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研究者という職業(9)卒業論文で大事な4つのポイントとは

研究者という職業(9) 卒業論文で大事な4つのポイントとは
撮影協力:大東文化大学
authored by 中田亨産業技術総合研究所主任研究員

 研究者の仕事に、「論文を書く」ということがあります。日本の多くの大学では、卒業する際に、自分で深く研究したことを論文にまとめて提出します。いわゆる「卒業論文(卒論)」や「卒業研究(卒研)」というものです。

 卒論にどの程度の内容が求められるかは、大学や学部、学科によってずいぶん違います。文系の学部ではそもそも必修科目ですらないところが多いです。アメリカの大学では理系でも卒論はないのが普通です。建築系や美術系では、論文ではなく、作品を作ることで自分の見識と技能を示す「卒業制作」が課せられるようです。

 理学など基礎科学系の学問分野では、論文というものは「未知の探求」の成果を報告するものであり、そのためには高度な理論を構築したり、巨大な装置で実験しなければなりません。そこまで本格的な研究は学部生にはまだ無理ということで、すでに知られている現象でも自分なりに調べてレポートをまとめるだけでよいというところもあるようです。

卒論は参加賞、修論は努力賞

 一方、工学の分野では「何か新しい企てをやってみる」だけで論文になりますから、研究の素人である学部生でも、ともかく自分の力で何か研究をやってみて卒論にしなさいと言われます。

 卒業研究は、教育訓練の一環ですから、華々しい成果を得なくてもよいのです。卒論がしょぼいから、卒業できないということはありません。この大甘な判定基準は、大学院に入って最初の2年で書く修士論文でも同じです。「卒論は参加賞。修論は努力賞」と言われるゆえんです。

論文って何?

 卒論とは一体、何であって、どう書けばいいのでしょう。それについては連載「使える!ロジカルシンキング」に5回にわたってまとめておきましたので、そちらを読んでいただくとして、ここではエッセンスを振り返ってみましょう。

 まず、「論文」とは何か、です。論文とは、自分オリジナルのアイデアについて、次の4つのことをまとめて書いたものです。

 (1)何の問題を、なぜ解くか?
(2)どの解き方が一番よいか?
(3)どうすれば、その解き方を実行できるか?
(4)上記の論考について、十分な証拠を示すことができるか?

 この4要素が必要なことは、卒論でも博士論文でも学会誌に載る論文でも変わりはありません。

 考えてみれば、論文を書くこと自体はかなり簡単と言えます。というのも、上記の4つの問いに対して順々に答えていけばよいからです。第1の問いが「第1章 研究目的」となり、順に「第2章 解法の設計」、「第3章 解法の具体化」、「第4章 実証実験」などとなっていきます。

卒論が自分の原点に

 卒論は、自分で何かを深く研究して書きまとめる経験としては、多くの人にとってほぼ人生で初めてのことでしょう。だから、勝手の分からぬまま、見よう見まねで無理矢理書き上げて提出して済ませることも多いのです。参加賞なので、その内容は卒業したら忘れてしまうことも多いかもしれません。

 しかし面白いことに、就職や大学院進学の後の人生に、意外と卒論が関係することも多いものです。卒業研究そのものを研究し続けることは珍しいにしても、20年後、30年後といったスパンで、仕事や関心が何となく似たテーマに舞い戻ってくることがあります。私自身40代になって、「あっ、それは学生時代にかじったことがある」と思い当たることがしょっちゅうあります。

 卒業研究という、自分で考えて決めなければならず、しかも長期間の活動には、その人の個性が反映されます。卒論に振り回されているように見えて、実は自分の自画像になっているのです。研究の過程でいろいろな学問を「かじる」わけですが、それは自分の興味の過程でもあります。

 社会人生活が長くなると、仕事に自分の裁量が多かれ少なかれ利くようになります。その際に、自分の好きなものの方向に無意識に関心が向くようになります。そして、昔懐かしい卒論で厚かった題材に再会するというわけです。これは、小説家や作曲家にも見られる現象です。経験を積んだ後に取り組んだ人生の集大成というべき作品が、結局はデビュー作と同じ題材ということは珍しくないのです。

 このように、卒論は「参加賞」であると同時に、自分の一生を通じたテーマになる可能性があります。本当に関心の持てるテーマを見つけて、挑戦してみてください。