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[ career-働き方 ]

大手書店スタッフが薦める
就職前に読みたい3冊

大手書店スタッフが薦める就職前に読みたい3冊

 内定が出てから春の入社式までは、ある程度まとまった時間を確保できる貴重な期間だ。役立ちそうな本を読んで仕事に備えたり、社会人になっても読み続けるお好みの著者を見つけたりする良い機会かもしれない。就職までに読んでおきたいお薦めの本を大手書店のスタッフに挙げてもらった。

本気の姿勢に触れて――紀伊国屋書店新宿本店 牧岡絵美子さん

 紀伊国屋書店新宿本店の牧岡絵美子さんの一押し「クライマーズ・ハイ」は1985年の日航ジャンボ機墜落事故を題材にとった小説だ。地方の新聞社で働く中年の主人公が上司や部下とぶつかりながらも、520人が犠牲になった大惨事の報道に奮闘する1週間を描く。

紀伊国屋書店新宿本店の牧岡絵美子さん

 部署間のあつれきが生々しく描かれるのも特徴だ。牧岡さんは「それぞれが『自分の仕事を全うしたい』と思うからこそぶつかってしまう。そういう仕事の雰囲気がわかる」と話す。「大学生は一生懸命になることを恥ずかしいと思いがち。仕事に本気で打ち込む主人公の姿に触れて、その段階を越えてほしい」と訴える。

 「少し後ろ向きなテーマだけれど」とことわりながら薦めるのは「『働く』ために必要なこと」だ。著者は職場でうまくいかない、すぐに辞めてしまう、といった若者の悩みを事例を交えながら描き出す。「著者は若者が自己理解を深めることの大切さを説く。就職活動の自己分析では主に強みを知るが、この本を読むと自分の苦手分野を知ることの大切さがわかる」(牧岡さん)

 「即答力」は雑誌「暮しの手帖」の元編集長の著作だ。常に相手の質問に即答できるよう、準備を整えておく姿勢の大切さを説く。

 「自分のためだけではなく、目の前の相手や全体を意識すれば仕事がうまく回り出す」と牧岡さん。「どういう社会人になりたいか。そのイメージを持つために読んでほしい本」という。

自分を俯瞰する契機に――丸善書店お茶の水店 高橋尚哉さん

丸善書店お茶の水店の高橋尚哉さん

 丸善書店お茶の水店でビジネス書を担当する高橋尚哉さんがまず押さえておいてほしいという「さすが!と言われるビジネスマナー 完全版」はお辞儀の仕方や名刺交換の仕方など具体的なビジネスマナーをイラストを交えながら紹介する本。「上司や同僚との付き合い方やメールの送り方など、就職活動では身につかないマナーを予習するのに最適だ」という。

 「あなたの人生の科学」は脳科学や発達心理学の先端研究の知見を、2人の人物の成長を描きながら紹介する本だ。高橋さんは「人の選択や思考のパターンが、普段はあまり意識しない社会的な関わりや慣習で形成されていることがわかる」と説明する。「就職して会社の思考パターンが身につけば次第に視野が狭くなる。この本を読んでおけば自分を俯瞰(ふかん)して見られるかもしれない」

 英語圏で有名な米国の作家ソーンダーズ氏が母校の大学の卒業式で行ったスピーチを収めた「人生で大切なたったひとつのこと」は「卒業式で良い話が聞けなかったらぜひ読んでほしい」本だ。

 高橋さんは「ソーンダーズは学生たちに『やさしさから離れないように』と説いている。社会人になって忙しくても、残しておくべき大切な部分があることを教えてくれる」と本の魅力を語る。数十分で読めそうな短い本だが「身近に置いて何度でも読み返してほしい」という。

「理解」を得る謝り方――リブロ汐留シオサイト店 大城優樹さん

リブロ汐留シオサイト店の大城優樹さん

 リブロ汐留シオサイト店の店長、大城優樹さんが「これを先に知っておけば社会人になることの恐怖感が薄れる」と薦めるのが「よい謝罪」だ。

 吉本興業で35年にわたって謝罪記者会見を取り仕切ってきた竹中功氏の著作。「人の『怒り』を『理解』に変えていく技術が説明されている」という。

 「謝罪は会社生活で一番ネガティブな場面。だが入社後に謝罪の仕方を教える企業は少ない。あらかじめ自分で学んでおくとよい」とこの本を推す意図を説明する。

 2011年の東日本大震災で甚大な被害を受けながら、半年で操業を再開した日本製紙石巻工場のルポ「紙つなげ!」は「働くとは何か、ということを考えさせる本」だ。「どんな職場も社会に貢献していることが、その職場の機能が止まった時に浮き彫りになる。操業再開に奮闘する姿に、入社前の学生もモチベーションが上がるだろう」と話す。今の大学生は震災の時に高校生だった人が多い。「苦しい体験として共有しており、身近に感じるかもしれない」(大城さん)

 アニメプロデューサー、石井朋彦さんの「自分を捨てる仕事術」は著者がスタジオジブリの有名プロデューサー、鈴木敏夫氏に師事して学んだ仕事のノウハウをまとめた本だ。自分の意見や個性を最初から主張せずにまずは上司や先輩のやり方をまねすることが大事と説かれている。

 「まねをしても残る自分の個性を見つけて、それを仕事に生かすという考え方にはなるほどと思わされる。カリスマから余すことなく学びとろうとする著者の姿は、入社を控える大学生の良いモデルになる」(同)ことが期待できそうだ。

大学生の読書時間二極化 「ゼロ」増「1日30分未満」は減

 大学生の読書量の変化をみると、毎日一定時間読む層と、全く読まない層への二極化が進んでいるようだ。全国大学生活協同組合連合会(東京)の2015年の調査によると、1日の読書時間を「ゼロ」と答えた学生の割合は45%で、12年比で約10ポイント増えた。

 一方、「60分以上」の割合は23%で3年前とほぼ同じ。「30分以上60分未満」は20%で同3ポイント減、「30分未満」は11%で同7ポイント減少し、中間層が薄くなっている。

 書店員は読書の大切さを訴える。紀伊国屋書店の牧岡絵美子さんは「社会人にとっては、情報収集や課題解決にならない読書も大事だ」と言う。

 没頭できる本があれば仕事のストレスが強い時に頭の中を切り替えたり、落ち着いたりすることもできる。牧岡さんは「時間のある今のうちに自分を支えてくれる一冊を見つけてほしい」と力を込める。
(蓑輪星使)[日本経済新聞朝刊2016年11月30日付、大学面から転載]

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