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失敗が怖い…
行動を妨げる「自分軸探し」からの脱出法

失敗が怖い…行動を妨げる「自分軸探し」からの脱出法
撮影協力:大東文化大学

 仕事でもプライベートでも、発信力を高めることができれば、やりたいことができる環境が整う時代。せっかくの実力が発信力の弱さで埋もれぬよう、女性らしくしなやかに自己主張ができるようになる手法を、プレゼンノウハウに詳しい池田千恵さんが指南します。

製薬会社がレストランを経営する理由

 先日、製薬会社勤務の友人と、その会社が経営するカフェで食事をしながら打ち合わせをしました。最初、どうして製薬会社がレストランを経営しているのかな? と不思議に思い友人に聞いてみると、薬に頼らない製薬会社になりたいからとのことでした。

 本当の健康とは薬がなくなることです。病気やストレスが原因で薬を飲まざるを得ない体になる前に、食べるものに気を付けようという考えのもと、社内の福利厚生から食の改善をスタートさせたそうです。そして実際に効果があったため、知見を一般にもお裾分けしているとのこと。以前からその会社の製品を愛用していましたが、まっすぐ筋が通った会社の取り組みを聞き、ますますファンになりました。

 今回の出来事から、人は筋が通ったものや出来事が好きで、一見筋が通ってないと感じると、筋が通るための理由を探したがる生き物なのではないかと感じました。「どうしてその企業(人)が、このような事業(行動)をするのか」の理由を聞き、その企業(人)らしいな、と納得できることに安心感や親近感を覚えるのです。

人はいつも「きっかけ」を探している

 ちなみに、私も雑誌などにインタビューをされたり、新しい出会いがあり自己紹介したりすることがよくありますが、どんな時にも必ず聞かれるのが「なぜ今の仕事をしているのか?」という「きっかけ」です。

 私は企業の朝型勤務導入コンサルティングや、朝の活動を支援する会社を経営しています。その「きっかけ」は、挫折を早起きで乗り越えたという経験です。今思えば大したことではないですが、当時の私には大きな挫折だと感じ、生きるか死ぬかくらいに思い詰めていたことがありました。

・大学受験2度失敗
・就職活動30社撃沈
・新卒2年目のとき、あまりにも仕事ができなすぎて、本来出させてもらえる会議に出させてもらえなかった

 人生において強烈な危機感を感じた時、その隣にはいつも早起きがありました。早起きを一つの切り替えスイッチとして、心を入れ替えて素直に物事に取り組めるようになった結果、辛い環境を覆すことができたという経験から、朝の良さを広める活動を事業として行っています。

 実はこの話はもう何十回、何百回と話しているのですが、どんな場面でも新しく会った人に必ず聞かれるということは、何か発信したり行動したりするときに、周囲は必ず「どうしてあなたがその活動をしているの?」といつも問いを立てながら疑問形で見ているということです。皆「どうして?」を解消してスッキリしたいのだな、と思います。

 相手にいつも「どうして?」と確認しているのが人間の性だとしたら、相手だけでなく、自分自身にもいつも「どうして?」を問いかけているのかもしれません。確かに、私自身も、自分の行動にきちんと理由を付けることができたことにより、自分の中にすっと「軸」のようなものが生まれてスッキリと行動ができるようになりました。

「自分軸探し病」になると、行動に制限がかかる

 もちろん、行動の「軸」となるきっかけは、あるにこしたことはありません。しかし、きっかけを探しすぎると「なんとなくそう思う」「やりたいからやる」という、理由や根拠のない行動や発信をしてはいけないと、自らに制限をかけたり、「理由もないのに行動していいのだろうか」と引け目を感じたりする場合があるので気を付けないといけません。このような思考に陥ってしまうと、「きっかけ」を見つけられないせいで結局何も行動ができない、というやっかいな事態に陥るのです。私はこれを「自分軸探し病」と呼んでいます。

 「自分軸探し病」にかかると、何か人生を一変させるような大きなきっかけを待ち構えるというモードに入ってしまい、かえって行動できなくなります。

・私、そこまでの強烈なモチベーションはないしな......
・私はあの人みたいに大変な経験をしていないから、やりたいことはできないかもしれない

 周囲の活躍を耳にしたとき、そんな思いが心に浮かんできたら、「自分軸探し病」にかかりかけていると注意したほうがいいかもしれません。

 実は、自分の「軸」を知る大きなきっかけというのは、目の前にあるときは気付かないもの。振り返ると、あの時そういえば、これがきっかけだったなーと感じるものです。だから、大きな「きっかけ」を待ち構えて行動を制限するのではなく、目の前の出来事にまずは一生懸命取り組むことが、将来振り返ると大きなきっかけにつながっている、ということのほうが多いのです。

「自分軸探し病」に効く二つの荒療治

 では、どうしたら「自分軸探し病」から抜け出すことができるのでしょうか。私は二つ方法があると思っています。一つは、こうなったら徹底的に腰をすえて、時間をかけて「きっかけ」「自分軸」を見つけてしまう方法、そしてもう一つは、「きっかけ」や「自分軸」なんて考える暇がない状況に身を置く方法です。

 前者の方法でおすすめなのは、自分の過去を「三大うれしかった」「三大悲しかった」で細かく書き出してグラフ化するものです。後者の方法でおすすめなのは、あえて、普段の自分なら絶対に行かない環境に飛び込むものです。

 順番に説明しましょう。

<自分の過去をグラフ化する方法>

生まれてきてから今までの間を

・誕生~幼稚園(保育園)まで
・小学校時代
・中学校時代
・高校時代
・大学/専門学校時代
・新卒1社目の会社時代
・2社目...

 と分け、それぞれ「三大うれしかったこと」「三大悲しかったこと」をリスト化して書き出し、感情の起伏をグラフ化してみます。その時々に言われた、親からや友人からの言葉も、しっかりと振り返り、思い出してみるのです。感情の起伏の角度の大きさやパターンで、自分の本来の性格や行動の傾向が分かってきます。この作業には少なくとも1カ月ほどかけることをおすすめします。実際取りかかると面倒くさいし辛いものですが、軸が見つかったときのスッキリ感が味わえます。私はこれで、自分の軸である「朝」というキーワードを見つけました。

もう一つの方法は......

<普段の自分なら絶対に行かない環境に飛び込む方法>

 自分が大好きな趣味の集まりや、昔からの友人のコミュニティーなど、普段「あうん」の呼吸でやりとりできる環境は、居心地が良いですよね。しかしその環境にどっぶり浸ってしまうと、説明しなくても分かってくれる人たちが集まっているので考えが深まらない場合があります。そこであえてコミュニティーから抜け出し、自分の「文脈」が全く通じない、とても居心地が悪いところに身を置いてみるのです。ちなみにここでいう「居心地が悪い」とは、「大嫌い」「嫌な雰囲気がする」「気分が悪い」というたぐいのものではなく、「興味はあるけど、おそれ多い/ちょっと怖い」「私なんか場違いな気がする」という、自分にとってワンランク上だと感じる場所という意味です。

 そのことにより、自分が「井の中の蛙」になっていないかを確認することができ、おのずと「軸」が見えてきます。また、今まで使っていた言葉が通じないので、通じるようになるために自分を改めて見つめることができるようになります。これは、私が出版のときに大変お世話になった恩人に教わったことですが、とても効果があります。今も私は時々、「これまでの自分なら絶対に行かないだろう」と思う集まりに定期的に入ることで、自分を客観視するようにしています。

 今はSNSなどで気軽にコミュニティーを見つけることができるので、ピン、ときたコミュニティーにまずは顔を出してみることからはじめてみましょう。(もちろんその際に、コミュニティーに入るための大きな「きっかけ」を探すのはNGですよ!)

やらなかった後悔ほど、後でじわじわ心をむしばむ

 やりたいけど、できない。そう思って行動に制限をかけている人は、失敗が怖いのです。やらなければ失敗することもないから、自分の心も傷つかずに済むから、結局やらないことが快適だと考えています。しかし本当にそうでしょうか。あとで「あのとき行動していれば、今の人生変わっていたかもしれない」といつまでも過去を振り返ることは、果たして快適と言えるでしょうか。「あのときこうしたお陰で、痛い目にあったけど勉強になった」と過去を振り返ったほうが、精神衛生上も良いのではないでしょうか。

 徹底的に自己分析したり、考えざるを得ない環境に身を置いたりすると、ダメでもいいから、一度自分を信じてやってみよう! と覚悟が決まります。もちろん失敗するかもしれません。でも、やらない後悔より、やってしまった後悔のほうが、将来の良い経験になります。人生全てネタ。何事もまずは経験することが、成長につながる道なのです。

池田千恵(いけだ・ちえ)
 株式会社 朝6時 代表取締役。慶應義塾大学総合政策学部卒業。外食企業、外資系戦略コンサルティング会社を経て現職。企業や官公庁、個人に向け、図を活用したプレゼンテーション資料作成術、企画書作成術や会議進行術など、「伝わる」コミュニケーション全般について指南。女性のキャリア形成、ダイバーシティなどをテーマに講演、著述活動も行う。『絶対! 伝わる図解』(朝日新聞出版)、『描いて共有! チーム・プレゼン会議術』(日経BP社)などプレゼン・図解に関する著書多数。

[nikkei WOMAN Online 2016年9月16日付記事を再構成、日経電子版から転載]

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