入社前に知っておきたい 「出世の法則」
生涯キャリアの選択肢(17)
第3回で、人生で一番大事なのは「再チャレンジ力」と言った。入社後も、同期に昇進で遅れたとする。人は自分を高く評価するので、ふてくされるか。あきらめるか。どちらも人生を失う。断念した人は、そこまでの能力しかなかったことになる。ここで再び挑戦する能力こそ求められているものだ。
成功する3つの要素
今回は「出世の法則」を紹介する。上場企業で若手役員のランクに達するのは、同期の数%。100人のうち2、3人だ。それまでに何回も選別を受け、トーナメントを勝ち抜いてきた人だ。あなたは将来それに入れるだろうか。
調査の結果、若手役員には三つの重要因子があった。ひとつめは自信である。これまで様々な職場で実績を上げてきた。これから別の仕事に変わっても、自分は成果を上げる自信がある人だ。実際、自信のない上司に人はついていかないだろう。
二番目は会社の経営戦略への貢献である。色ら提案して、事業部や会社の経営戦略の推進に貢献してきた。普通の人は年度目標のもとで働いているので、その達成に汲々としている。若手で大抜擢されたAさんは、それを超えて、二、三年かかって中長期的な戦略課題にも同時に取り組んできた。それが実って、大型商品の発売と売り上げの大幅増加を実現した。会社はそういう人を評価する。
三番目は調整である。課題の遂行のために、人や時間や予算など様々な要素を調整して推進してきた。やる気のない部下を鼓舞したり、予算がない中で創意工夫したりしてきた。できる人のスキルをふたつに分けるならば、分析して課題を設定する力と、それを実行する力になる。自信の上にその両者が揃うのが、出世するサラリーマンの共通要素だ。
挫折からの復活
ただ、出世に関して忘れてはいけないのは、人は自分がかわいいので、他人よりも二割、三割上に自分を評価してしまうことだ。そこから自分の処遇について不満が生まれる。不遇な立場に置かれたり左遷されたりしたとき、ふてくされたり落ち込んだりしてしまう人がいる。でも、この左遷されたときに、リカバリーして巻き返していく力も能力である。
ある大企業の元社長の話を聞いていたら、海外駐在のあと、日本に戻って物流担当になって、そのまま埋もれそうになった。そのとき自分はもっと仕事ができると役員に売り込みに行って、本社に復帰した。別の社長は、傍流の支店長に左遷されたが、副社長が来たときに自分をわかってもらい、本社に戻った。二人とも、それから彗星のように浮上し、トップへと登り詰めた。
この事例を見ると、いずれも本流の出世コースを歩いておらず、左遷や落胆があったけれども、そこでふてくされずに地道に努力している。そして自分の価値を認めさせ、カムバック後に大きな成果を上げた。
なぜ本流でない人が大きな成果を上げられたかといえば、失うものがないからと考えられる。いったんコースを外れた者は、失うものがないので、大胆な手を打てる。それは会社の変革という時代が求めているニーズにピッタリ合う。
出世を目標にしない
出世は多くのサラリーマンの最大の目標になっている。人事制度上も働くインセンティブとして設計されている。出世欲求を持つのはいいが、それに自分がとらわれてはいけない。16回で述べたように、出世は他人が決めるもので、自分では決められない。他人に人生を委ねるのはよくないはずだ。出世を目標にしても、確率的に多くの場合それは達成されない。それで不満が残る人生になっては不幸だ。
ある銀行の専務で退任された方が、「同期が社長になって、なんで自分はなれないんだ」と退職後も嘆いていた。専務まで出世しても、まだ不満を持っていた。そういうことのないように、いい仕事をして実績を上げることを自分の主目標に据えて、出世を自己目的化しないスタンスが大事だ。
一橋大学社会学部卒業後、東京ガス入社。ロンドン大学大学院留学、ハーバード大学大学院修士課程修了。中東経済研究所研究員。アーバンクラブ設立、取締役。法政大学大学院博士後期課程修了、経営学博士。東京女学館大学国際教養学部教授(キャリア開発委員長)、一橋大学特任教授などを経て2015年より三菱商事社外取締役。18年から立命館大学共通教育推進機構教授。人材育成、企業経営、キャリアデザインを中心に研究し、実践的人材開発の理論を構築。研修・講演は通算1000回を超える。ビジネスリーダーの生涯キャリア研究がライフテーマ。著書は計61冊。就活関係では「受かる!西山式内定バイブル」(小学館)がある。
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