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いい会社の見分け方(12)会社の実力がわかる「企業力指数」
JALが急上昇したワケ

いい会社の見分け方(12) 会社の実力がわかる「企業力指数」JALが急上昇したワケ
authored by 松本敏史早稲田大学大学院教授

企業力指数の意味

 これまで11回に分けて「いい会社の見分け方」を説明してきました。連載のまとめの意味を込めて、企業の経営状態(体力)を総合的に表す「企業力指数」について、今回と次回に分けて説明します。

 いきなりですが、このグラフは皆さんも注目されていると思われる広告3社の企業力指数を時系列の形で示したものです。意外に思われるかもしれませんが、このグラフを見ると電通の企業力指数は博報堂やアサツーよりも低く、特に海外の広告会社を買収し、事業のグローバル化を展開した2012年度の決算では数値が大きく低下しています。電通は現在、長時間労働問題で社会的に批判されていますが、企業力指数に現れている経営状態がこの問題の背景にあるのかもしれません。

 ここでもう1つ、就活先として人気の高いJAL(日本航空)の企業力指数を見てみましょう。ご存知とは思いますが、JALは2010年に1度経営破綻をしています。それを立て直したのが京セラの創業者である稲盛和夫氏で、JALはわずか1年で復活し、その翌年の2012年に再上場を果たしました。この間のJALの企業力指数は図表2のとおりです。

 それでは企業力指数について詳しく説明していきます。皆さんは経営分析(財務分析、財務諸表分析)という用語を耳にされたことがあるでしょうか。これは会計情報や各種のデータを活用して会社の経営状態を判定することをいいます。たとえばこのシリーズで取り上げた売上高営業利益率や自己資本比率は経営分析で必ず登場する定番の指標ですが、これ以外にも企業の様々な要素(側面)を測定するための指標が数多く開発されてきました。

 経営分析ではこれらの指標の変化や他企業との比較を手がかりにしながら、会社の経営状態を総合的に判定していきます。ただしその判定には経営や会計に関する専門知識と経験に裏付けられた高度な判断力が欠かせません。しかしこのように言うと経営分析が一部の人たちの独占物になってしまいます。そこで、プロでなくてもある程度の精度で企業の経営状態を総合的に判定する方法はないものか、このような視点から筆者が考案したのが企業力指数です。

 企業力指数の最大の特長は、①各種の分析指標を1つの指数に集約し、企業の経営状態を誰でも簡単に判定できるようにしたこと ②作業を簡略化するために、計算に必要な数値を7つに集約したこと ③「1.0」という絶対的な判定基準を設けたことにあります。

 ここで改めて図表1と図表2を見ていただくと、会計の専門家でなくても企業力指数によって会社の経営状態が手に取るようにわかるのではないでしょうか。それでは次に、この企業力指数の計算方法を説明します。

企業力指数の計算式と判定基準

(1)企業力指数の計算式
企業力指数の計算に必要な数値は、貸借対照表上の「流動資産」「総資産」「負債」「純資産」の4項目と、損益計算書上の「売上高」「経常利益」「当期純利益」の3項目です。

 ただし、貸借対照表には「総資産=負債+純資産」の関係がありますから、EXCELを使う場合には、「総資産100-負債60=純資産40」「総資産100-純資産60=負債40」「負債60+純資産40=総資産100」のように流動資産以外の3項目から2項目(太字部分)をピック・アップし、残りの1項目については自動計算(手抜き)をすることができます。

 図表3に示されているように、企業力指数は5つの指数の平均値として計算します。その計算式と、指標の判定内容は図表4のとおりです。

 ここで重要な指摘をしておかなければなりません。図表4に示した計算式ですが、これらはいわゆる事業会社(製造業や商業等)を対象としたもので、業態が大きく異なる金融業(銀行、証券会社、保険会社等)にこれを適用することはできません。金融業については業種ごとに異なる計算式が必要になります。

(2)企業力指数の判定基準
先に触れたように、企業力指数には「1.0」という絶対的な判定基準が設定されています。具体的にいうと、5つの指数はそれぞれが1.0以上であることが望ましく(基本的にはより高い方がベター)、そしてこれらを総合した企業力指数が1.0以上であれば「経営状態に問題なし」と判定します。

 それでは実際の企業力指数がどのようになっているのか確認してみましょう。まず図表5ですが、これは日本を代表する日経平均採用銘柄225社(日本の代表的な株式指標である日経平均株価を計算するときに用いられる銘柄)の2016年3月時点における企業力指数(平均値)です。優良企業の割には数値が低いと感じられるかもしれませんが、図表6と比較してもらえば、これらの数値が決して低いものではないことが分かります。

 次に図表6は上場会社(厳しい審査基準をクリアし、証券取引所で売買することが許されている株式を発行している会社)のうち、2002年から2016年に経営破綻した71社の企業力指数の推移を示したものです。これを見ると企業が倒産に向かって徐々に体力を低下させていく過程がはっきりとわかります。なお、「倒産1年前」の企業力指数の平均値は0.72ですが、71社の約半数は企業力指数が0.6台になった時点で破たんしています。

(注)2010年に倒産した会社の場合は2005年の数値,2011年に倒産した場合は2006年の数値を平均して「倒産5年前」の数値としています。

 以上、優良企業と倒産企業の企業力指数を紹介しましたが、本節の最後に上場会社の企業力指数の分布を示しておきます。図表7は2014年3月時点における上場会社2,332社(金融業を除いています)の企業力指数です。この図表の「判定」欄には「超優良」から「危機的」まで7つの解釈が示されていますが、これらはあくまでも1つの目安と考えてください。

 次回は「企業力指数」に必要な数値の調べ方を企業のホームページを使って説明します。