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[ liberal arts-大学生の常識 ]

日本を叱咤
シリコンバレーで感じた世界の期待

野口功一 authored by 野口功一PwCコンサルティング パートナー
日本を叱咤<br />シリコンバレーで感じた世界の期待

 先日シリコンバレーに行ったとき、ある有名な社会課題解決開発プログラムを視察した。そのプログラムには、世界各国で行われる予選コンテストをくぐり抜けた人が各国の代表として参加できる。

 えりすぐりの約80人がいくつかの社会課題テーマごとにグループに分かれ、10週間、寝食を共にして解決案を考え抜く。案だけでなくその事業化まで計画する。実際にそこから生まれたスタートアップ企業も存在する。

 意見や価値観をぶつけたり、徹夜で議論した結果がダメになったりするなど、混乱(カオス)や挫折の繰り返しのようだった。そうしたカオスの中から10週間後にはきっちりと結果を出してくる。そんな様子に本当の知恵が生まれるのはこういうことだというのを見た気がした。

 私は彼らとランチや夕食を共にしながらいろいろな話をした。その中で彼らの日本に対するイメージが今の私が感じているネガティブなイメージとは違うことに気づいた。

 「ジャパンパッシング」と言われるようになって久しい。私がまだ駆け出しのコンサルタントだったころは、海外の大企業は「ジャパン担当」といったような部署を持っていた。今は「アジア担当」や「極東担当」などである。そのようなカテゴリーの中で日本は中国や東南アジアなどより優先順位が低い。私はそのようなイメージを持ちながら彼らと話をしていた。

 だが、彼らは日本の技術力や勤勉な国民性、教育水準の高さ、ビジネスでの信頼性などを語ってくれる。私が日本人だから気を使っていたように思っていたが、そうではなかった。「日本はすごいのに何をしているんだ」という叱咤(しった)激励のような口ぶりであった。

 やはりシリコンバレー滞在中に米西海岸の有名大学の名誉教授と話をする機会があった。彼に「今の日本に対する期待というのは存在するのか?」とネガティブな質問を投げかけたところ、「もう数えきれないくらいある」との回答が返ってきた。

 人工知能(AI)やロボットなど様々なテクノロジーが人間の生活により同化してくる時代になり、世界中にあるハードウエアやソフトウエアが集められて人類に貢献していく。それらを取りまとめるのに日本は大いに役に立てるというのだ。

 かつて日本の大企業は世界を席巻した。そのとき、実現が難しそうなアイデアを考えたり、様々な技術を組み合わせたり、損得抜きで最後まであきらめなかったりした。こうした努力が多くの優れた製品やサービスを生み出してきたのだと思う。

 バブル崩壊以降、日本は立て直しに追われ、そのような環境や文化を失った。だが、新しい技術が生み出されてくる中で、日本はその本領を再び発揮できるのかもしれない。日本特有の曖昧さや人の和を大切にする考え方が、答えのない世界や多様性の中で強みになる可能性があるからだ。その強みを伸ばして世界に貢献するには、多くの課題がある。日本という国は世界中から優秀な人材が集まり知恵を絞るような環境にはなっていない。今回視察したプログラムの参加者80人の中に日本人はいなかった。

 世界は日本の潜在能力に期待している。その期待に応えるには、日本を知恵や技術を生み出す場として魅力のある国にする必要がある。規制や法律の問題はあるが、今の仕組みでもそうした取り組みは十分にできるはずである。
[日経産業新聞2016年10月25日付、日経電子版から転載]

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