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米IT経営者、
トランプ政権とくすぶる火種

米IT経営者、トランプ政権とくすぶる火種
米アップルのティム・クックCEOはトランプ嫌いで知られる

 米アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)はドナルド・トランプ氏が米大統領選で当選した後、「何があってもともに前進しよう」と社員を鼓舞するメールを送ったという。

 クック氏といえば、ヒラリー・クリントン氏への支持を公言し、寄付金集めにも協力していたことで知られる。もともと民主党支持者が多いカリフォルニア州の経済界だ。トランプ氏が「アップルにはもっと米国で製品を生産させる」と選挙戦で言及したこともあり、暴論を振りかざす新大統領との今後に戦々恐々としている経営者が多いとしても、まったく不思議ではない。

カリフォルニア州、「米国から離脱」の声も

 クック氏は冷静な方だろう。アップルの姿勢を公の場で批判したトランプ氏の名前には、メールで言及していない。大統領選期間中のトランプ氏の罵詈(ばり)雑言を批判しているわけでもない。

アップルのティム・クックCEOは米大統領選後、従業員を鼓舞するメールを送った

 ただ、その文面からは、新しくホワイトハウスの住人になる東海岸の大富豪に対する不服従の誓いのような、内に秘められた反抗心の気配も漂っている。

 「アップルはすべての人間に開かれている。多様性に富んだ我が社に喜びを感じる。出身地、信仰。また、誰を愛するかは問題ではない」。メールの後半にはこう記されている。

 トランプ氏が勝利したことを受け、シリコンバレーを擁するカリフォルニア州では「米国から独立を」という過激なアイデアも飛び出した。英国のEU(欧州連合)離脱を指すBrexitになぞらえ、Calexitという名で連邦政府からの離脱を訴える動きだ。チューブの中を走る超高速旅客システムの実現をめざすハイパーループ・トランスポーテーション・テクノロジーズの創業者らがこれに同調している。

 トランプ氏が大統領の間は、カリフォルニア州は米国から独立した国家として運営し、任期が終わればまた米国に復帰するのだという。カリフォルニア州はフランスより経済規模が大きい。この動きは今後、米IT(情報技術)企業をどのように巻き込んでいくのか、目が離せない状況である。

シリコンバレー、海外出身者が活力引き出す

 もともと「米国には2つの米国がある」といわれてきた。「昔ながらの価値観を変えない米国」と「世界の情報革命をリードして変化する米国」であり、前者は東部や中西部、後者はシリコンバレーを中心とした西海岸を指した。その差は大きく、後者はあくまで政府の関与を遠ざけようとする伝統があった。

テスラ・モーターズのイーロン・マスクCEO(右)は南アフリカ出身。シリコンバレーは海外出身者を引き付けてきた歴史がある

 西の米国は世界中から人材を引きつけた。電気自動車メーカーとして存在感を増すテスラモーターズのイーロン・マスクCEOは南アフリカ出身だ。米グーグル共同創業者のセルゲイ・ブリン氏はロシア生まれ。今年亡くなった米インテルの共同創業者、アンドリュー・グローブ氏はハンガリーから移住した米国人だった。

 1995年から2005年に米国で生まれた工学・技術関連企業を対象にした調査によれば、それら企業の4分の1以上は創業チームの主要メンバーに海外出身者が加わっていた。05年までに創出した雇用は約45万人、収益は520億ドル以上に上ったという。

 トランプ大統領の誕生後も米国、とりわけ西の米国は人材を世界中から引きつけることができるのか。資本主義やグローバリズムを育んだ米国がその伝統的価値観を世界に広めるのをやめるとも予測される新政権下では、異質なものを受け入れ、イノベーション(革新)を絶やさなかった「米国」というシステムそのものが問われようとしている。
(編集委員 中山淳史)[日経電子版2016年11月15日付]

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