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ジュリアード@NYからの手紙(3)ジャパン・ソサエティー理事長に聞く(下)
人生の重要な選択肢では、難しい方を選べ

廣津留すみれ authored by 廣津留すみれ米ジュリアード音楽院1年生
ジュリアード@NYからの手紙(3) ジャパン・ソサエティー理事長に聞く(下)人生の重要な選択肢では、難しい方を選べ

 前回に続いてジャパン・ソサエティー(以下JS、※)理事長の櫻井本篤さんに話を伺っています。日米の文化の違いから若い方へのメッセージまで。必読です!

東京とニューヨークの違い

廣津留 2016年10月、都市総合力ランキング(都市戦略研究所 森記念財団 2016)でニューヨークが2位、東京は3位となり日本で話題になりましたが、ニューヨークにあって東京にないものは何かありますか?

櫻井 人種の多さ。これは間違いない。ニューヨークに住んでいる人の半分は外国生まれの外国人というのがあるから、これは極端に違いますよね。それからニューヨークでは、ものづくりではなく、目に見えないもので新しいものをどんどん試す傾向がものすごく強い。ここはもともと移民の拠点なので、異なる考え方を受け入れるという考えがものすごくあるから、少なくとも変なものをみてもびっくりしない。そしてバカにしない。

廣津留 それはこの4年間で実感しました。

櫻井 それがアメリカの良いところですよね。日本は本当に閉鎖的ですから。

櫻井本篤(さくらい・もとあつ) 東京大学を卒業後、昭和43年より三菱商事株式会社に勤務、25年以上に及ぶ海外生活の中で、24年を米国にて過ごす。平成15年より米国三菱商事社長を務め18年に同職を離れた後、民間出身初の在ニューヨーク総領事に就任。平成21年に日本人初のジャパン・ソサエティー理事長に就任

廣津留 日本は一通りだけしか答えがないっていう感じですよね。

櫻井 アメリカで自由にできるのはそういうところです。それからアメリカ人は何に関しても寛容でしょ。日本人は、ちょっと敬語の使い方を間違えると「あの人は・・・」なんてことになる。そこに良いところもあるんでしょうけれど。そういう意味では、日米の文化は極端に違う考え方のベースから出発して、お互い少しずつ近づいてるんじゃないかという感じがしますね。

絶対に嘘はつかない

廣津留 日本人初の理事長にご就任されましたが、日本人だからこれができるというのはありますか。

櫻井 面白いですよ。もちろん仕事の中身はどこの国の人がやってもあまり関係ありません。アメリカだから特殊なやり方というのもないですし。きちっとロジックを通すとか、世の中の流れを間違わずに読めるかとか、そういうのがベースです。あとは人と対面するときにきちっと差別なくやることですよね。私がモットーにしているのは、絶対に嘘はつかないことです。

櫻井 これは当たり前の話ですが、アメリカの社会は平気で嘘つく人が多いから裁判が成り立つわけです。日本の場合は、あまり人が嘘つかないから、人を殺しておいて絶対無罪だって言い張るよりも、ごめんなさいってすぐ言っちゃうわけです。そうすると裁判がすごく簡単な話になる。アメリカの場合は、絶対犯人だってみんな思っていても証拠が足りなくて無罪になることもあるわけです。そういうのがあるからこの国は日本に比べるとずいぶん違いますよね。

廣津留 英語はビジネス向きだと言われています。

櫻井 本当にそうですね。英語はまず汎用性が高い。そして国の成り立ちからして、違う言語を話していた人たちが共通言語として英語を使う形だから、皆アクセントも発音も文法も違うけれども下手な英語に対して寛容性が高いでしょ。

廣津留 誰も気にしてない。それは良いところですよね。

櫻井 日本語はやっぱり厳しい。特に書く日本語なんていったら、どんな文章を書いても真っ赤になってほとんど全部書き直しです。表現の仕方について個人の趣味が半分くらい入るからですよ。3年目くらいに間違わなくなりましたけれどね。だから寛容性の高さは英語の強みですよね。

クリスマス色に染まるニューヨーク

アメリカの今

廣津留 これまでの在米31年間で気づいたことは何でしょうか。

櫻井 白人の人口は現在62%あるわけですが、2025年には50%以下になる。アメリカはDiversity(多様性)を大切にしてきましたから、マイノリティを優遇する政策、数の少ない人、女性を守りましょう、といういわゆるアファーマティブ・アクション (Affirmative action)をずっと続けてきました。アファーマティブ・アクションとは積極的差別撤廃策で、放っておくと変わらないから、きちっと弱者を救済しましょうという制度です。

櫻井 建前上は文句を言えないけれども、「俺たちはどうなんだよ、平等に扱われていたならもっといい生活していてもいいはずだ」と思っている人が結構います。それは主に白人の中流の人だろうし、みんなが民主主義の中で良いと思うルール、例えば「弱者や多様性を大切にしましょう」などに反対する意見は、場合によってはインテリの人も、全く自由には言えなかったわけです。それが鬱積して、自分たちの生活ぶりもいつまでたってもよくならない、と。根強い不満は今までもあったし、その閉塞感、国全体の富の不平等感は日本の比較ではありません。

廣津留 おっしゃる通り、アメリカは貧富の差が激しいですよね。

櫻井 アメリカの上位10%の持つ資産が、下位90%が持つ資産の総量より多い、これはいくらなんでもあんまりじゃないのかと。富の分配の不平等は、これほどの差がない日本ですら問題になっているくらいですから、アメリカ人が不満を抱いていてもおかしくない。特にNYは金持ちが多い。40代で5億円、30代でも億円単位で給料もらっている人がごろごろしている。日本の会社でいえば、大会社の社長さんでも3億円ももらっている人はものすごく数少ないわけです。だから貧富の差が激しいのは間違いないです。

櫻井 これをどうするかというと、やっぱり教育にお金を使う。特に多様性のある社会では、多様性をベースにしてお互いがコミュニケートできるようになるコストは高いわけですよ。英語ができない人も寛容に受け入れてくれる社会というのは、その寛容の影で犠牲になっていると思い込んでいる人が多いわけです。

居心地の良いJSオフィスにて、日米エンタメトークに花が咲きます

若い方へのメッセージ

廣津留 最後に、若い読者の方にメッセージをいただけますでしょうか。

櫻井 人生には選択肢が色々あります。自分が思いつく選択肢もあるし、避けられない選択肢も結構ある。そういうものも含めて、人生の岐路において重要な選択肢にいくつか直面すると思いますが、そういう時にはできるだけ難しい方をあえて選んだ方がいい。できないと思うと易しい方を選びたくなりますが、難しい方を選んでみると、なんとなくやってるうちにできちゃったということもある。やってみないとわからないってあるでしょう。あなたもそうでしょう。

廣津留 本当にその通りです。

櫻井 だから、難しい方を選ぶ。その方が人生が豊かになる。失敗したとしても、難しい方を選んで失敗した時とそうでない時と、どっちが満足感高いかですよ。それから、人生の岐路でそういう選択をした後の結果は、完全な失敗とか完全な成功というのはないんですよ。7割成功したけどあとは失敗とか、そういうものなんです。だから、思い切って選択すれば、難しいことではない。というのが僕の楽観主義的なメッセージです。

※JSは米ニューヨークで日本文化の発信を行うNPO団体で、2007年に創立100周年を迎えた。政治・経済や文化講演会、舞台公演、映画上映、美術展、教育プログラム、語学教室を開催し、様々な切り口からニューヨーカーに日本を紹介している。

【お知らせ】
ジュリアードオーケストラのコンサートに第二バイオリンの首席奏者として出演します。
日時:2017年1月24日(火)19:30
場所:David Geffen Hall(ニューヨーク・リンカーンセンター内)
指揮:アラン・ギルバート