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僕ら流・社会の変え方(23)シンギュラリティ時代のまちづくりとは

横尾俊成 authored by 横尾俊成NPO法人グリーンバード代表/港区議会議員(無所属)
僕ら流・社会の変え方(23) シンギュラリティ時代のまちづくりとは

 前回は、AIが私たちの生活と切っても切り離せない時代にあって、自分の好きな仕事や、やりたい仕事を選ぶポイントについて書きました。今回は、こうした世の中の流れを踏まえ、まちづくりに今必要な視点の話をしたいと思います。

「シンギュラリティ」が社会問題を解決する?

 突然ですが、みなさんは「シンギュラリティ」という言葉を知っていますか? これは「人工知能が人間の能力を超える時点」を指します。そして、2030年~2045年にはこのシンギュラリティが訪れると予想されています。

 一般に以下のようなことが起こるとされています。

・人間が言葉を発しなくても、簡単にコミュニケーションがとれるようになる
・エネルギーの生産コストが限りなくゼロに近づき、たとえばLEDでの水耕栽培で多くの食物をつくることができるようになる
・それにより、世界の多くの食糧問題が解決する
・一次産業が完全に自動化する
・日本の労働人口の50%が就いている職業は、ロボットで代替可能になる
・それにより、2030年度に日本の雇用は700万人分以上、減ってしまう

 数え上げればきりがありませんが、シンギュラリティを迎えると、今ある「当たり前」が「当たり前」ではなくなります。社会にある課題が課題でなくなる一方で、また新たな問題が起こりうるのです。

 こうした状況を踏まえると、今するべき議論も対処も大きく変わってきます。僕のテーマである「まちづくり」についても、近い未来に起こる技術の革新を踏まえた上で、議論を展開しなければならないのです。

まちづくりの担い手を変える

 一方、現在、まちで起きている論議を一つひとつ見てみると、必ずしもそのようにはなっていないことがわかります。なぜなら、まちづくりに関わる人に、圧倒的に理系的な知識を持っている人がおらず、デジタル領域に精通している人はほんのわずかだからです。行政の職員は事務系の人間が大半ですし、清掃や防災活動などのまちづくりに携わる町会・自治会商店街などの関係者は、一般に高齢化していて、若年層の加入率は低迷しています。

 実際に、地域活動に参加する人の平均年齢は50~60歳となっており、シンギュラリティが起こる2045年には、この世代は現役から引退してしまっています。「デジタルネイティブ」と言われ、AIやインターネットテクノロジーに精通しているのは今の20代ですが、この世代の参加率は4%となっています。

 シンギュラリティが訪れ、社会課題の内容と質が大きく変わるとされている時代に対応したまちづくりを進めるには、特に20代の若者、すなわち、今までまちづくりに関わっていなかった人や、政治を遠いと思っている人たちにもっと参加してもらわなければなりません。新しい感性や視点をまちに取り込むことが大切です。そして、シンギュラリティで、例えば地域の多くの雇用が失われてしまった後に新たな技術を使って雇用を生み出す方法を、みんなで考えるのです。

 まだ解決されないまま、まちにある、もしくはこれから訪れる社会問題に対処するためには、今までにない視点を取り込んで発想をし、アイデアを生み出すことも重要です。年齢のみならず、例えばアートの分野で活躍する人たちに積極的にまちに関わってもらうことも必要でしょう。

アート集団が政治を変える?

 オーストリアのリンツ市には、アートの感性や視点を取り入れたまちづくりを志向する集団があります。「アルスエレクトロニカ」です。この組織が発足した当時のリンツ市のイメージは、「灰色の工業都市」でした。課題ばかりのまちを良くし、さらにこれから訪れるであろう技術革新に対する市民のリテラシーや感度を高めるべく行政と市民がとった戦略が、この地に新進気鋭のアート集団をつくろうというものでした。

 ここでは「未来の都市のデザインを行う」いうコンセプトのもと、市民が都市にどう関わることができるかといったことをアートという切り口から捉え直し、実践しています。様々な社会実験を重ね、まちづくりの現場にアートの視点を積極的に取り入れているのです。市民とクリエイターがワークショップを重ね、まちの中の寂れたもの、インフラ(建物や道路など)をリデザインし、アートの力で市のイメージを変えることに成功しています。

 日本でも、NTTとこのアルスエレクトロニカが、ICTとアートを融合したテクノロジーの共同研究を発表しました。2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、日本の新しいおもてなしのあり方を考えるプロジェクトを実行するとのことです。

 他にも、アートを活用した地域活性化の事例はあります。例えば、茨城県を中心に活動する「ART ROUND EAST」です。彼らはJRやつくばエクスプレスの沿線地域を中心とした東東京地域で、アートを活用した活動を様々に行っています。ここでは、公民館や市の生涯学習施設をデザインし直したほか、まちの人とアーティストがともに未来を考えるワークショップを開催したり、地域のお祭りに新しい人が関わってもらえるよう、みんなでデザインできるオブジェをつくったりしています。アートを入り口に、人々が地域やまちについて考えることを促しています。

日常でも「異なる視点」を取り入れる

 アートがなぜ、手詰まり感のあったまちづくりの現場で力を発揮しているのでしょうか。それは、アーティストがまちづくりの新たな担い手として、まちにこれまでとは違った発想をもたらしているからです。日本にはまだ浸透してはいませんが、「ソーシャリー・エンゲージド・アート」という考え方があります。これは、アートには、日常の課題や社会の課題を別の視点から見ることを促す力があるため、それを積極的に活用していこうというものです。まだしっかり邦訳されていないくらいですから浸透はしていませんが、これからの活躍に期待できそうです。

 ちなみに、アート的な発想、異なる視点から物事を考えようという姿勢は、日常でも役に立ちます。例えば、自分の携わっているプロジェクトなどで行き詰まってしまった時は、自分とは全く違う分野の人や考え方を持った人と話したりすると、新たな考え方で物事を捉え直すことができます。今の積み重ねではなく、理想的な未来に思いを馳せること、また、今世の中にないものを別の視点で考えてみることは、思考の訓練にも大いに役立つと思います。ピンと来た方は、早速美術館などに行ってみてはいかがでしょうか。