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発信!理系女子(4)研究を社会に役立てたい
~工学部学生の進路

authored by 東北大学サイエンス・エンジェル
発信!理系女子(4) 研究を社会に役立てたい~工学部学生の進路

 こんにちは! 東北大学サイエンス・エンジェル(SA)、工学研究科修士2年の井上和香です。大学生の皆さんの中には、同じ大学の中にあるのに、大学院の様子は全然知らないという人も多いかもしれません。今回は、「大学院ってどんなところ? 卒業後はどうするの?」をご紹介したいと思います。

大きく違う、大学と大学院

 高校の時、私が描く大学のイメージといえば、「専門の勉強をし、興味を突き詰めて研究をするところ」でした。しかし、大学に入学して、その研究のイメージは大学ではなく、むしろ大学院でのことであることが分かりました。

学会での発表

 私は、大学で材料科学について学びました。材料科学というとあまり聞き慣れない分野かもしれませんが、ICチップのような小さなものから、発電所のような大きなものまで、世の中にある様々なものの原料を、性質や作り方、加工の仕方まで幅広く学ぶ学問です。

 大学院生の今は、材料の性質の中でも、「さびない金属」に魅力を感じ、「環境に優しく、従来よりもサビに強い鉄の開発」について研究しています。

 原料・材料に初めて興味を持ったのは、中学生の頃でした。小さい頃から、粘土遊びが好きで、油粘土や紙粘土だけでなく、樹脂粘土や銀粘土を使って工作をしていました。
その中でも好きだったのが銀粘土で、粘土を自分の好きな形に加工して、焼くと銀そのものになるという性質に大きな魅力を感じました。それから、金属の加工に興味を持つようになりました。

 高校1年の時に、東北大学で「携帯電話から金を取り出す」という3日間の実験イベントがありました。高校生が1人で大学に飛び込むことに少し不安を感じましたが、実際に参加してみると実験はとても楽しく、あっという間に時間が過ぎていきました。それと同時に「私はここで勉強する」と決め、苦手な理系科目にも前向きに取り組むようになりました。

分析用の溶液を作成して実験の準備中

 大学に入ると、1年生はまず社会や外国語から数学や物理といった幅広い一般教養を学び、学年が上がるごとに、専門科目や実習、学生実験といった科目を受講します。3・4年生になると研究室に配属され、テーマを決めて卒業研究を始めます。

 ここで共通するのは、4年間のうちほとんどがインプットであるということです。1・2年のうちは座学が中心であり、高校の授業とスタイルはほとんど変わりません。学生実験や3・4年生になって始める卒業研究も、先生や先輩から指導を受け、実験の進め方や考え方をひたすらインプットし、研究者や技術者になる基礎力を付けていくものです。

 大学院生になると、学生だけでなく「研究者の卵」という一面を持つようになり、アウトプットの機会が増えてきます。講義の選択も自分の研究や進路に関連したものを選ぶようになり、講義のない時間はひたすら実験やディスカッションなどの研究活動に励む、という研究が中心の学生生活になります。

 それだけでなく、後輩に研究指導をしたり、先生のアシスタントとして授業を運営したりと、自分が学ぶと同時に、教育する立場にもなります。さらに、大学の中だけでなく、全国各地、時には外国に出向いて、研究成果の発表や、一流の研究者や技術者とディスカッションをする機会が与えられます。

私が大学院生になった理由

 私が学部で卒業せず、大学院の進学を決めた理由は、周りの環境にありました。私が所属している学科は、8割以上の学生が大学院に進学をするところでした。ほとんどの周りの学生が大学院進学を意識している中、私もぼんやりと大学院進学を考えていました。

研究室で誕生日を祝ってもらいました

 そんな私が、「大学院で勉強・研究したい」と強く思ったのは、学部の4年生になって研究室に入ってからです。先生や先輩から研究の手ほどきを受けているうちにあっという間に時が過ぎていき、「このまま、先生や先輩に教えてもらったことを覚えるのに必死なままで卒業するのは嫌だ!」と強く感じました。また、社会で工学の知識を活かして働くにも、自分で考えて研究を進めていくにも、まだまだ経験と勉強が足りないと思ったので、大学院に進学することに決めました。

 また、配属された研究室は、学科の中でも女性が多い研究室(それでも3割ほど)であり、在籍する女性の先輩やOGの先輩方を見て、「様々な場所で活躍しているかっこいい先輩達に少しでも近づいてから卒業したい!」と強い憧れを持ったのが、大学院進学の決定打になりました。

エンジニア? それとも研究者?

 大学院生になると、研究を進めていくと同時に、もう1つ重要なことがあります。それは、「自分の卒業後の進路」です。私は、大学に入るまで、「研究職とエンジニアは何が違うの?」と考えていました。そして、大学院生になって、「修士で卒業して、企業で研究をする修士卒研究職や、ものづくりに直接関わるエンジニアになる道」と「博士課程に行って、専門を生かし、世界的に通用する『Ph.D』を持った研究職として生きていく道」の分かれ道に立つことになりました。

 工学系では、大学院卒業後に研究職かエンジニアになる人が多いです。工学では「実用化を視野に入れた研究」が中心です。研究職は修士卒も博士卒もあり、「自然科学が世の中にどのように応用できるか」を見つける所が仕事の中心になります。エンジニアは主に修士卒で、「研究者が見つけた知見」と「世の中のニーズ」を組み合わせ、実際に世の中に送り出す仕事です。つまり、工学系の研究職とエンジニアの違いとは、ものづくりにおける立ち位置の違いであると私は思いました。

 材料科学の分野では、エンジニアであっても研究職であっても、原料から市場に出るまで幅広く関わることが出来ます。学部生の時の自分は、理系職に就きたいけど、まだ「何をしたいか」が決まっていませんでした。エンジニアや研究職に就く先輩は大学院に進学する人が多かったので、まずは大学院に入って、勉強して自分の興味を絞っていこうと思いました。

SA活動で子どもたちに実験を指導中。キッチンにあるものを使って化学反応を起こし、発生したガスで風船を膨らませる

 大学院生になってからは、研究室やサークルの先輩に、「エンジニアの魅力、どうしてその道を選んだか」をできるだけ聞くことにしていました。その中で、一番心惹かれたのは、「エンジニアって研究をする人、実際にものを作る人、消費者とたくさん関われる仕事だよ。話すのが好きなら、絶対楽しいよ」というエンジニアになった先輩の言葉でした。

 私の場合、研究をしていくうちに、研究成果が実用化に繋がる例はごくまれであるという現実も知りました。そのうちに、「多くの研究成果が埋もれてしまう前に、小さなことでも実際に世の中に送り出すような仕事がしたい」と思うようになり
ました。そこで、来春からは、大学院を前期課程で修了し、研究と技術と人を繋げられるようなエンジニアを目指すことにしました。残りの時間、少しでも、周りの研究者や院生と関わり、研究のいいところを吸収し、社会人として生きていく糧にしていきたいと思います。

 これから理系に進もう、大学院に進もうと思っている人へ。進学はゴールではなく、その先にも多くの選択肢があります。もし迷った時は、一度立ち止まり、多くの人の話を聞いてみてください。きっと、自分の適性やフィーリングと交わる点が見つかるはずです。

(井上和香)

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