、事業者は2万社ほどあります。電力とガスを一体で自由化することで、新規参入や相互参入、電力とガスのセット販売などを促し、料金を引き下げていく効果が見込まれています。

 では企業は自由化に向け、どんな対応をとっているのでしょうか。まさに、様々な業種の企業が入り乱れての競争が始まろうとしています。最近の動きを含め、主なプレーヤーを見ていきましょう。

 最も動きが激しいのが、電力最大手の東電です。原発事故で大きな被害を出し、被災者への賠償や発電所の廃炉、除染などに数兆円の費用がかかるとみられています。民間企業1社で負担できる額ではないため、国が融資すると同時に過半数の株式を持ち、実質的には国有化された状態といえます。コスト削減を徹底して収益力を高め、2030年代前半をメドに国が株式を売却し、純粋な民間企業に戻ることが目標です。

東京ガスの袖ヶ浦工場は世界最大級のLNG基地(千葉県袖ヶ浦市)

 東電は自由化への対応では他社に先行しています。現在、電力会社は発電から送電、小売りまで一貫して手掛けていますが、自由化で新規参入の会社が不利にならないよう、国は2020年までに発電、送電、小売りを分離するよう電力会社に求めています。東電は2013年度に3つの部門を社内カンパニーに分けており、2016年度には完全に会社を分離し、持ち株会社の下にぶら下げる体制に移りました。また、小売り分野ではソフトバンクと提携し、電力と通信をセットで割安に販売するほか、カルチュア・コンビニエンス・クラブの「Tポイント」サービスを導入するなど、あの手この手で顧客を囲い込もうとしています。

 電力2位の関西電力は海外のエネルギー大手と相次ぎ提携するなど、火力発電の燃料となる液化天然ガス(LNG)の安定調達に力を入れています。というのも、関電はもともと原子力発電の比率が高く、震災後に火力発電を増やした結果、2014年度まで4年連続の経常赤字となったためです。震災後、すでに電気料金を2回値上げしており、コスト削減が課題となっています。電力3位の中部電力は、東電と火力発電の新設や燃料調達で全面提携しました。ガスや石油を一緒に調達することで価格交渉力を高め、コストを減らす狙いです。

ガス会社も電力市場に参入

東京電力は社内改革を進めている(配電線を点検する社員)

 ガス業界では電力市場への参入が進んでいます。最も活発に動いているのが、やはり最大手の東京ガスです。東電と同様、顧客が最も多い首都圏が地盤で、成長性が見込めるためです。すでに川崎市や横浜市で、都市ガス原料のLNGを使った火力発電を運営するほか、今後は九州電力や中国電力、出光興産などと組み、千葉県内で石炭火力発電を建設する計画です。東ガスの広瀬道明社長は「2020年に首都圏の電力需要の1割を獲得したい」と野心的な目標を打ち出しました。

 都市ガス2位の大阪ガスはもともと営業力に定評があります。同じ関西エリアの関電が相次ぐ値上げで競争力を落とすなか、自由化を機に顧客を取り込もうとしています。LPガスでは、最大手の日本ガスと、静岡県が地盤のTOKAIホールディングスが、いずれも東電と組み、電力とガスのセット販売に乗り出すことを決めました。

大手の年収は600万~700万円

 厳しい経営環境の中、待遇面はどうなっているでしょう。東電は震災後に管理職や一般社員の給与を一律20~25%削減しましたが、現在は少し回復しているようです。2015年度の有価証券報告書によると、平均年収は733万円(43.3歳)、関西電力は604万円(42.3歳)となっています。東京ガスは649万円(44.3歳)、大阪ガスは650万円(43.3歳)と、電力会社と同じ程度の水準です。

 電力・ガス会社は、各地域においては売り上げ規模が大きく、福利厚生も充実し、これまで就職人気の高い業種でした。他社との競争もほとんどなく、「いったん入社すれば定年まで安泰」ともいわれました。しかし、原発事故をきっかけに、そうした「常識」は崩れようとしています。製鉄大手のJFEホールディングス社長を務め、2014年に東電の会長に就任した数土文夫氏は「もっと戦う気概を持て」と社員を鼓舞しているそうです。従来の枠組みにとらわれない、若いチャレンジ精神こそが求められていると言えるでしょう。

(村上憲一)

連載【学生のための業界ガイド2016】
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