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[ liberal arts-大学生の常識 ]

ら抜き言葉 ダメなの?

ら抜き言葉 ダメなの?

見れる、出れる、食べれる......。話し言葉では普通に使われている「ら抜き言葉」ですが、よく「言葉の乱れ」として批判されています。本当はどうなのでしょうか。イチ子お姉さんとからすけの会話を聞いてみましょう。

イチ子お姉さん 見られたを見れた、出られるを出れるなどと表す「ら抜き言葉」が広がっているわ。でも国語の教科書では誤りなのよ。

からすけ 僕が今、勉強している文法のことだね。みんな誤った日本語をどうして使うのかな。それとも、教科書が遅れているのかな?

じわり浸透 テストでは×

 イチ子 文化庁という国の役所が、2015年度の「国語に関する世論調査」(キーワード)の結果を発表したの。全国の16歳以上の男女2000人ほどが答えたものよ。「れる」「られる」どちらの言い方を普通使うか尋ねたところ「ら抜き言葉」の「見れた」「出れる?」を使う人の割合が、「見られた」「出られる?」を上回ったの。調査を始めて以来初めてよ。

<キーワード>
 国語に関する世論調査 文化庁が日本語への関心について1995年度から毎年実施。「ら抜き言葉」は5年ごとに調査する。
 国語審議会 日本の国語政策に関する審議会。2001年になくなり、その後、文化審議会国語分科会が活動を継承。

 からすけ 文法で助動詞の「れる」「られる」の使い方を間違(ちが)っている人が多くなったということだね。

 イチ子 ご名答。「見る」「出る」という動詞に、「~できる」という可能を意味する助動詞をつける時は、「られる」が正解。だけど「ら」を抜くのが一般(ぱん)的になっているのね。この助動詞には別の意味もあるので、ら抜きの方が可能の意味を伝えやすいと多くの人が考えているようね。さて、別の意味って何かしら?

 からすけ うーん......。

 イチ子 受け身、自発、尊敬よ。受け身は「助けられる」といった使い方。自発は「彼のことが案じられる」のように「自然にそうなる」という意味ね。尊敬は「お客様が来られる」で「~なさる」という意味。れる・られるには可能を含めて4つの意味があるの。文章や会話の前後でどの意味か判断するのだけれど、ら抜きを多くの人が使い、耳慣れたことで、さらに使う人が増えているのよ。

 からすけ 確かにテレビに出る人たちも、「来れるよ」「食べれない」なんて言っているね。

太宰作品やSMAPの歌にも

 イチ子 ら抜き言葉は間違った日本語、日本語が乱れていると嘆(なげ)く人は多いわ。でも、ら抜きの表現は昭和の時代にもあったの。「走れメロス」で有名な小説家の太宰(だざい)治は「道化の華(はな)」という作品で「見れなかった」を使っているわ。言葉の研究者の中には、北陸から中部地方にかけて、それから北海道で昔から方言として用いているという論文を発表しているわね。

 からすけ なるほど。

 イチ子 それから、私の大好きなSMAPは大ヒット曲の「夜空ノムコウ」で「これた」と歌っているわ。解散、悲しいな。

 からすけ 本題から外れているんですけど。

 イチ子 ごめん。言葉っておもしろいでしょ。文法的に正しいかどうかは別として、ちゃんとした理由があって生まれたもの、一時的な流行語でなく世の中で多く使われるようになったものは新語として辞書に載るのよ。三省堂国語辞典の最新版、14年1月に改訂した第7版は4000もの新しい言葉を収録したわ。

 からすけ どんな新語があるのかな。

 イチ子 例えば「ふわとろ」。ふわふわ、とろとろという2つの擬(ぎ)態語を合わせたものだけど、オムレツやお好み焼きがふわりと軽く、とろりと軟(やわ)らかい状態を表した言葉ね。レストランやお好み焼き屋さんのメニューによく書いてあるけれど、本当においしそうな表現だから普及(ふきゅう)したのね。第7版には、ら抜き言葉の「見れる」も入ったのよ。

 からすけ ということは、ら抜きは使っていいことになったの?

 イチ子 国は専門家に議論してもらってきたの。国語審(しん)議会(キーワード)という集まりよ。話し言葉で、ら抜きはじわじわ広がっている。でも1995年度の「国語に関する世論調査」では、ら抜きを使わない人が多数なので、一定以上の公的な文書や改まった場での会話では控(ひか)えた方がいいという考えを95年11月に示しているの。ら抜きは公式には使わない俗(ぞく)語、というのが今のところ国の見解ね。

 からすけ つまり、どういうときに使わない方がいいのかな。

 イチ子 あなただったら、学校の学級日誌や作文、先生や校長先生と話す時ね。私たちのお父さんが働く会社では会議の資料や、上司の部長、社長と話す時かしら。いずれにせよ、何事も基礎(そ)が大事。まずは学校で文法をしっかり勉強することね。

相手や状況考えて使おう

灘中学校・高等学校の藪本勝治先生の話 「ら抜き言葉」や「さ入れ言葉」(「読まさせていただく」など)はよく問題になりますが、最近気になるのは「来れば」の発音です。文法的に言うとカ行変格活用動詞「くる」の仮定形は「くれ」なので「くれば」ですが、近年は「これば」と発音する子供がどの地域にも増えているようです。来ることを仮定する時、実際には「来たら」を使う場合が多いので、仮定形が忘れられつつあるのでしょうか。
 言葉は変化していくもの。文法は語の使用例を集めて導かれる便宜(ぎ)的な概(がい)念にすぎません。とはいえ、試験の答案に言葉の誤用や口語表現があると減点されるでしょう。正しい言葉遣いを知らないとみなされるのです。言語が対話の道具である以上、誤用が許されるかどうかは、状況や相手によって変わります。適切に対話するためには正しい知識が必要ですね。

[日経プラスワン2016年10月15日付、日経電子版から転載]

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