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フェリー人気復活
個室も増加、安く快適に

フェリー人気復活個室も増加、安く快適に

 フェリーの人気が復活している。大部屋に雑魚寝しているというイメージが強いが、最近の船はプライバシーを守った個室が増加。旅費を節約しながらクルーズ気分を楽しめるという。魅力を確かめようと、フェリーの旅に出てみた。

神戸から大分まで11時間20分の船旅

 利用したのは商船三井の子会社、フェリーさんふらわあ(大分市)の神戸~大分航路。通常は夜行だが、年に4回ほど特別企画で運航する昼の航海に参加した。神戸港から大分港まで11時間20分の船旅だ。

 10月16日午前10時40分。地元高校の吹奏楽部の演奏に見送られ、「さんふらわあごーるど」が滑り出すように岸壁を離れる。船酔いが心配だったが、波の穏やかな瀬戸内海を進むため、ほとんど揺れは感じない。

 11時40分。船内でウエルカムドリンクを飲みながら一息ついていると「まもなく明石海峡大橋」と船内アナウンスが流れた。屋上デッキに出ると神戸市と淡路島を結ぶ大きな橋がぐんぐん近づいてくる。船速は時速約40キロメートルで意外と速い。神戸~大分航路は瀬戸内の島々の間を縫うように運航する。なかでも3本の本州四国連絡橋は見どころだ。一緒になった横浜市在住の尾形浩司さん(35)と明奈さん(32)は船からの景色を目当てに参加していた。「場所によって海の表情が変化する」と驚いていた。

乗船した「さんふらわあごーるど」の全長は165メートル(神戸市の六甲アイランド)
明石海峡大橋が近づくと乗客が一斉にカメラを向けた

 正午。操舵(そうだ)室の見学が始まった。「248度(ふたひゃくよんじゅうはちど)」。双眼鏡で前方を注視する航海士が独特の言い回しで、操舵手に針路を指示する。普段は入れないが、特別企画の昼の航海ではかじ取りを間近に見られる。昼食は老舗料亭「なだ万」の弁当が用意されていた。

 今回使った客室は「スタンダード客室」で、鍵がかかる個室にベッド、テーブル、テレビが備えられている。ベッドに横になると立っていると気づかなかったエンジンの細かい振動を感じた。スタンダード客室は広さによって定員が1~4人と変わる。ほかに専用バルコニーがついたデラックス客室などもあり、予算に応じて選べる。60代の夫妻は「部屋がきれいで昔のイメージと違う」と満足げに話す。

 昔ながらの大部屋のツーリスト客室もあるが、今年1月には一部を改修して「プライベートベッド」を設けた。10人定員の相部屋だが、カプセルホテル型の専用スペースで休める。女性専用ルームも用意されており、フェリーさんふらわあの竹井洋常務は「一人旅で利用しやすくなった」と話す。

普段は入れない操舵室も見学できた
4人定員のスタンダード客室は窓から海を望める

 午後3時20分。瀬戸大橋を通過した後に食堂でコンサートが始まった。大分に拠点を置くアルゲリッチ芸術振興財団の3人組がバイオリン、チェロ、ピアノでクラシック音楽を奏でる。

 6時を過ぎると夕食タイム。大人1800円でビュッフェ形式のレストランを利用できる。大分産のヒラメの刺し身や大分名物の「とり天」など九州料理を中心に約20種類のメニューが並ぶ。おなかが満たされたので大浴場へ。湯船は手足を伸ばしてくつろげる。窓がついており、明るければ海を眺めながら湯につかることができる。

 8時30分。暗闇に包まれたデッキに出ると、遠くからオレンジ色の光がだんだんと近づいてくる。大分から神戸に向かう姉妹船「さんふらわあぱーる」だ。乗客がペンライトを振って見送る。船旅のクライマックスだ。大分に近づくと少しだけ揺れが強くなったが、船酔いするほどではない。しばらくすると大分の街の明かりが見え、10時に予定通りに到着した。神戸から大分に帰るために乗船した豊永沙也佳さん(27)と山本真実さん(27)は「イベントがたくさんあって退屈しなかった」とうれしそうだった。

大部屋を改修してカプセルホテル型の「プライベートベッド」を設置した
ビュッフェ形式のレストランには九州料理が並ぶ

 神戸~大分の昼の航海はスタンダード客室2人利用で1人1万8600円、相部屋のツーリスト客室で1人1万4400円からで、今年は11月13日に最後の航海が予定されている。ほかにも「弾丸フェリー」と称し、通常の夜行を往復で利用すれば片道1人1万円から利用できる格安プランも設けている。時間はかかるが鉄道より4割安く移動できる。

 同社の旅客数は他の航路も含めて2015年に約45万6000人と前年より7%伸びた。訪日旅行客が増え、関西方面はホテル料金が高騰し、予約も取りづらい。そこで、九州に住む人がユニバーサル・スタジオ・ジャパン(大阪市)などに遊びに行く際、フェリーをホテル代わりに使っているという。

新船の投入で快適性高まる

 フェリー人気の回復には1980~90年代前半に建造された船が更新期を迎えており、各社が快適性を高めた新船を投入していることが大きい。東海汽船系の小笠原海運(東京・港)は7月、東京・竹芝~小笠原諸島・父島を結ぶ「おがさわら丸」を約20年ぶりに更新した。個室を従来より6割多い70室に増やし、専用デッキのある特等室も設けた。速度を上げ、所要時間は従来の片道25時間30分から24時間に短縮している。

 東京~徳島~北九州間でフェリーを運航するオーシャントランス(東京・中央)も今年に入り4隻の新船を就航させた。客室はすべて個室とカプセルホテル型のベッドで構成。女性客に配慮し、洗面所には化粧用のパウダールームを設けた。

 フェリーさんふらわあは18年に大阪~鹿児島・志布志航路で新船を2隻投入する。個室を従来比2割多い94室に増やし、全室にシャワーとトイレを設置する。国土交通省によると長距離フェリー11航路の旅客数は15年度に前年度比1割増の236万人に達した。

 豪華客船によるクルーズは人気が高いものの、料金も高い、長期休暇が必要など、ビジネスパーソンには使い勝手がよいとはいえない。これに対し、フェリーなら「カジュアルクルーズ」が楽しめる。これから船旅の入門編として乗船する人が増えそうだ。
(企業報道部 村松洋兵)[日経電子版2016年11月4日付]

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