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からくり書き時計、誕生(5)僕が目指すのはデザイナー兼エンジニア

鈴木完吾 authored by 鈴木完吾東北芸術工科大学プロダクトデザイン学科2016年卒
からくり書き時計、誕生(5) 僕が目指すのはデザイナー兼エンジニア

 こんにちは! 鈴木完吾です。前回は「書き時計」の本制作についてお話しさせていただきました。今回は本制作の話の後編として「書き時計」がバズった(ツイッターにて話題になった)時までを話していこうと思います。よろしくお願いします!

「書き時計」のデザインについて

 制作の後半に、「そういえば書き時計全体のデザインについては特にスケッチもしていなかったな」と思い出しました。が、要らなかったと後々感じました。それは、「書き時計」のデザインが思いのほか好評だったからではありません。機能美を追求して部品の構造・レイアウトを考えていった結果、そういう形になったからです。「左右対称にしたい」という意志はありましたが、そこからの構造を考えていくのはパズルを解いていくような感覚です。その中でより効率的な構造や配置ができるよう考えていきました。

 全体の形状から考えていくのも1つの方法ですが、市場の製品のような枠に詰め込んだものの構造というものはどうも「まとまったふう」に見えるもので、内部を覗いた際に機能美を欠く部分が出てくるのではないか、と思いました。機械式時計と同じように、「書き時計」は内部の構造がデザインに直結します。「書き時計」のテーマは「構造の可視化」ですから、からくり機構の持つ機能美を優先的に考えながら、全体としてのまとまりのある「最適解」を目指してデザインを検討していきました。

 電気を使わないからくり時計にした理由も、この「構造の可視化」にあります。からくり時計ですから電気を使いたくないというこだわりもありましたし、電気的なものを使ってしまうと構造がブラックボックス化してしまう部分が出てきてしまい、作品として中途半端なものになってしまうと考えたからです。普通、電気を使うというのは手段であり目的ではありませんが、「書き時計」においては「電気を使わない」というのが1つの目的になっています。また、電気を使った制御の大半は電気を使わない機械的な構造で実現できる、と僕は考えていたからです。

制作も追い込みの時期に

 パーツも大方削り終えた頃から制作にプレッシャーを感じるようになりました。「大きなミスをしてしまったら、もう修正ができなくなる」ということでした。動くプロダクトを制作している以上、模型のように動かないものを展示するわけにはいきませんから、ミスの一つが大きな命取りとなってしまいます。

 「書き時計」はデータでは完成していましたが、その動きについてはほぼ完全にイメージのみの設計(物理演算のソフトとスキルがなかったので)だったため、組み立ててから判明する問題も多くありました。例えばトルク不足についてです。

 トルク不足とは動作させるための力が足りないということですが、想定していたよりかなり重くなってしまいました。重くしすぎると木材の強度が足りず、歯が欠けてしまうという事態が起きてしまいます。特におもりから近い部分の歯車にはかなりの力が加わります。「書き時計」もおもりを重くしすぎたせいで、歯車が欠けてしまったことがありました。その時は急遽、歯車のモジュール(歯の大きさ)を変更したりして修正していきました。本来、考えられる懸念事項というのは制作前にあぶり出しておくべきですが、当時の僕にはそれが足りず、走りながらマラソンのコースを考えるような制作になってしまいました。そこは反省です(足りてたらもっと良くなったかも......)。

 また、卒業制作は大抵、お金との戦いでもあります。そのため全ての学生は自分でできる部分は手作業で加工したりして、いかにしてコストを減らしながら市場の製品に近づけるかを考えています(偏見ですが笑)。なので、卒業制作展とは作り手のアイデアやデザイン展開が見られるだけでなく、制作までの根気までも見られる展示でもあります。

 僕の場合、特にからくり時計というのは外観よりも内部構造を見せるようなものですから、部品一つひとつに気を配り制作していきました。内部を覗いたお客さんにがっかりしてもらいたくありませんでした。

ツイッターで「書き時計」がバズった時

 ちょうどその時は組み立ても終わり、動かない部分に潤滑剤を注して動作テストを行っていた頃で、大反響があったあの動画も動作の確認テストを行った際のものでした。ですので「書き時計」は卒業制作展より少し前に知られることとなりました。

 その頃はうまく動かなかったりして死んだ魚のような目をしていたと思います。潤滑剤を注していい感じに動いて、卒業制作展の前日だからツイッターで友達くらいには見てもらいたいかな、と思って投稿したものでした。

 16秒ほどの短い動画のツイートでしたが1時間ほどで1万リツイートを超え、次の日には大学で騒ぎになりました(関係者の方にはご迷惑をおかけしました)。「アナログに作られたものがデジタルに広まりましたね」と誰かが仰っていました。本当、面白い世の中だと思いました(笑)。

 今回の話は以上になります。僕の考える「最強」とは、デザイナーであり、エンジニアである人間です。よく、デザイナーとエンジニアは喧嘩をすると言われていますが、それは双方がそれぞれの中での「最適解」を持っているからだと思います。技術も理解しているデザイナーだったら、デザインを考えられるエンジニアだったら、もっと柔軟に本当の意味での「最適解」をみつけられるはずです。僕はこれからも自分の思う「最強」を目指し、ものづくりをしていきたいと思っています。