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僕らの地域のつくりかた(5)若者が街づくりに参加したくなる
ポートランドの魅力

後藤寛勝 authored by 後藤寛勝NPO法人 僕らの一歩が日本を変える。代表理事
僕らの地域のつくりかた(5) 若者が街づくりに参加したくなる<br />ポートランドの魅力

 新年明けましておめでとうございます! NPO法人僕らの一歩が日本を変える。代表理事の後藤寛勝です。前回の記事でご紹介した総務省の企画(http://www.joqr.co.jp/reco/senkyo/)が年末に無事終了し、組織としても個人としても新たな気持ちで新年を迎えました。2017年もどうぞよろしくお願い致します。

 さて、僕は昨年の夏に「全米一住みたい街」に選ばれている、アメリカオレゴン州にあるポートランド市を訪問しました。現地でのフィールドワークや大学や行政の職員の方々の数日間の研修で学んだことは、若者からお年寄りまで住んでいる人々が『思わず参加したくなる、住みたくなる街』をつくる都市政策です。今回は、そんな街を作る仕掛けを紹介しつつ、僕ら若者でも考えておきたいこれからの地域のつくりかたを探っていきたいと思います。街づくりに興味のある方のお役に立つことができれば嬉しいです!

仕掛けその1:行政の優れたコンセプト設計

 まず、僕がご紹介したいポートランドの特徴は、都市成長境界線というものが設けられている点です。これは、「この地域は◯◯をやる地域にしましょう!」という取り決めを行うための境界線です。つまり、農業を活性化させる地域は徹底的に農業をやる地域に、交通を充実させる地域は徹底的に公共交通機関を整える地域に、といった具合に、市内の中心部と郊外を区切った上でその地域のコンセプトに基づいて行政運営を行っているということです。これによって、一次産業やさらには自然環境までもが守られ、都市の開発は発展的にスピード感を持って進みます。

ポートランドの都市部の風景

 日本にも、"都市計画区域"といって、市街地とそうでない地域の都市計画の区切りが設けられていますが、市民(特に若者)にとってはイマイチ機能していないように思えます。地方出身の方だと共感してくださる方もいるかとは思いますが、例えば家の前にあった田んぼなくなり、"気づかないうち"に大きなビルやマンションが建ってしまっていたり、昔ながらのお店が"気づかないうち"になくなって代わりに複合的なショピングセンターができていたり。日本のものと、ポートランドの都市境界線との違いはそこに対する市民の「合意」が足りない部分ではないかと思っています(ポートランドの合意をつくる仕組みについてはまた後ほど触れます!)。とにかく、地域のもつ産業や自然などの魅力を守りながら、都市をアップデートするためには、コンセプトに基づいた街づくりは欠かせないポイントになりそうです。

仕掛けその2:移動が楽しい! 車いらずの便利な交通政策

都市部でもファーマーズマーケットが至る所で開催されています。ポートランドの一次産業を発展させるための自産自消も進んでいます!

 大学入学と同時に上京してきた僕が、地元で頭を悩ませているのが「移動」です。車がないと遊びに行くことも、買い物に行くこともできない現状があります。そんな悩みを吹き飛ばすように、公共交通政策が充実しているのもポートランドの都市政策の特徴です。日本のJRのような事業会社の統一体「TRIMET」が運営する路面電車やマックスというライトレールなどが街を走り、誰もが移動しやすい街になっています。さらに、都市圏内ならば運賃は一定、バリアフリーも進んでいるので若者からお年寄りまでもが気軽に手軽に利用できます。実際に市の公共交通機関を駆使すれば、30分以内で空港を含め職場にも買い物にも行くことが可能です。とても便利でした!

ポートランドの公共交通

 また、最近ポートランド市はオレゴン州に本社を構える「NIKE」とコラボして、市に1000台ものシェアサイクルを設置しました。この自転車はポート間の利用だと2.5ドル、1日乗り放題でも12ドルと、比較的お財布にも優しく移動が可能です。電動アシストがあるので、長時間運転しても疲れず楽しく移動ができました。

 魅力的なのは、ポートランドはどんなことがあっても"歩行者優先"な点です。この街には"徒歩20分の街づくり"という考え方があります。徒歩で20分の所要時間で通勤、ショッピングを行うことが可能である街づくりを行おうという考え方です。ポートランドは1ブロックの長さが米国の一般的な長さの約半分で、道路幅も短く設定されています。そのため、通常より歩くたびに景色が変わり、街のいろいろなところに目が行きやすくなり、その結果、歩くことが苦にならない工夫がされています。ちなみに、ストリートカーやライトレールのデザインも歩行時に目に入る景観を邪魔しないようにデザインされています。

仕掛けその3:政治家はたった5人。政治参加の仕組みづくり

NIKEBIKEは、街の景観を害さないデザイン

 今からご紹介するこの仕掛けこそ、ポートランドが「全米一住みたい街」として呼び声が高い一番の理由だと思っています。先ほど、ポートランドではコンセプトに基づいた行政運営が行われており、市民の合意をつくる仕組みができていると書きました。まず、ポートランドは人口60万人に対して、政治家が5人しかいません(もしもピンとこない方がいたら自分が住んでいる自治体の人口と議員さんの数を照らし合わせてみてください!)。これ、実はとっても少ない数です。

 ポートランドでは、市長を含む5人の政治家が、行政の各部局を担当し、行政運営を行うコミッション制(委員会制)が採用されています。委員会は、5人の政治家だけではなく、市民や市民団体主体で議論が進みます。この制度で注目したいのは、政治家と市民の関係性です。政治家は"ファシリテーター"的な役割で、市民主体の提言やアイデアを実現するための土台づくりを行います。そして、市民や市民団体は、実行部隊として「自分たちの街をこうしたい」という考えを実現するために行動します。

 さらに、日本の町内会や自治会に似た「ネイバーフッドアソシエーション」という「政治を変える小さなチーム」が地域単位で存在しています。ここでは若者からお年寄り、クリエイターやアーティストなど多様なバックグラウンドを持った人が参加し、定期的に街についての議論を行っています。さらに、市に95個あるこのチームは、行政の公認組織。良い提案には予算がつき、アイデアだけでなく、実行することで街に「参加」することになるのです。このような仕組みが成り立っているからこそ、行政がコンセプト設計を行えばそこに合意が生まれ、自ら参加したくなる街が出来上がっていくのだと思います。

街は発展しているのに、自然は守られ、歩きたくなる道に

若者でも、お年寄りでも「参加」したくなる街をつくるために

 今ご紹介した『参加したくなる、住みたくなる街』になるような仕掛けは、「自分たちの街なんだから、自分たちで住みやすい、暮らしやすい街を作っていこう!」という市民の文化から生まれているのだと思います。ポートランド市では歴史背景的に、若者もお年寄りも関係なく市民の多くは「自分たちが街を担っているんだ」という自覚や責任があり、小さくても街を変える経験をたくさんしているからです。

 例えば、市の広場である「パイオニアスクエア」。もともとは高層駐車場が建設される予定でした。しかし、市民の「市の真ん中なら広場の方がいい」という声により計画が一転し、資金集めや広場のあり方の考案から市民主体で、駐車場の代わりに広場が建設されることになりました。今も市民の憩いの場になっています。また、1960年代、ポートランドでは高速道路建設が市民の反対運動により中止になりました。道路建設に割り当てられていた予算は、ライトレールや路面電車などの主要交通の整備にあてられました。ここから本当に"街を変える"市民運動が盛んになったと言われているそうです。

海外の若者と日本の若者の政治意識の差についてお話しできました!

 さらにこのような市民の文化は、街づくりだけでなく、若者の起業文化の発達にも影響を与えています。市内にはいくつもの起業支援施設があり、資金提供や環境への投資が行われているのです。現在、起業するためにポートランド市に移住する若者も多くいるそうです。研修中は、若者の政治参加促進をおこなっているNPO「THE BUS PROJECT」のCEOのニッキーさんとも意見交換。若い頃から「この街のために何かしたい」や「自分たちにはこれができる!」といった前向きな気持ちを持つことができて、それに対して起業という選択肢を選ぶことのできる街はとても素敵ですよね。

空き地を公園にして子供達の遊び場を提供しているNPO、「depave」のCEOエリックさんとも面会