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夢のがん新薬、高すぎる?
100ミリグラムで約73万円

夢のがん新薬、高すぎる?100ミリグラムで約73万円

 今年の製薬業界ではがん治療薬「オプシーボ」が話題になりました。「夢の新薬」といわれる効果ですが、1年で3500万円かかるという値段の高さが問題になりました。なぜそれほど高いのでしょうか? イチ子お姉さんとからすけが話しています。

イチ子お姉さん がん治療(りょう)薬「オプジーボ」(一般(ぱん)名ニボルマブ)はこれまで1万人ほどが使った新薬よ。でも、値段が高いため議論を呼んでいるわ。

からすけ 今年のノーベル賞候補にも挙がってたって聞いたよ。効き目はすごい薬なのに、もっとみんなが使いやすくならないのかな。

1年で3500万円 欧米の倍以上

 イチ子 京都大学の本庶佑(ほんじょたすく)客員教授がオプジーボの生みの親よ。小野薬品工業が本庶客員教授の研究成果を応用して開発。2014年に発売したの。米国の情報会社は今年、ノーベル賞の有力候補の一人として本庶客員教授を挙げたわ。

 からすけ すごいね。どんな研究成果なの?

 イチ子 本庶客員教授は、がんを攻撃(こうげき)する免疫(めんえき)細胞(ぼう)にPD―1という物質があることを発見したの。その後、がんは攻撃されないようPD―1にくっつき、免疫細胞の働きを抑(おさ)えていることが分かったの。本庶客員教授は、くっつくのを防げばいいと考えたの。そうすれば免疫細胞は攻撃をやめることなく、がんをやっつける。これがオプジーボの仕組みよ。

 からすけ そうなんだ。でも、すごさがいまいちよく分からないよ。

 イチ子 今までのがんの治療法は主に3つ。まず手術ね。がんを直接取り除く方法よ。次に放射線治療。放射線を浴びせてがんをやっつける。最後は抗(こう)がん剤(ざい)。がんが増えるのを薬で抑えるの。どれも、治す一方で体によくない点があるの。オプジーボは免疫細胞の働きを強くするだけだから負担が少なくて済むのよ。

 からすけ 夢の薬だね。

 イチ子 オプジーボは世界54カ国で使用が認められていて、日本でもこれまでに1万人程度が使ったの。効く人の中にはがんが見えなくなった人や、末期がんで効果がでた患(かん)者もいるわ。オプジーボの効き目は絶大といわれているの。ますます使いたいと思う人は増える見込(こ)みなのよ。

 からすけ じゃあ、もう手術や抗がん剤は必要なくなるのかな。

 イチ子 でも、オプジーボにも欠点がある。副作用よ。抗がん剤によって髪(かみ)の毛が抜(ぬ)けてしまうのと同じように、オプジーボを使うことで他の病気を起こしてしまうことがあるの。空気を十分に取り込めなくなる肺疾(しっ)患や、筋肉がうまく動かなくなる筋炎などが主な副作用よ。

 からすけ なるほど。

 イチ子 値段が高いことも課題ね。オプジーボは100ミリグラムで約73万円。米国の30万円、ドイツの20万円と比べてかなり高いわ。今のままだと、患者1人に1年間で約3500万円もかかるの。オプジーボは当初、患者数の少ない一部の皮膚(ふ)がん専用の薬だったわ。適用範囲が狭いと値段が上がり、国民の負担が大きくなっているのよ。

 からすけ 国民の負担って、薬代は患者が全額払(はら)うんじゃないの?

 イチ子 ドラッグストアなどで売っている薬は、薬を作っている会社が自由に値段を決められる。でも、医者が患者に渡(わた)す薬は処方薬といって、国が値段を決めるの。処方薬は医療保険の対象で、患者が払う費用は1~3割。残りは私たち国民が払う保険料と税金でまかなっているのよ。

<キーワード>
 医療保険 病気やけがに備えてお金を出し合い、負担を軽くする仕組み。職業により加入する種類が異なる。
 診療報酬 患者が医者から受ける診療行為の値段。医者の人件費、医薬品、医療機器にかかる費用も含む。

国は値下げを進めている

 からすけ 処方薬はどうやって値段が決まるの?

 イチ子 2年に1回の診療報酬(しゅう)改定で決まるわ。今年は改定の年だけど、春に終わったばかり。オプジーボは高すぎることが問題になったから、特例で来年度に値下げすることが決まっているわね。値段は下がる予定で、国は大きな幅で安くする方針よ。

 からすけ なるほど。

 イチ子 日本の薬剤費はずっと増え続けているの。高齢者が増えていることや、高額の新薬が増えてきたのが主な理由よ。今のままの税金や保険料だけでは足りず、負担はもっと大きくなってしまう。そうならないためにも薬の値段を安くすることは重要なのよ。

 からすけ みんなが使いやすくなればいいね。

 イチ子 オプジーボは昨年に肺がん、今年は腎(じん)細胞がんが保険の対象になったの。小野薬品は血液がんの一種でも適用を申請(せい)中よ。胃がんや食道がんなどにも効くか確かめる試験を進めているわ。適用対象が広がると値段が下がるの。副作用も抑えることができれば使いやすくなるかもね。

毒を薬に 研究者の努力

東京都立桜修館中等教育学校の荒川美奈子先生の話 「あおげ、あおげ!」「あおぐぞ、あおぐぞ!」。附子(ぶし)が入ったつづらに近づく太郎冠(かん)者と次郎冠者。風にあたっても危険な毒と主人が言い置いて出かけたにもかかわらず、扇子で風をよけながらつづらを開け、主人が隠(かく)していた砂糖を食べてしまいます。2人は掛(か)け軸(じく)や茶わんを壊(こわ)し、死んでおわびをしようと附子を全部食べたが、まだ死ねないと言い訳します。 皆さんも狂(きょう)言教室で鑑(かん)賞したことはありませんか。附子は植物のトリカブトからつくられる猛(もう)毒です。根のエキスは矢の先に塗(ぬ)って狩(か)りや戦いに使いました。しかし毒素を取り除く処理をしたトリカブトには鎮(ちん)痛・強壮(そう)作用があり、漢方薬として重用します。他にも植物や細菌(きん)の毒から有効成分を抽(ちゅう)出してつくった薬はたくさんあります。毒を薬に換(か)える努力を続ける研究者たちを応援(えん)しましょう。

[日経プラスワン2016年11月12日付、日経電子版から転載]

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