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シューカツ都市伝説を斬る!入社後に必要な「文章力」のツボ

authored by 曽和利光
シューカツ都市伝説を斬る! 入社後に必要な「文章力」のツボ

 リクルート、ライフネット生命などの人事責任者として20年以上、累計で2万人を超える就活生を面接してきた「プロ人事」、曽和利光さん。学生と若手社会人の双方をよく知る立場から、学生からは見えにくいカイシャの実情を解説します。今回は「入社後に必要な『文章力』のツボ」です。

テキストの発信は増えても......

 パソコンやスマートフォンを使ってブログを書いている内定者の皆さんも多いでしょう。私がリクルートに入社した1995年は、インターネットや携帯電話が国内で広まり始めた時期でした。それ以降、メールでのやりとりが当たり前になり、ブログが普及し、ツイッターやフェイスブック、LINEも登場し......といった具合に、文字、つまりテキストによるコミュニケーションは飛躍的に進化しています。

 皆さんが毎日発信しているテキストは、恐らくかなりの量だと思います。前回取り上げた「キーボードに慣れているのか」といった心配も、取り越し苦労だったかもしれませんね。ところが、学生時代には友人から支持された文章の書き方でも、社会人として通用するとは限らず、入社後の壁になる可能性があります。私がなぜこんな忠告をするかと言えば、新入社員の文章力をみると、社会人として求められる水準に達していないケースが少なくないからです。

 ブログのような文章はビジネスで通用しない――。何だ、そんなの当たり前だよ、入社したら気をつけるから大丈夫。皆さんはそう感じるかもしれませんが、実はかなりの数の先輩たちが同様に高をくくって入社し、直後につまずいています。学生時代には周囲に同じ書き方をしている文章しか見当たらないので、それが当然になってしまい、違う書き方の存在に気付いていないのではないでしょうか。

正確に伝えるための配慮はあるか

曽和利光(そわ・としみつ) 1971年生まれ。 京都大学教育学部卒。リクルート人事部ゼネラルマネージャー、ライフネット生命総務部長などを経て2011年、主に新卒採用を対象にしたコンサルタント事業の人材研究所を設立。著書に「就活『後ろ倒し』の衝撃」(東洋経済新報社)、「『できる人事』と『ダメ人事』の習慣」(明日香出版社)などがある(撮影協力=東海大学高輪校舎)

 「物事を正確に伝えられるか」。簡単にいえば学生時代の文章の書き方と、社会人になってから求められる書き方の違いはここにあります。典型的な例で説明しましょう。私の会社では人材関連のコンサルティングを手掛けています。そこで顧客企業の調査リポートを新人に任せてみたところ、「経営陣への不信感について」というタイトルで提出してきたのです。

 文書を提出するときに、タイトルは非常に重要です。おそらく彼は、「顧客企業を調査したところ、一部の従業員の中に、経営陣に不満を持つ人がいる」ということをリポートしたかったのだと思います。しかし、ここで言う「不信感」とは、経営陣の何に対してのものなのか。人格か、発言か、あるいは経営方針についてか。書いた本人はわかっていても、読んだ人にはわかりません。

 大学の講義などで提出するリポートは、「~~について」などと曖昧に書いても通る場合があります。ただ、ビジネス文書はこれではダメです。短いタイトルでも、曖昧さが残り、別の意味にもとれてしまう文章は不適切です。社会人が仕事で書く文章は、一読して間違いなく意味を把握できなければならないのです。

 大事なのは、「相手に確実に読み取ってもらうための配慮」があるかどうか、なのです。残念な事例を挙げると、10行ほどの段落をだらだらと1文で続けている文章を目にしたことがあります。単に読みにくいだけでなく、最初と最後の内容がかみ合っておらず、結局何を言いたいのかわからないのです。箇条書きが適切なのに、すべて文章で列挙してしまったため、スッと頭に入ってこない文章にも出くわしました。

 「何々しちゃってすいません」といったように、しゃべり言葉をそのまま文章にしてしまうケースもあります。親しい同僚に対してならともかく、上司や取引先へのメールにも、こんな「子供っぽい」表現がポロッと顔を出したりします。これも、相手がどう受け取るかについての配慮を欠く点で、根っこは同じだと思います。そうした配慮がなければ、いかに「拝啓、敬具」などの形式が整っていても落第でしょう。

ブログやメールの文章も練ってみよう

 学生の文章の書き方から抜け出せていない新人は、皆さんの想像以上に多いのです。「新人が文章を書けない」と嘆く社会人の声は、至るところから聞こえてきます。報告書や企画書は何がいいたいかさっぱりわからない。メールを書かせても危なっかしくてそのまま出せたものではないので、「昨日の会合のお礼で先方にメールしておいてね」といった雑用も頼みにくい。前回に指摘した「パソコンのできない新人」にも通じますが、仕事を任せてもらえないためにスタートダッシュでつまずくことは案外多いものです。

 入社前に文章力の不足を補い、社会人の文章の書き方にスムーズになじめるようにするにはどうするか。ブログであれメールであれ、文章を書くときにはまず何度も読み直してみることです。「果たしてこれで伝わるのか?」と考えながら言葉遣いや構成を練れば、文章力の訓練になります。新聞などの文体をまねしてもいいでしょう。私の会社の新人には、訓練の一環でブログを運営させ、「学生風ではなく、筋道や内容のしっかりした文章を書きなさい」と指示しています。

 ブログやツイッターの文章は、その場の気分や雰囲気を写し取って発信するところが特徴でしょう。その書き方に慣れている皆さんであればなおさら、これからは「雰囲気よりも正確性」を心がけてほしいものです。社会人としての文章の書き方を身につけているかどうかは、メールや企画書、日報など、仕事のさまざまな局面で必ず問われます。順調なスタートダッシュに向けて、「書ける新人」を目指してほしいと思います。
[日経電子版2016年11月9日付]

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