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「女性活躍」本当に進む?
夫婦控除見送り

「女性活躍」本当に進む?夫婦控除見送り

 女性が働きやすくすることをめざした「夫婦控除」の導入案が見送られました。政府が「女性活躍推進」と言っていたのはウソだったの?

 「女性活躍」を巡る最近の動きについて、石塚由紀夫編集委員の話を聞いた。

 配偶者控除に代わる「夫婦控除」の導入が見送られましたね。

 「2012年12月に発足した第2次安倍内閣は『女性が働きやすい環境を整え、社会に活力を取り戻す』という目標を掲げ、今年4月には女性活躍推進法が施行されました。そして今年の大きなテーマになったのが『配偶者控除』の見直しです。配偶者控除は、サラリーマンの妻の年収が103万円以下の場合に、夫は自分の所得のうち38万円を課税対象から外して税負担を軽くできる制度です」

 「配偶者控除については以前から、年収が103万円を超えないように働く女性が多くなるなど、女性の働き方をゆがめ、夫婦ともにフルタイムで働くよりも妻はパート勤務のほうが優遇されるという批判がありました。安倍晋三首相も『女性が就業調整をすることを意識せずに働くことができるようにするなど、多様な働き方に中立的な仕組みを作っていく必要があります』と発言し、制度の見直しを求めていました」

 「そこで、配偶者控除を廃止する代わりに、働いているか否かにかかわらず、夫婦であれば所得控除を認める『夫婦控除』を新設する案が検討され、早ければ18年にも導入される可能性がありました。しかし結局、この案は見送られることになりました」

 なぜ見送られたのですか。

 「政府が結婚を奨励するような制度はいかがなものか、という批判もありましたが、大きく影響したのは、有権者の反発を恐れる声です。夫婦控除が新設されれば、配偶者控除の対象外だった夫婦ともにフルタイムで働く世帯が減税になる一方で、妻がパートで働く世帯、とくに低所得世帯では税負担が重くなる可能性があります。年内から年明け早々にも衆院の解散総選挙があるかもしれないというムードが一時高まったこともあって、選挙への悪影響を懸念する政府・与党の政治家が多かったのです」

 「配偶者控除の適用条件は103万円以下から150万円以下に引き上げられます。しかしそれでも、これまで『103万円の壁』と呼ばれていた制約が『150万円の壁』になるだけで『壁』が残ることに変わりありません。『女性が就業調整を意識せずに働くことができる』『多様な働き方に中立的な仕組み』は実現できなくなってしまいます」

 育児休業制度の期間延長も検討されているそうですね。

 「現在、育児休業は原則として子どもが満1歳になるまで取得でき、子どもが保育所に入れないなど特段の事情がある場合は半年の延長が認められます。しかし、大都市部では待機児童問題が深刻で、育休を半年延長しても保育園に入れず、退職を強いられるケースがあります。そこで、育休を2年まで延長できるようにする案が出て、厚生労働相の諮問機関である労働政策審議会で9月から議論が始まりました」

 「ところが、最初の会合で委員のほぼ全員が育休の延長に異を唱えました。2年も休むと職場復帰した後のキャリア形成が遅れることに加え、休業者の仕事を同僚がカバーしきれないといった主張です。待機児童問題を解決するには保育所の整備拡充が本筋ではないか、都市部だけの問題なのに国全体の制度を変える必要があるのか、という批判も出ました。また、育休をとるのは大部分が女性という現実の中で、事実上、女性の家事・育児負担ばかりが重くなるという意見もあります」

 これから「女性活躍」は進むのでしょうか。

 「今後、人口が減少していく中で、働き手を確保し日本経済を維持していくには、女性がもっと働くことが必要不可欠です。大卒で就職する女性の数は、1999年には男性のほぼ半分しかいませんでしたが、今年はほぼ男女同数にまでなっています。ただ、女性が本当に活躍し続けられる社会を作るためには、根強く残っている性別役割分担の意識を変えていくことが必要になるでしょう」

ちょっとウンチク
女性の就労増、多くは非正規
 政府が女性活躍推進を成長戦略に据えて3年が経過し、成果と課題も見えてきた。総務省労働力調査によると、2012年から15年にかけて女性雇用者(役員を除く)は100万人増えた。この間、女性就業率(15~64歳)は年々高まり、15年は64.6%に達した。比較可能な1968年以降で過去最高だ。働く女性は着実に増えている。
 半面、増加した雇用者の内訳から課題も浮かぶ。正社員など正規雇用は2万人増にとどまり、98万人は非正規雇用。男性が主たる働き手である従来の状況は変化がなく、女性が持てる力を存分に発揮するには至っていない。
 女性の就労意欲をそぐとして、廃止が検討されていた配偶者控除も一転、存続が濃厚だ。育児休業の延長は、その取得者の圧倒的多数が母親である事実と照らし合わせて考えると、休業期間の長期化でキャリア形成が遅れるリスクは主に妻が被る。女性活躍推進のゴールは男女が同じように職場や家庭で活躍する社会であるはず。政府には、ぶれない姿勢が望まれる。
(編集委員 石塚由紀夫)

[日本経済新聞夕刊2016年11月21日付、日経電子版から転載]

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