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海を渡る日本語(11)2年弱勤めた企業を退職して
インドネシアに

海を渡る日本語(11) 2年弱勤めた企業を退職してインドネシアに
authored by "日本語パートナーズ"

 「センセイはなぜインドネシアに来たのですか?」。初めてのクラスでの自己紹介の後、必ずと言っていいほど聞かれたこの質問。当たり前の質問ですが、インドネシアに到着してまだ間もなく、「~をしたい」といった確固とした目的のなかった私にはとても深く刺さりました。

 "日本語パートナーズ"インドネシア3期の中村允也です。私が"日本語パートナーズ"派遣事業に参加した理由は、インドネシアの文化や言語を学びたいからでした。日本の政治経済と今後関係が強まることが予想される東南アジア諸国。その代表国とも言えるインドネシアについて学ぶことは社会人としてプラスになると考えました。

 帰国後の現在は、化学品等を扱う専門商社で東南アジア地区を担当し、将来は東南アジアでの駐在を望んでいます。今回は、東南アジアに特別な思い入れの無かった私が東南アジア駐在を希望するようになった経緯について書きたいと思います。

日本語クラスの3年生と

休暇で訪れたカリムンジャワ島

安定を捨てて応募

 "日本語パートナーズ"に参加するにあたり、2年弱勤めた企業を退職しました。世間では安定していると言われる企業を退職しての参加でしたので、知人の中には疑問を持つ人もいましたが、周囲には転職を考える同年代も少なくありませんでした。

 世界第4位の人口を持ち、その多くは20代の若者。年5~6%の経済成長を続け、多くの日本企業が進出するインドネシア。イスラム教徒の人口が世界最多である多民族国家のインドネシアで言語や文化を学ぶことは、キャリアの選択肢を広げることにも繋がると考え"日本語パートナーズ"への応募に踏み切りました。

洪水で生徒と遊ぶ

進む経済成長と広がる格差

 インドネシアの首都ジャカルタに降り立つと、高層ビルが建ち並ぶ近代的な街並みに驚かされます。私が赴任したシドアルジョはジャカルタから飛行機で1時間ほど東に飛んだ、インドネシア第2の都市スラバヤに隣接するベッドタウン。近代的なジャカルタの街並みとは大きく異なり、2~3階建ての低層の建物が並びます。都市部から離れれば離れるほど、街並みはさらに簡素になっていきました。

 インドネシアでの生活では、都市部と地方におけるインフラ格差が非常に気になりました。交通渋滞で知られるインドネシアですが、信号や横断歩道は決して多くありません。そのため、道を横断する歩行者とバイクとの接触事故は少なくありません。また、都市部と地方との経済格差も大きく、地方では安定した収入を得ることができる仕事に就くことも難しいようです。これは子供達の進学にも大きく影響します。都市部の比較的裕福な家庭出身の学生は、高校卒業後に現役で大学に進学する一方、地方では進学前に数年間、アルバイトで進学費用を自身で稼ぐ必要があるからです。

イスラム教の授業での伝統的結婚式の再現

東南アジアのインフラに携わる仕事に

 10カ月弱に及ぶインドネシアでの生活で、帰国後は東南アジアのインフラに関わる仕事に就きたいと考え、現在の化学品商社に就職しました。インドネシアでも多くの人が使用するスマホをはじめ、多くの電化製品の製造過程で使用される化学品の輸出入に関わることで、インフラの整備に貢献できると考えたからです。

 他の"日本語パートナーズ"参加者ほどには「日本語や日本文化を伝えたい」という気持ちは強くなかった私ですが、日本とは全く異なる文化での生活の中で現地の教師や生徒たちから多くの「学び」や「気づき」を得ることができました。イスラム教徒が9割近くを占めるインドネシア。ジャカルタを除けば外国人と接する機会も少なく、異文化に触れるというだけでも、生徒達にとっては貴重な体験です。

統一卒業試験前に成功祈願に全クラスを回る3年生

調理実習でのから揚げづくり

 "日本語パートナーズ"に参加することに不安がなかったと言えば嘘になりますが、得る物は多く、結果として日本での仕事のやりがいも、"日本語パートナーズ"参加以前より強く感じることができるようになりました。日本語を教えること、日本文化を伝えることに不安があったとしても、様々な経験、バックグランドをお持ちの方がぜひ今後も"日本語パートナーズ"に参加し、現地の生徒達にそれぞれの「日本」を紹介してほしいと思います。

 毎朝6時半に登校し、生徒達に「おはよう」と挨拶する生活が終わってしまったことに、未だに寂しさを感じることもあります。私が彼らに何を教えられたかは分かりませんが、初めて接した外国人として彼らが世界に興味を持ち、飛び出すきっかけとなることができたなら非常に嬉しく思います。

 洪水があれば生徒と一緒にびしょびしょになりながら遊ぶ、全く「先生」らしさのない私を「センセイ」と呼んでくれ、言語の未熟な私に授業や生活の中でインドネシア語を教えてくれ、その明るさや笑顔で不安な私のインドネシア生活を支え、常に真剣に授業に参加してくれた生徒達には感謝してもしきれません。

 また世界のどこかで、彼らと再会できる日が来ることを、心から楽しみにしています。

国際交流基金アジアセンターでは、現在、フィリピン4期、ベトナム4期、インドネシア8期の参加者を募集しています(2016年12月13日(火)締切)。募集要項、応募受付はこちらから

派遣期間終了後直ぐにインドネシアに戻り参加した卒業式