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ロシアとの関係どうなる?
北方領土問題、進展に注目

ロシアとの関係どうなる?北方領土問題、進展に注目
択捉島の中心部にある紗那の街並み

 ロシアのプーチン大統領が12月に来日するらしいわね。北方領土問題が注目されているみたいだけど、日本とロシアの関係はどうなるのかな。

 日本とロシアの関係について、池田元博編集委員の話を聞いた。

 12月にロシアのプーチン大統領が来日して安倍晋三首相と会談するそうですね。

 「安倍首相は今年5月にロシアのソチを訪問したのに続き、9月に極東のウラジオストクでプーチン氏と会談し、プーチン氏が12月に日本を公式訪問することで合意しました。安倍首相の地元の山口県で首脳会談を開きます」

 「もともと、プーチン氏の来日は2014年に実現する予定で、同年2月には安倍首相がソチ冬季五輪の開会式にも出席しました。ところがその直後、ロシアがウクライナのクリミア半島を強引に編入する事態が起きました。欧米諸国が強く反発して対ロシア制裁に踏み切り、日本も同調したためプーチン氏の来日が延期された経緯があります。欧米諸国とロシアの対立が現在も続く中で、今は安倍首相の積極姿勢が目立ちます」

 最大の懸案は北方領土問題でしょうか。

 「北方領土問題が大きな焦点となることは間違いありません。歯舞群島、色丹島、国後島、択捉島からなる北方領土は日本固有の領土だというのがわが国の主張ですが、第2次世界大戦後、当時のソ連が占領し、そのままロシアが引き継いで現在に至っています。戦前は4島合わせて約1万7000人の日本人が住み、現在はほぼ同数のロシア人が住んでいます」

 「1956年に日本とソ連が国交を回復した際、『日ソ共同宣言』は両国の平和条約締結後に歯舞・色丹の2島を日本に引き渡すと明記しました。しかし日本国内ではあくまで4島返還を求める反対論が強く、ソ連と激しく対立していた米国も日ソの合意に猛反発しました。その後、60年に日米安保条約が改定されると、今度はソ連が猛反発し、2島引き渡しの合意は無効だとして事態が膠着しました」

 「ソ連崩壊後、ロシアのエリツィン大統領が98年に来日し、当時の橋本龍太郎首相と静岡県の川奈で会談した際には、橋本首相が『川奈提案』を示しました。その具体的な内容は明らかにされていませんが、4島を日本の領土として国境線を画定する代わりに、ロシアの施政権を当面認めるという内容だったといわれています。エリツィン氏は『日本側から興味深い提案があった』と述べましたが、結局、この提案を断りました」

 プーチン政権になってムードが変わったのでしょうか。

 「2001年、プーチン氏と当時の森喜朗首相が会談した際のイルクーツク声明で、ロシアは日ソ共同宣言の法的な有効性を公式文書で初めて認めました。歯舞・色丹の返還の可能性があるという意味で、これはプーチン氏にとって大きな譲歩です。ところが森氏の退陣後、首相になった小泉純一郎氏は強硬な4島返還論者だったため、再び事態が膠着したのです」

 日本とロシアはそれぞれどういうスタンスで交渉に臨みますか。

 「日本側は『4島の主権は日本にある』というのが、従来の基本的な立場です。ロシア側は『第2次大戦の結果、4島は合法的にソ連領になった』と主張し、ロシアに4島の主権があるという立場です。お互いが原則論に固執したままでは、進展は難しそうです」

 「今年5月の首脳会談では『新しいアプローチ』が必要だという点で意見が一致しました。12月の首脳会談で、安倍首相はこれまでにない新しい提案をする可能性があります。ロシア国内でプーチン大統領の支持率は非常に高いため、ロシア側が何らかの譲歩をしても国内の反対を抑えられる可能性も高く、安倍首相は今がチャンスだと考えているようです」

 日ロ関係は前進しそうですか。

 「プーチン氏は欧米との関係が悪い状況の中で、日本がロシアに近づいてくるのはプラスだと考えています。安倍首相も、中国の脅威に対抗するには、日米同盟を基軸としながらもロシアとの関係も強化して中国をけん制する必要があると考えています。12月にすべての問題が解決するかどうかはともかく、何らかの前進はあるかもしれません」

ちょっとウンチク
経済協力など交渉のカギ
 ロシアのプーチン大統領は柔道の愛好家として知られる。北方領土問題でも柔道の「引き分け」という言葉を使い、勝者も敗者もない解決策を呼びかけている。
 その真意はともかく、大統領は日本との関係改善には前向きだ。ロシアとしても様々な利点が見込めると考えているからだろう。
 ひとつは過度の中国依存からの脱却だ。ロシアはウクライナ危機以降、欧米と距離を置く一方で中国に急接近したものの、経済や安全保障協力で無理難題を押しつけられるケースもあるという。アジア外交をバランス化するうえで日本の存在は大きい。
 もうひとつは極東開発を含めた経済協力への期待だ。豊富な資金力と高い技術力を持つ日本の投資は、原油安や欧米の制裁の影響で経済苦境に立つプーチン政権にとって願ってもない話。安倍首相が提案した「8項目の対ロ協力プラン」を高く評価するゆえんだ。
 大統領にこうしたロシアの実利をどれだけ実感させられるか。領土交渉のカギを握ることになりそうだ。
(編集委員 池田元博)

[日本経済新聞夕刊2016年10月24日付、日経電子版から転載]

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