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発信!理系女子(6)冬休みに読みたい!
見るだけでも楽しい理系本

authored by 東北大学サイエンス・エンジェル
発信!理系女子(6) 冬休みに読みたい!見るだけでも楽しい理系本

 「理系の人って本読まないでしょ?」。いえいえ、そんなことはありません。理系にも本好きはたくさんいます。実は作家にも理系出身は多いのです! 今回は高校時代に年間100冊以上の本を読んでいた私、大澤沙優里が、冬休みの読書におススメしたい理系本を紹介いたします。文系、理系問わず、どんな分野の人でも読みやすいものを選んでみたので、気になるものがあればぜひ手に取ってみてください!

『世界で一番美しい分子図鑑』セオドア・グレイ著(ジャンル:化学。とりわけ有機化学、高分子化学/創元社)

 私たちの身の回りは様々な分子が溢れています。私たち自身でさえ、アミノ酸という分子を単位とするタンパク質を成分としてできています。本書は、食物・染料・香料・線維といった身の周りのものを化学式で表し、その分子に由来する特性を解説してくれます。パラパラとめくるだけでも楽しいですし、著者の言葉の言い回しも痛快です。少し長いですが、印象的かつ最も共感できた箇所を引用しておきます。

 "食品、栄養サプリメント、化粧品、さらには洗髪料まで、広告で「すべて天然」「有機(オーガニック)」「化学物質ゼロ」と謳っているのをよく見かけるでしょう。こうした表現を見るたびに、化学の知識を持つ人々は苛立って髪をかきむしります。なにしろ、私がかきむしっているこの髪の毛を含め、あらゆるものは化学物質でできているのですから。あなたが食べたオーガニックのリンゴも、その正体は数百種類もの化学物質です。良いものと悪いもの、天然のものとそうでないもの、健全なものと金儲けのためのものを区別するために、意味のある形で「有機」という単語を使う方法はどこにもありません"
人類は化学を進歩させてきました。この本の独自の視点は、その進歩の裏ではどのような分子構造の変化があったのかを視覚的にわかりやすく解説しているということです。高校以来、化学とは無縁という人にもおもしろい1冊です。

前回の記事で紹介した「元素図鑑」の姉妹本にあたります

「甘さ」にも、いろいろな種類の分子が関わっています

『賢治と鉱物』加藤碩一・青木正博著(ジャンル:地学、文学/ 工作舎)

まさに、「詩と科学の最も美しい結合」!

 「りんどうの花は刻まれた天河石(アマゾンストン)と、打ち砕かれた天河石で組み上がり、その葉はなめらかな硅孔雀石(クリソコラ)で出来ていました」(童話『十力の金剛石』より)

 代表的理系作家のひとり、宮澤賢治は現在の岩手大学農学部の出身であり、こよなく鉱石を愛したことでも知られています。詩歌や物語といった作中に、多くの鉱石になぞらえて色彩を描写し、彼の世界観を彩りました。この本は、そんな賢治の作品にでてくる鉱石を、実際の鉱石のプロフィール・鮮やかな写真とともに、色別に解説しています。

これが「硅孔雀石(クリソコラ)」です。美麗!

 ちなみに冒頭の天河石は緑がかった青色、硅孔雀石は深みのある緑色を指しておりますが、その色合いの美しさたるや、文字では表現することができません。

 写真が本当に美しいので、一見の価値ありです。賢治の心象にあったであろう風景を追体験することができます。

『脳の中の幽霊』V. S. ラマチャンドラン、サンドラ・ブレイクスリー著(ジャンル:脳科学、時に哲学/角川書店)

 数ある理系の分野の中でもとりわけ物語的といいますか、数式や化学式よりも言語によって叙述され発展してきた分野が脳科学です(※素人筆者の見解です)。筆者も昔から大好きな分野で、サイエンス・エンジェルの活動では高校生に池谷裕二さんのブルーバックス『進化しすぎた脳』をおすすめしています。今回は少しレベルを上げて、海外の著名な神経科学者のひとりであるラマチャンドラン博士の本をご紹介します。

 ラマチャンドラン博士は、「幻肢」に関する考察とその解決策を提示したことで有名です。「幻肢」とは、例えば事故などで手足を失ったにも関わらず、失ったはずの手足がまるでまだ存在するかのように痛みやかゆみを感じたりすることです。

 幻肢だけではありません。博士の元を訪れる、奇妙な症状を呈する患者たち。これらの症状に対して、触覚のような「感覚」が脳のどの部位とどう関係があるかなど、博士は脳科学的観点から症状を治療していくとともに、哲学的な問いかけをしばしば投げかけます。「なぜ人間は、空間や時間を通して自分を一人の人間として維持できるのか」「意識とは何か」...。哲学者は論理的なアプローチを試みますが、科学者は実験によりその答えを模索します。実験により論理を構築するさまは、読んでいて気持ち良さすらあります。

文庫版も出ています。脳科学ではラマチャンドランの他にオリヴァー・サックスなんかも有名ですね

友人と感想を話し合うのも本の楽しみのひとつです

 いかがでしょうか。気になる本はありましたか?ちょっと時間を持て余す長期休暇、異分野の世界に触れてみるのも楽しいですよ!
(大澤沙優里)

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