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研究者という職業(7)学会出席も自腹? 研究室の財政事情

研究者という職業(7) 学会出席も自腹? 研究室の財政事情
撮影協力:大東文化大学
authored by 中田亨産業技術総合研究所主任研究員

 お金に余裕のある研究室に配属されれば、大学院生でも外国で開かれる国際会議に出席して研究成果を発表するということもあります。逆に、貧乏な研究室では国内の学会にも出張できないので苦労します。

 実のところ、研究室の財政事情はあまり安定しないものです。今年リッチだったからといって、来年もリッチは限りません。政府に応募していた研究計画が落選したり、あてにしていた企業との共同研究資金がばっさり切られたりして、急に貧乏になるということがあるからです。

 研究室の今の羽振りだけを見て、将来を予測できるわけではありませんから、それを基準に研究室を選ぶということは避けた方がよいでしょう。研究室選びは、自分がやりたい研究の内容で選ばないと後悔するかもしれません。

研究にはお金がかかるか

 研究には、一般論としては、巨額のお金がかかります。特に自然科学の研究はそうです。最先端科学のための特殊な装置や薬品が高額ということが問題の根底にありますが、研究開発競争が激化していることが大きな要因でしょう。

 例えば、製薬業界を見てみると、世界的に大規模な企業の合併や買収が起こっています。ヒトゲノムの解読やiPS細胞といった大きな成果が出てきて、前途洋々で資金も潤沢な業界かと思いきや、シビアな競争になっているのです。ライバルに勝つためには巨額の資金をかけて膨大な実験をしなければならないので、買収合併による企業規模の拡大に拍車がかかっています。製薬以外の産業分野でも同様の傾向があります。

 一方で、比較的お金のかからない研究分野もあります。コンピューター科学の世界では「オープンソース」という方式がしばしば取られます。巨大なソフトウエアをみんなで分担して作って、みんなで共有しようというという発想です。優秀なソフトウエアを無料で使えるという、とてもありがたい仕組みで、研究費が枯渇している研究者にとっては救いの神です。

 オープンソースは、プロジェクトが一旦軌道に乗ると、その勢いをもはや誰も止められなくなります。無料だからこそユーザー数が多くなり、やがてデファクトスタンダードになってしまうからです。最新の研究成果を備えたソフトウエアが無料で配られるのですから、大半の研究者がオープンソースのプロジェクトに乗らざるを得なくなります。

 現代の科学界は、「激安」と「激高」が混在する、二極化した奇妙な状況とも言えます。

研究資金を勝ち取る方法

 昔の大学は、経営的にも余力がありましたから、各研究室へ研究費を比較的多く配っていました。なので先生達は、研究資金が安定的に来ることを当てにすることができ、自由な研究をすることができたわけです。

 しかし、大学も余力がなくなり、そのようなばらまき型の配分はできなくなりました。今は、政府や財団、企業がスポンサーとなって、よいアイデアにだけ研究資金を与える方式に変わりました。研究費申請書を何通もせっせと書いて、あちこちに応募して、選考に勝ち残って、ようやく資金がもらえるのです。

 一見すると、「よいアイデアに資金が与えられる」という理想的な方式ですが、よいアイデアでも運悪くバカな審査員に当たって悪い点をつけられると落ちるので、不確実性の高い方式とも言えます。

 「そんなにバカな審査員は多くはないだろう」と思われるかもしれません。しかし、各研究者が何通も申請書を出し合うのですから、審査員に送られてくる申請書の数もハンパではありません。数十、下手すれば百近い数の申請書を全部読んで、良いものを選考するという作業をせねばならないのです。当然、全部をしっかり読む時間も体力もなく、斜め読みで選ぶわけですから、良いアイデアも落とされることがしばしばあります。

 突き詰めると、斜め読みでも採用してもらえるようにビジュアルに工夫をした申請書を書ける人が、研究費を獲得しているように思えます。それはそれで研究者の能力なのでしょう。

研究資金の分配はどう決まる?

 学問にはいろいろな分野があります。医学は大事ですし、航空工学も大事です。古典文学研究も、実用的ではないけれど独自の価値を持っています。どれにも研究資金を与えなければなりません。では、その配分は誰が決めているのでしょうか。

 配分の制御には2系統あって、一つは政府が重点課題と指定した分野に大きなプロジェクトを立ち上げて研究資金を投じるというパターン。ただ、これはよほど注目を浴びている分野しか対象となりませんから、広い科学の全体について資金を制御するには足りません。

 それを補う仕組みは、研究費申請書の出願件数で分野の配分予算を決めるというものです。申請書が多く出される分野は、多くの研究者からきっと将来性があり重要であると思われているはずです。よって、その分野の割り当てを増やすという方式です。これはこれで、ある種、民主的で合理的な配分なのかもしれませんが、まだ全然人気がないけれども将来重大な価値を持つ研究には金が回ってきません。

 ノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典さんも、かつての大学では、先生の一存で自由に使える研究資金があっために、チャレンジングで突飛な研究もできたと語っています。この方が長期的な投資としてはむしろ優れているのかもしれません。

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